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転生神ドルンドルンのちょっとHな世界創造譚  作者: 石たたき
第一章 目覚め
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2.宮殿の光と影

 俺はその場に立ち尽くしながら、俺のものではない記憶にそっと意識を寄せた。


 通常、記憶を思い起こす際、小さな苦労が生じることがあるかも知れないが、大きな苦しみはない。しかし、ドルンドルンの記憶にアクセスする時は、慣れない頭脳労働を行うかのような疲労があった。合わせて、情報の種類、探求心の強弱によって、その疲労度も異なるようだった。


 つまり、簡単な問い掛けであれば容易にその答えを取り出すことが出来るが、そうでなければ時間と精神力を要する。


 さて、この体の元来の持ち主はドルンドルンといって、神々の一人であるらしい。そして神にも色々な種類、階級がある。悲しいかな、ドルンドルンは低級神であり、役割からすると上位神の小間使いに近い。


 俺は神々の下には天使がいると思っていたが、どうやらそうではないらしい。ただ、納得も出来る。そもそも天使の役割というのは神の使いであり、それを低級神が代行すれば、確かに何の問題もない。


 低級神に与えられた役割は幅広い。例えば環境の保護や、上位神の単純な補佐役。それから特定の種族の栄枯盛衰えいこせいすいを見守る者。ドルンドルンはこれにあたり、彼は人間を管理する神であった。


 人間を導き、見守り、時に介入する。それは俺から見ればまごうことない神の概念だ。しかし、俺はなぜ、そのような立派な立場の者が低級神などと呼ばれ、他の神々に蔑視べっしされなければならないのだ、と疑問に思った。


 その答えは遠くなく明らかになる。


 だが、それは差し置いて、今はルナータを追わなければならない。俺とルナータの仲は良いものではないが、立場上、関わり合いが必要になるとのことだ。関係性を悪化させたままでは都合が悪い。


 もちろん下心もある。もともと、俺の人生からすると、あのレベルの女性となるとなかなか近付けない存在だ。ただ、俺自身としては、もう少し身長や肉付きが欲しいと思っており、そこだけは残念に思う。


 宮殿は高くそびえる塔と壮麗そうれいなアーチで構成されていた。内部の壁面は金や宝石で装飾され、周囲から降り注ぐ陽光を受けて、眩いほどに輝いていた。回廊には神々を模した彫像ちょうぞうが立ち並び、各室内には絵画が展示されている。床は大理石で覆われ、なめらかな光沢を放っており、正にぜいの限りを尽くしていた。


 手近な窓から外を見ると、眼下には遥かな雲海が広がっていた。碧空へきくうがどこまでも伸びて、空以外には何も見えない。


「本当に天界とやらなのか……」


 俺はその光景を前に、ただただ圧倒された。自分が神に転生したという実感も湧かず、現実逃避でもするように、通路脇に設置された窓から、身を乗り出すようにその景観に見入っていた。


「おい」


 その時、何者かの俺を呼ぶ声に気が付いた。だが、振り向いた瞬間、俺は腹部に鈍い衝撃を感じた。謎の男にいきなり腹パンをされたのだ。


「ぐっ」


 俺は腹部に手を当てて膝を曲げると、耳障りの悪い咳を何度かした。合わせて、肩を揺らして苦しそうに呼吸をする。


「おい」


 冷たい声が繰り返された。だが先程とはやや趣が異なるように感じた。


 その声を受けて、俺はふと不安になった。もしかしてまずったか。確かに奴のボディーブローはそれなりの音を響かせ、衝撃らしい衝撃もあったのだが、実を言うと不思議と痛くない。


 しかし、それを相手に気付かせるのも、面倒だろうという予感があった。その男、どうやら名前をルルジというらしいのだが、どういう訳か物凄い形相で俺を睨みつけている。理由を探ろうにも、すぐには分かりそうになかった。ただ、こうなると火に油を注ぐようなもので、下手に抵抗するのも悪手だろうと思われた。


 さて、ルルジの顔をどう表現しようか、端的に言えば悪相あくそうだ。この手の顔をした奴には、関わるべきではないと俺の本能が告げている。汚い茶髪のガキ大将のようなものだ。まともに相手をするのは、面倒だという直感しかない。


「な、何をするんだ。……っ……!」


 俺は「っ」という促音そくおんを意識した。言葉を言い切った後に、腹に力を入れて、ちょっと息を漏らす。


 しかしその後、実に面白くないことが判明した。このルルジという奴は俺より階級が高いらしい。神々は役割が重要で、それに基づく階級は絶対的だ。つまり、よほどのことがなければ、俺がルルジに逆らえる道理はない。


 天界も全く下らない世界だ。神だろうが何か知らないが、これならどこぞの社長やらに転生した方が、遥かにマシだったんじゃないか。俺は心中で密かに怒りを燃やした。


「何だあ、その目は。一体俺を誰だと思ってやがる。もう一発欲しいようだな」


 ルルジが肉薄にくはくする。俺は身を起こして奴を待ち受けた。そして。


「目障りだ、この三下さんした野郎!」


「ぐわっ!」


 俺は小さく呟いて、そしてルルジの腹を殴り付けた。もちろん、周囲に誰の目もないことは確認している。この手の奴は、まず、やりかえされる事を想定していないものだ。同時に、この状況で逆襲されたとして誰に口外するでもない、哀れなプライドを持ち合わせているものだ。


 相手からすると奇妙な悪夢に映っただろう。ただ、それは俺も同じで、やってはいけないことをやってしまった、という罪悪感が、胸中にじんわりと広がっていくのを感じた。俺は逆上した訳ではない。むかついたことは事実だが、くまで世の不公平の為にいきどおっただけだ。


 しかし、やってしまったことは仕方ないとして、体裁ていさいつくろわなければならない。


「うっ」


 俺は咳払いと共に腰を曲げ、そして再び腹部に手を当てた。いささか強引であろうと、平常の流れに戻すべく、この場は適当にやり過ごすべきだ。


 俺はルルジから距離を置きつつ、頼りない足取りで角を曲がった。


「おいっ? おっと」


 すると、角のすぐ向こうにまた別の誰かがいたようで、俺はその者の逞しい胸筋に道を阻まれてしまった。俺は心の中で舌打ちをしつつ、しかし胸も豊満を極めれば硬くなる事もあるかも知れないと、淡い望みを抱いて、ゆっくりと顔を上げた。


「あっ……」


 俺は思わず声を漏らした。そこにいた屈強な男は、ルルジとは一見すると同類のように見える。しかしその実は正反対、慈悲深い兄貴分のような顔付きをしていた。


 これはどうやら俺たちの更に上級の神であるらしく、名をデシフェルという。金色の髪が逆立ち、渦を巻いている。身に纏う気配も王者そのもので、さながらライオンのような男であった。


 実際、デシフェルは獣たちの管理を司る獣神として君臨くんりんし、幅広い権限を有している。権力を持ち、誰もが一目いちもく置く存在であった。

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