水葬海域
『ブロックが置けない、ですか?』
「えぇ。水の上やこの桟橋の上もダメみたいですね」
『浜離宮の第二層でやったように、水を抜くのはどうです?』
「出来なくはないんでしょうけど、あの時はここまでの規模じゃなかったので」
「……海となると、どれだけの時間がかかることか」
『凍結させて渡るにしても……あのオーブでは範囲が狭すぎますか』
「そうですね」
『じゃあさツルハシ、この入り口はー?』
こぶしの親指を立て、背中の入り口をバーバラは指さした。
ふーむ。
3層と4層を繋げているダンジョンの階段は、レンガのブロックで入り口を囲まれている。この部分だけは普段通りだな。
うん、ココ重要。「この部分だけ」だ。
出入り口の周りには、通常あるはずの壁が無い。
ただ暗い海が360度広がっていて、水平線しか見えない。
空間に階段を通す穴が開いていて、その周りをブロックがフチ取っている。
ぱっと見はそんな感じだ。この空間を裏から見ると、どうなってるんだろ?
もう一つ気になるのが、この海って無限空間なのか? それとも有限の空間なのか? ってところだ。
もしここが有限空間なら、便宜上の端っこがあって、そこに到達すると反対側にワープするとか、そういうギミックがありそうだな。
……いかん、思考がそれた。
ダンジョンの階段付近の話にもどろう。
階段を下りてすぐの床、俺たちが立っている場所もレンガの床だ。
階段の踊り場っていえばいいのか?
ここは3×3メートルの小さな足場になっている。
バーバラは彼女の足元、この踊り場を指さした。
『ここならブロックをつなげられるんじゃなーい?』
「……置けますね。」
「既存のブロックにつなげる分には良いみたいです。やってみましょう」
お台場ダンジョンを一層から三層まで掘り進めたから、手持ちのブロックは結構な数がある。これで足場を作ってやろう。
「ちょっと待ちな」
「なんですか、ミコトさん」
「ツルハシ男、念のためにこれを腹に巻いときな」
「……ロープですか?」
「そ、念のためだよ」
「あんたが海の中に落っこちた時、それで引っ張り上げてやるよ」
「ど、どうも」
さすがは師匠。念入りだ。
俺は踊り場にブロックを置いて、前へ伸ばしていく。
<ポンッ><ポンッ>
しかしまぁ、黙々と作業してると余計なことを考えるな。
……俺が命を危険にさらしてまで、ダンジョンに入る目的。
最初は神気だった。
生活のため、よりよい自分の未来のため。
おおむねそんな感じだ。
だけど……俺に出来ることが増えてくると、欲が出た。
ダンジョンの危険を取り除けば、もっと人が来る。
配信で広めれば、もっともっと人が来る。
そうすれば今よりもずっと安全に。
そしてもっと稼げるように。
ふんわりとした、幸せな未来を夢見ていた。
甘かった。
もうゲロ甘。
砂糖菓子に練乳とアンコをつけて、シロップで流し込んだくらいに甘い。
胸焼けするわ。
ともかく、今の俺はその「安全」とは真逆の状況にいる。
この状況は、俺の欲が招いたことだ。
神気が欲しくて始めたは良いものの。ダンジョンを作り変える力は、あまりにも世界に与える影響が大きすぎた。
その結果、自分の尻拭いすることになり、稼ぎにならない事までしている。
いつ死んで消えてもおかしくないっていうオマケ付きで。
だけど、手が止まらない。
ここにいるのは怖くてたまらない。
正直ブルってる。
でも――ちょっと楽しいんだ。
「……ハシ!! ツルハシ!! 不味いよ、戻ってきな!」
「――えっ?!」
後ろを見ると、信じられないモノがあった。
核兵器でも壊れないはずの、ダンジョンの足場が「曲がってる」!?
足元も揺れている。これは……!
「崩れるよ!」
3人が俺を足場まで引き寄せようと、ロープを肩にかけ一気に引いた。
グイッと引っ張られる感覚が俺の腹に来――いだだだだ!!!
<ガラガシャ……ドボドボ、ドボン!>
危ないところだった。次々とブロックが水底に消えていく。俺がさっきまで床を貼っていた部分は、あっという間に真っ黒な海に戻っていた。
暗い海底にブロックが沈んでいく様子がちょっとだけ見えた。
砕けた様子はないし、あのまま海底に残るのかな。
「アンタ、ツルハシ男が置いた床の数を数えてたんだが……20個を越えたあたりから足場が歪み始めたね。
「支えなしであんまり長くすると、足場が崩壊するみたいですね」
『ごめんツルハシ、私、余計なこと言っちゃった……』
「あ、いえ! 俺もわかってなかったので、大丈夫です」
『ほんっと……マジでごめん! あー……くっそ』
バーバラが左へ右へせわしなく動いて、マジ凹みしてる。
頭の上に乗っている天使まで、いっしょにアタフタしていた。
……何か貴重なものが見れた気がする。
ちょっと心配になるくらい気にしてるのは、気がかりだけど。
『そういえば、思い出しました。ツルハシさんは以前、「炎威の獄」で氷のブロックを足場を破壊して溶岩の中に落としていましたね』
「一応物理法則らしきものがあるのかな? 支えなしで、ブロックを大量につなげると崩壊するってところですか」
「……このダンジョン、妙なところで正気のフリするなぁ。」
『地上に似てるだけで、根本はまるで違うのが厄介ですね』
「ほんとそれですよ」
「ツルハシもお手上げかい?」
「……いえ、別の手段があります。」
「んじゃそれで頼むよ。野次馬が騒ぎを聞きつけたみたいだから」
「わぉ。」
目の前の水面がぷっくりと膨らんだかと思うと、水の下からそれは現れた。
ピーターパンに出てきそうな、赤いバンダナを巻いた海賊だ。
ただし、目玉と鼻は腐って落ち、ヒトデや海藻に全身が覆われ、死臭と海の幸が入り混じった凄まじい臭いをさせている。
生前と同じく、まだラム酒を飲みたがってるかどうかは知らないが、このひどい悪臭では、どんな居酒屋でも出禁間違いなしだな。
「デッドパイレーツだね。うちらの仕事に取り掛かるよ」
『『――はい!!』』




