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その「いいね」は本当にいいねと思ってる?

作者: あ、まん。


 もうすぐ高校を卒業する男……PN「宵空リュウセイ」は、昨年夏に開催されたネット小説コンテストで特別賞を受賞した。


 今までネット小説やSNSで「いいね」も「☆」もほとんどもらえなかった宵空リュウセイは歓喜に打ち震えた。


 受賞後、SNSで百人もいなかったフォロワーも一気に十倍以上に増えた。

 宵空は就職なんて正直ゴメン被りたかった。


 上司に偉そうに昔の武勇伝を語られて、それを聞いたり、合いの手を入れたり……。


 飲みニケーション? ナニそれ?

 アフターコロナの今、無くなった過去の遺物じゃないの?


 だけどオレは小説(これ)でメシが食っていける。

 「働いたら負け」、どこかで聞いたフレーズを思い出す。

 だから自分は人生の勝ち組だと、宵空は思った。


 SNSのつぶやきもネットの活動報告でも「いいね」が貰える。


「いいね」を押してるその多くは同じ創作者連中だ。


 その人がどれくらいの作品が書いてるかを一人ひとりその人のページに飛んでチェックする。


 多くはパッとしない連中。

 付き合うに値しない。

 中には自分よりも読まれてて評価を多く稼いでるヤツもいて腹が立つ。

 オレの作品の方が面白いのに。。。


 長編ものの他に創作論の方も書いてみる。


『書籍化はその気になれば簡単だけど?』

 こんな感じで偉そうなことを書いても皆、「いいね」してくれるし、評価もくれる。



 ──だろ?


 オレはもっと書けるし、もっと世間に評価してもらわないと困る。

 親に進路はもう大丈夫だからと部屋に籠り執筆に明け暮れる。

 四月、進学や就職せず、書籍化のため編集担当者と打ち合わせを重ねる。


 マジか……。


 接続詞や副詞の削除や調整、文節の入れ替え、二巻以降のプロットの提出、重言……なんじゃそりゃ。


 それを五日以内、無理だろ! んなもん。


 結局、一週間ほどかかって提出すると、キャラの感情表現が弱い、プロットがチグハグでもう少しなんとかしろ?


 この編集者、今年、採用されたばっかのペーペーのくせに随分と偉そうなコトを言ってくれる。

 これで賞取ってんだから、このままでイイじゃん?


 新人の担当編集者と何度も電話とメールを応酬する。


 七月に入ってようやく第一巻が発売された。


 よし、これでますますネット上の作品も読まれて本も売れるだろ?


 ✜


 十一月、念願の印税の収入が銀行に振り込まれてきた。


 ──二十万。


 はあ!? 

 ふざけんなよ。

 あんなに苦労してこれっぽっちじゃ一人暮らしもできないじゃん。


 久しぶりに小説サイトを覗くと、受賞した長編ものにレビューコメントが結構入ってる。


 お、やったか。

 ようやくオレの才能をわかってくれたか?


『ツマラナイ作品』

『何で賞が取れたの?』

『本出してて草』


 ☆一つでいいたいことを言ってくれてる。


 ふざけんな。

 オレは創作論の作品やSNS、活動報告のところで猛り狂う。


『イキリ過ぎ笑』

『何バカなの? う〇こなの?』

『ヤメロお前ら、コイツにはもっとイキって貰わないとオレ達が困るだろ?』


 書けば書く程、色んなところが荒れて炎上していき、荒らしコメの削除とユーザーブロックに多大の労力が必要となる。


 活動報告のところで何人かの同じ創作者から注意めいた書き込みがされる。


『お気持ちは分かりますが、読者の皆さまには感謝の気持ちをもって接しましょう』


 は?

 こんな荒らす連中に感謝の気持ちを持つ? イミフ(笑)


 タダで読ませてやってんだから感謝される方だろ?


 翌月、出版した編集から連絡がきた。

 いつもの新人と違って、なんかベテランっぽいオッサン。


 はぁ!?

 第一巻で打ち切り?


 待て待て待て……。

 第二巻以降のプロット出しただろ?


 本の実売部数が想定より低かった?

 そんなの出版社そっちの宣伝の仕方が悪かったんだろ?


 にべもなく通話を切られた。


 あ、そう。

 別に他のところでデカい賞を獲って、ふざけた読者と編集者を見返してやるよ?




【三年後】


「〇〇、アナタいい加減、就職しなさい」

「うっせーな、ババぁ、もうすぐ……、もうすぐなんだよ」


 あれから三年経ち、SNSではアカウントを変えても、すぐに特定されて攻撃を受ける。

 ネット小説で新作を書いても、昔に戻ったかのように誰にも読まれなくなった。

 唯一、書籍化した作品の外伝を小説サイトではなく、自費を掛けてネット上で出して、少しだけ読まれるが、全話無料のキャンペーンのコマに使われ、手元に金がほとんど入ってこない。


 久しぶりに例の小説投稿サイトを開く。

 書き込み時期は三年前、活動報告のところに同じ創作者のひとりの書き込みが残されていた。


『あなたへの〝いいね(・・・)〟は反面教師として(・・・・・・・)いいね(・・・)〟を押させてもらってました』


 続けて下の方を読む。


『私は執筆活動を終えますが、あなたの事はずっと好きになれませんでした。さようなら』



 オレは、PC上に映っているその小説投稿サイトを静かに閉じて、新しく頁を開いた。




『求人募集サイト』



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