フライング・ダッチマン
「フライング・ダッチマン」またの名を「さまよえるオランダ人」。
こいつは何なのか?
わかりやすく言うと、幽霊船だ。
フライング・ダッチマンは、大航海時代の帆船がモンスターとなったアンデッドで、【はぐれボス】としてお台場ダンジョンの第4層をさまよっている。
こいつの存在を芝浦埠頭でラレースから聞いた時、「はぁ? 何で船がダンジョンの中に?!」って絶句した。ってか、しないほうがおかしい。
彼女によると、お台場ダンジョンの第4層はかなり特殊な場所で、全域が海洋となっているそうだ。
……だからって、船のモンスターなんて、置くかフツー?
ま、ダンジョンがお狂いあそばしているのは、探索者にとって周知の事実だ。
一旦これについては置いておこう。
話を戻すと、海の上には足場があるのだが、意地悪くクネクネ蛇行していて、真っ直ぐ次のフロアまで行かせてもらえない。そこにゾンビを始めとしたアンデッドと、水棲系モンスターが襲いかかってくるとの事だ。
これだけでも十分クソなのだが……。
ここに【はぐれボス】のフライング・ダッチマンがトドメを刺す。
自由に動けない海上の足場で往生しているところを、一切の遠慮も手加減もなく攻撃してくるのだ。
やつの攻撃方法は3つある。
船体を直接ぶつけてくる突進。
側面に並んでいる大砲を使った射撃。
そして、乗組員のアンデッドを降ろしての白兵戦だ。
要するに、ダッチマンは遠近全ての距離でスキがない。
モンスターは大抵苦手な距離があるものだが、こいつはマジで無い。
加えてヤツは幽霊なので、本来なら障害物になる「足場」を無視して移動する。
一度食いつかれたら、そこで終わりだ。
探索者が全滅するか上層に逃げるまで追撃してくるとのことだ。
全部ラレースから聞いた話で、俺が体験したわけじゃないが、まぁヒドイ。
俺が知る中でも、5本の指に入るクソたわけっぷりだ。
手に負えなくさせているのは、コイツが船幽霊、ゴーストだということだな。
ジジイから借りているヒトダマと同じように、こいつも壁を抜けられる。
これがただの船だったら座礁させればイチコロなんだが……。
いまのところ思いついたのは、せいぜい足場を増やすことぐらいだ。
ラレースたちが戦うのを支援する、それくらいしか思いつかない。
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「たしかに第4層は、フライング・ダッチマンをやっちまわないと、ダークゾーンをどうにかするどころじゃないね」
「ダークゾーンだけでも頭おかしいからねー」
ミコトの言葉にバーバラが合いの手を入れた。厄介事はまだあるらしい。
「そんなヒドイんですか?」
「ああ、ダークゾーンの中にはよく回転床が仕込んであってね」
「うっかり歩数のカウントを間違えると、いつの間にか海の方に向かされて、そのまま海中にドボン。落とされるんだよ」
「うへぇ、行きたくないなぁ……」
「ですが他に方法がありません。どうせ4層はどこも似たりよったりですし」
「ツルハシだって無策で突っ込むわけじゃないっしょ?」
「まぁそうなんですけど、心の準備的な?」
「ま、やってみた方が早いよ」<プシッ!>
<ゴキュッ、ゴキュッ>
「「飲んでる―――!!?」」
「フゥ、アタシを正気のままにしたいなら、さっさとダンジョンに行きな」
「よ~く考えて、10割の準備をしても、結局やってみたら、考えた分の6割にもなりゃしない。そんなことはザラにあるんだ」
「なら時間を無駄にしない分、さっさと突っ込んだほうが良くないかい?」
「……師匠の言うとおりですね」
なんだろう。アルコールが入ってるはずなのに……。
ミコトさん、ソーチョーより頭が回ってなぁい?
いかん、なんかソーチョーが可哀相になってきた。
……ソーチョー、強く生きて。
「さ、早くしな。そろそろ二本目いくよ」
「ラレースさん、行きましょう。お台場ダンジョンまで案内をお願いします」
「はい!」
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