国造りの御子
「ツルハシさん、明日は浜離宮ですね」
「なんだかずっとドタバタして、落ち着きませんよね」
「はい」
俺は教会の前で声をかけてきた彼女と、すこし散歩をするように歩いていた。
少し遠くまで来たが、なんだろう?
ラレースの様子には、言葉がノドに引っかかって出てこない。
そんな感じがある。
「ラレースさん、何かありました?」
「そういうわけでは……ただお伝えしておこうかと」
「何でしょう」
「バーバラのことです。彼女が第4層で動揺を見せたのを覚えていますか?」
「えーと……あ。 ブロックが崩れた時の?」
第4層で確か、階段の足場にブロックをつなげたらどうか? というバーバラの言葉を受け、足場を作った時の事を俺は思い出した。
それで足場が崩れてしまって、わちゃわちゃしたんだったな。
あの時のバーバラは、不自然なほど動揺していた。
「はい。あれは、彼女の心の傷なんです」
「心の傷、ですか?」
「はい。彼女の前のバディ、守り手をしていた相棒は行方知れずなんです。原因は彼女の指揮にありまして、それで自ら位階を下げて、今に至ってるんです」
「あぁ……それで何ですか。妙に落ち着きがないなとは思いましたが」
「はい。言葉に振る舞い、何もかも、あれは彼女の鎧なんです」
「うーん……自分のことは信頼に値しないぞ、みたいな?」
「――そうですね。」
「兄妹たちのことを思えば、自棄にもなれない。そんな嫌悪と自信のなさが自分を貶めるという風に働いてるのだと思います」
「自己嫌悪には俺も自信があるのでわかりますね。なんていうのかな……褒められても、怒られても、なんか全部がウソっぽく見える。そんな感じなんですよね」
「誰も信じられなくなる。ということですか?」
「はい」
「一度そうなると、何を言われても、裏の声みたいなのが聞こえちゃうんです」
「ツルハシさんは……そんなふうには見えませんでした」
「俺も不思議なんですけど、ラレースさんの言葉からは、そういうのが全く聞こえなかったんですよね。理由はわからないんですけど」
彼女が俺に語った、ダンジョンと神に対する想い。
宗教騎士でありながらも、この世界を作った神を疑う。
それは邪悪というよりは、純粋すぎる願い。
祈りにも似た何かだった。
この世界にはもっと良い姿が有るんじゃないか? そういった――
いや、ちょっと違うな。
あって欲しいという祈りだ。
「ツルハシさん?」
「あぁいや、何でも無いです。ちょっと考え事を……」
「理解しろ、みたいに押し付けてしまってすみません。不愉快ですよね」
「嫌いになるとかそんな。むしろ俺は……そんなに信頼されちゃって良いのかなって、そんな感じの想いばっかりで」
「貴方が信頼できなかったら、他の誰も信用できません」
「それはお世辞にしても褒めすぎですよ」
「私はそうは思ってませんよ? ツルハシさんがついさっき言ったじゃないですか。ウソには聞こえないって」
「プッ……確かに」
「フフ……」
◆◆◆
「ラレースさん。俺ちょっと考えてみたんですが……」
「何でしょう?」
「ユウキくんのことで考えてたんです。もっと何かできないかなって」
「ツルハシさんは十分、彼の助けになってました」
「いや、そうじゃないんです」
「?」
「俺のランドメイカーを使えば……」
「地上に誰もが入れって安全に過ごせる『楽園都市』がつくれるんじゃないか? そういう考えです」
「理想の『都市』が無いのなら、いっそ作ってしまおう、ですか」
「まぁ、そういう事になります、よね。多分。」
「周りの『都市』は放っておかないでしょうね。きっと人間も。あの門前町にいた人たちは、全てが善人というわけではありませんよ」
「でしょうね。」
「でも……もしそうなれば、ユウキくんのように腕を削いで、血の対価を支払ってまで『都市』に入る必要はなくなりますね」
「メチャクチャ怒る人、絶対出ますよね」
「それはもちろん……居ますね」
「楽になるのに、なんで怒るんですかね? みんな楽になりたがってるのに」
「自分たちの苦痛を生きる権利と交換している。だから、苦痛無しで生きる人間が許せない。そんな感じでしょうか」
「苦痛と交換か。言えてますね。義務と権利、アメがほしいならムチで打たれろ。そのうち、痛い思いをすることが目的になってる」
「確かに現実はそうかも知れません。でもそれでは……まるでこの世界では、痛みを感じなければ生きていく資格がない。そう言っているようです……」
「抜け道を探すと、誰かが大抵こう言うからね。『ズルだ! 俺は苦労したのに、なんでアイツは!』ってね」
「ありがちですね。そういえば、ツルハシさんは平然とズルしますよね」
「痛いの嫌だからね」
「……今後、ツルハシさんの力や作ったものを利用しようとする人が、山のように現れるでしょうね」
「まぁそれはそれで別にいいかな。俺って誰かに利用されても、別に良いやっていうタイプなんで」
「普通は嫌がると思うんですけど?」
「誰かが俺に足をかけて上に登っていったら、そいつが手に入れた物は回り回って俺の手元に来る。そうなれば実際、俺も楽になるでしょ?」
「それはそうですが……自分を踏み台にして、上に登って行けと平然と言う人も珍しいですね」
「もっとも、ダンジョンの場合は上じゃなくて、下に降りていくんですけど」
「ツルハシさん、貴方は誰かのための踏み台になるのも、良しとするんですか」
「ぶっちゃけ、俺一人で出来る事も考えられる事も、たかが知れてるから……誰かに乗っかってもらわないと、むしろ困っちゃうかな」
「じゃあ、まずは私が乗ってもいいですか?」
「どうぞどうぞ、あなた様の馬にしてください、ヒヒーン」
「もう!」
「――ツルハシさん、作りましょう。いつか私達の『都市』を」
「やろう。そのためにも……」
「はい。浜離宮のミラービーストを必ず退治しましょう」




