最後の夜
「ちょうど晩飯の時間の前に戻れたね」
『あー、やっと帰れたー!』
丸一日、ひたすらに移動したのに疲れ果てたのだろう。
バーバラは教会のホールに入ってすぐ、食堂へ向かおうとする。
だがその瞬間、ラレースの目がキラリと光った! ……気がした。
『シスター・バーバラ。そうやってすぐ気を抜いては示しが付きません。あなたは騎士としては決して低くない位階に居るのです。すなわち……』
(くどくど……)
バーバラに対して、ラレースのお説教が始まった。
師匠は「また始まった」みたいな顔をしているから、よくあることなのだろう。
「さっさと着替えな。飯を食う時間が無くなるよ」
『……たしかにそうですね。これくらいにしておきましょう』
……(グッジョブ師匠!)と、でも言っているのだろう。
師匠の方を向いたラレースの後ろで、こりてない様子のバーバラが、拳の親指をピシッと立てている。それ見つかったらまた怒られるぞ―。
『ツルハシさんもシャワーを浴びて泥を落としてください』
「わかった、でも着替えが……」
『アコライト、侍者の服がありますので、そちらを用意させます』
「ありがとう」
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ラレースの好意で、俺は久しぶりにまともな水を使って体を洗うことが出来た。
なんと、教会のシャワー室には自由に使える石鹸まであった。
正直、ここまで生活環境が良いと思っていなかった。
教会には入らんと言ったが、ちょっと心が揺らいでしまう。
全身と頭、顔も洗ってスッキリ爽快。痒い所なし!!
うん、これはもはやニューツルハシ男と言っても良いだろう。
装備は教会の人たちがキレイにしてくれるというので、お言葉に甘えてそのまま置いて置き、借りた服に袖を通す。
へー、アコライトの服ってこんな感じなのか。
なんか白色になった学生服って感じ。
◆◆◆
学生に戻った気分で食堂に戻ると、すでに皆が席についていた。
そして、ラレースとバーバラはシスター服に着替えていた。
鎧姿で忘れそうになるが、そういえば彼女たちは修道女なんだった。
ラレースのほうが位階が高いのか、きれいな刺繍が入った豪華な布を首にかけている。
それにしても……。
シスター服の上からさらに簡単な上着、前掛けみたいなのを付けてるんのだが
インナーのスカートの長さの違いで、スリットがエグい服みたいに見えるな。
ちょっとドキッとするぞ。
食堂には彼女たちだけでなく、教会の他の人達もいる。
昼はガラガラだったけど、晩御飯には人が集まるんだな。
「ツルハシさん、こちらです」
「や、似合ってるよ、……ぷふふ!」
「ハハ、服に着られてるって感じだねぇ」
テーブルには3人がそれぞれ隣を開けて座っていた。
これは……!
隣りに座った女子が今後の攻略キャラになるというアレか?!
……んなわきゃない。変な夢を見るのはよそう。
俺はそのままスッと、ラレースの横に座った。
すると、バーバラと師匠がテーブルの上で、何かをやり取りする。
戦前の硬貨だ。
紙幣はともかく、コインは今の時代でもたまに使うが……まさか。
「勝ち! やっぱセンパイの横に座りましたぜ、ふふふ」
「照れ隠しで一人で座るかと思ったんだけどね」
「ツルハシだもん」
「誰の横に座るか、賭けをしてたんですか?」
「うん」
「俺で遊んでるの、隠そうともしないよ、この人たち……」
「ほんと、お二人ともそういうのは悪趣味ですよ」
「まぁまぁ、俺は気にしてないんで……」
ラレースはわずかに怒気を込めて二人に言うが、どこ吹く風だ。
いやぁ、いい空気吸ってるなあ。
バイキング形式なのか、晩御飯は全てテーブルに用意されていた。
こりゃいいや、適当に取るとしよう。
「さて、飯……」
その時俺はふと、食堂に人の動きがないことに気がつく。
部屋の中を見回すと、食堂の人たちは皆、祈りのポーズを取っていた。
なんとバーバラまで修道女のように祈りを捧げている。い、一体何が?!
俺は師匠を見る。流石に師匠も祈るまではしてなかった。
が、手で何度も「やめとけ」と俺に示している。
俺は手に取ったパンと鶏肉を、できるだけ静かに元ある場所に戻した。
「「父よ、あなたのいつくしみに感謝して、この食事をいただきます。」」
……この圧倒的アウェー感すごいな。
◆◆◆
「珍しいですね。師匠が私達と食事をとるのは」
「そうなんですか?」
「はい。普段は下で食べるって言って、歓楽街に消えるんですよ」
「そりゃぁ、肉が出る日は来るよ」
晩餐のメニューは色々と多いな。
バターを使ってないカサカサのパンを初めとして、煮込んだ豆とタマネギのスープ、なんかのソースをかけた鶏肉、後は白身魚を焼いたやつ。
チーズとバターは自由にとって良いいいのか?
うーん、マジで豪華だ。
周りの様子を見て、食べ方を探りながらご相伴に預かった。
今日はけっこう動いたから、腹に飯が入るな。
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食事が始まって30分くらいだろうか。
……気づくと食器の音をさせているのは俺一人になっていた。
みんな少食だね。
ほら! まだあるよ?
俺の味方は師匠だけだ。師匠ならきっと……なッ?!
師匠も食事の手を止めている。
そればかりかグラスを持ってワインを上品に嗜んでいた。
クッ……師匠まで! 俺もどうやらここまでか……!
俺は圧に負けて食事の手を止め、食後の祈りで晩餐は終わった。
食事の後、俺は教会の外で涼んでいた。
多分、今日がお台場で過ごす最後の夜だ。
だもんで、最後にちょっとこの街の景色を見ておこうと思ったのだ。
ユウキは……見つかるわけ無いか。
どこに連れて行かれたのかもわからない。彼の友達と会えると良いが。
そうしたら、手紙くらいは置いてくれたりしないかな。
俺は2階の手すりに寄りかかって、1階の市場で動いている人たちの様子を見るともなく見ていた。すると、背後から声をかけられた。
ラレースだ。
彼女はいつものヘルメット姿ではない。
鼻から上、目が見える簡易マスクを着けている。
彼女は恥ずかしがるような、はにかんだ様子で目を細める。
そして俺に問いかけの言葉を投げかけ、返事を求めた。
「ツルハシさん、ちょっとこの辺りを歩きませんか?」
これは、まさか……デートのお誘い?!




