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>>539

『ユニット414F-A3へ、外出申請を受領した。制限時間は72時間だ』

「了解、時間の追加は24時間。1回までだったね?」

『そうだ。諸々(もろもろ)の警告は省略するぞ。良い狩りを』

「どうも」


 「上役」への報告を済ませた私は、表示枠の通信を切って、アバターの『マリア』を呼びした。自分のステータス、そして周囲の環境を確認する為だ。


「マリア、周囲の天候状況は?」

『月影、兎波(うさぎなみ)を走ると言ったところかしら。今宵(こよい)は海に月がよく写りそうだわ』

「夜まで風が弱く、雨は降らないということか」

『そうとも言うわね』

「フィルターの時間は……後2時間は持ちそうか」


 表示枠にタイマーを設定して、私はマスクに吸毒缶(フィルター)を付ける。


 私がマスクに吸毒缶を固定している間、マリアは青いマントをつまみ上げたかと思うと、ぴょんっと飛び跳ねて私の肩に乗った。

 どうやらここがお気に入りらしい。なでようとすると嫌がるくせに。


 ……スレを見て、動画を見た私は確信した。

 あのツルハシ男。彼ならきっとダンジョンを――いや。


 このクソッタレな世界を変えられるはず。


 分厚い防護ブーツで割れたアスファルトの地面を踏みしめる。

 目の前に広がる光景は、私の記憶にある子供の頃の風景とは全く違う。


 新橋から東京湾を望むと、大地と空、海、この世界のすべてが見える。

 (さび)(おお)われた大地。黒く腐った海。灰色の空。


 目の前に広がるのは、3度めの世界大戦で全てが終わった世界。

 霧がかった遠くに見える新宿の高層ビル群は、さながら東京の墓標のようだ。


 全部『神に(そそのか)された《《人間》》がした』事だ。


 ある日、世界中にダンジョンが現れた。

 ダンジョンからはモンスターたちが現れ、大混乱になった。

 自衛隊はそれを止められず、当時のアメリカ軍が核兵器を打ち込んだ。

 しかしそれでもダンジョンは消えなかった。


 だがその時「神」が現れ、こうおっしゃったそうだ。


「嗚呼、モンスターに頭からかじられてかわいそうな私達の子たち」

「そんな哀れなあなた達に私達の力の欠片かけら、スキルとジョブを与えましょう」

「私たち神に供物(くもつ)を捧げれば、神気を授けます。その神気でモンスターを駆逐し、追い返すだけの技能スキルと、戦士としての職業(ジョブ)を手に入れるのです」


 少し脚色はしたが、大体こんな感じだ。

 つまり、神は供物(くもつ)を要求し、神気を与え、スキルとジョブを交換させた。


 なぜ私達の親世代がこの胡散(うさん)臭い話に乗ったのか、非常に理解に苦しむ。


 だが、当時の私たちは子供だった。

 選択権はないし、親たちも他に方法がなかったのだろう。


 神気は神と共にいきなりこの世に現れた夢の存在。無限のエネルギーだった。

 唯一の《《欠点》》があるとするならば、神に捧げるものは何でも良かったこと。


 麦の束に、ヒツジの初子。そんな素朴なものから金銀財宝まで。

 おおよそ手に入りづらいものなら何でも良かった。


 それは物以外に行動でも良かった。足の不自由な人に席を(ゆず)る。

 困った人に手を差し伸べる。それは困難なほど良い。


 そう例えば――



 「神の敵を殺す」といったような。


 

 神の名のもとに、地上を焼き尽くした人間は、次に自分たちを燃やす事にした。

 戦いの場をダンジョンに移し、神のために自分たちの命を燃やす。

 そう、神の奇跡を求める戦いはまだ続いているのだ。


 神気というエネルギーのためにすべてを捧げて、それを自分たちの存在意義にしている連中からすれば、彼はうっとおしく、不都合で……危険な存在だ。


 きっと探索者たちは排除(はいじょ)に動く。そして私の上役も。

 だが、そうはさせない。


 自分の身長よりも高い大型の盾を背中に回し、私は戦鎚(ハンマー)を握りしめる。


「さて、私が行くまで……殺されてくれるなよ、ツルハシ男」


 私はガリガリというガイガーカウンターの音を聞きながら歩みを進めた。

 



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