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転生神ドルンドルンのちょっとHな世界創造譚  作者: 石たたき
第二章 進化計画
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22.ドルンドルンの思い

 メルとリプリエが互いに目線を交わし合う。俺はその様を緊張の面持ちで眺めていた。俺が今まで目を逸らし続けて来た、ドルンドルンの罪が遂に明らかになる。


「私はこの世界で生まれ落ちた存在。ドルンドルンの潜在意識の中に、何かしら後ろ暗いものがあることは知っているけれど、詳しい事は分からないの……」


 リプリエの言葉は確かにもっともだ。俺は客観的な意見を、と表現したので、それを受けた場合、確かにリプリエでは返答が難しいかも知れない。


「良かろう、ならばアタシの出番じゃな。とはいえアタシもそれほど詳しい訳ではない。何せ上級神以上の決め事になるだろうからな。さて、お主のしでかした罪、それは人間たちに力を与えようとしたことじゃ。もともと地上に無かった技術、そう、火の使い方を彼らに教えようとしたのじゃ」


 つまり火を与えたということだろう。その伝承は俺も聞いたことがある。確か、プロメテウスという神のことだ。


 プロメテウスには悲惨な未来が待ち受けている。言うも残酷、永遠の責め苦のようなものだ。まさか俺がその伝説の神と同じような目に遭うこともないと思うが、その一端が示されているとして、恐怖しないはずはない。


「それで、現状は……?」


 俺は努めて平静を装って返事をした。


 何と言うか、実はもう少しだけまともなものだと思っていた。せいぜい立場を超えた事をちょっとしでかしたとか、上級神や中級神に迷惑を掛けたとか、そのくらいのものだと思っていた。


「本来ならば言うに及ばず重罪じゃが、今回は天上界でも意見が割れておる。お主に味方する者もあれば、反対する者もいるということじゃな。ちなみに、先ほどのゲイドリヒ様は、所謂いわゆる、まあ日和見ひよりみ主義でな、いつもは意見をしない方なのだが、それがどうしたのだろうか。あのような能動的な行動を取るとは、少しばかり気に掛かる」


 メルの言葉は俺に微かな希望を与えたが、それでも状況は決して良くない。そうなると、確かにメルの言葉通り、どこかへ逃げる算段でもしておいた方がいいのではないか、という考えが頭を過ぎる。


 また、もしパンドラに風俗街が無事に出来たとしても、俺が利用できなければ意味がない。ドルンドルンとして、命を失うのは特に構わないが、二度とネオン街の門を潜れないのは、我慢できない。


「なるほど、大体分かった。それならば、俺はやはりこの世界の進行を更に進めなければならない」


 俺のいさましい言葉を前に、リプリエがもっともな疑問を投げ掛ける。


「何か考えでもあるの?」


「ここで人間たちを進化させて、彼らの力を高めることは、俺の力の向上にも繋がるのだろう? それがどれだけの足しになるか分からないが、力があるに越したことはない。後はな、恐らく二人も全く想像が付かないほどに、人間というのは恐ろしい生き物だ、何か新たな知恵を出してくれるかも知れぬ」


 何より、神々には風俗のシステムなど、想像もつかないはずだ。しかし人間はたやすく思い付く。俺が変な入れ知恵などせずとも、その経営システムにすぐ辿り着くだろう。俺は元人間の一人として、彼らを大いに信頼していた。


「そ、そうね。あなたの考えには、たまに良く分からない所もあるけれども、真っ直ぐな信念は好きよ。どうせ私はあなたのやり方を見守ることしか出来ないのだから」


 リプリエが賛同する。メルも時を置かずして意見を述べた。


「まあ、ドルンドルンはアタシの力を認めてくれた奴だ。私も、私を信じたお主を信じてみよう」


 メルは意外に熱いセリフを吐く。こうして俺は、苦難の道のりにも関わらず、二人の賛同者を得ることに成功した。少女と妖精という、些か頼り甲斐があるのか無いのか、判断に迷う所ではあるが、それでも非常に心強い。


 審判とやらが出るまで、今すぐにとは言わないまでも、そう悠長に構えている暇はないかも知れない。可能ならばこのパンドラに、厳重な鍵やら封印を掛けて、神々の侵入を防ぎたいとも思うが、そのようなことは無理だろう。


 最後に気になること言えば、このパンドラがどのようにして開かれたかということだ。これはリプリエにも知らないようだった。もちろんメルにも分からないだろう。


「それでは、人間をここに連れて来る為の具体的な行動を考えよう」


 それから、俺は二人と少し話をした後で、メルと別れて床に就いた。まだここへ来て十日ほどしか経過していないが、このベッドが少しずつ身になじむようになって来た頃合いだ。


 しかし、夜も更けて、一切の物音もなくなって来ると、途端に恐怖に襲われるようだった。


 また、同時にドルンドルンへ対する意識も少しずつ変化していくようだった。置かれた状況を考えると、「変なタイミングで俺に身を委ねやがって」、という反抗心が芽生えたのも事実だ。だが、人間のことを考えていたのも事実らしいと知って、好意的な見方をするようにもなった。


 しかし、それで上級神たちへの恐怖が消える訳でもない。特にあの玉筋部長を思わせるゲイドリヒという相手に対しては、もはや条件反射的に萎縮してしまう。


「とはいえ、部長には、なんだかんだ迷惑かけたからなあ……」


 俺は少しだけ元の生活を思い起こしていた。平日は夜遅くまで働いて、週末はインターネットで風俗店をリサーチして、時間とお金があれば、期待を膨らませて風俗に行く。仕事は大変で、辛いには辛かったが、全くやりがいが無かった訳でもなく、辛いばかりでもなかったような気がする。


「やりたいこと、やるべきこと、か」


 ドルンドルンは何をしたかったのだろう。元々、俺はあまり物事に熱くならず、結局は流されるしかないと考えて生きていた。だが、恐らくドルンドルンは違う。奴はきっと、何かを変えたかったんだ。


 それは人間の窮状を思ってか、もしくは可能性を見込んでか、はたまた自身の力の底上げか。こころざし半ばで散ってしまったというのなら、俺が少しでも引き継いでやりたいとも思う。


 さて、それから二日が経過して、その翌日。


 人間をパンドラへ移す運命の朝が来た。夕方までは適当に宮中で時間を過ごした後で、頃合いを見計らって地上へ降りると、そこで俺はメルと合流した。


「メル、頼りにしているぞ」


「うむ、こちらこそな」

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