二日酔い
◆◆◆
「う、あれ……?」
いつの間にか泥酔して寝ていたらしい。俺は白いベッドの上にいた。
ここは……壁も床も真っ白だ。……空き部屋に放り込まれたのかな。
起き上がってベッドに腰掛けると、猛烈な頭痛と吐き気に襲われた。
い、いかん、助けを呼ばないと。
このままだとこの白い床を酸っぱいもので汚してしまう。そ、外へ――!
壁を伝いながら部屋を出ると、目の前にバーバラが居た。
出会い頭に酷い頭痛を訴えると、彼女は俺の手を呆れた様子で引く。
足を前に出し、心臓が鼓動を刻むたびに、脳の奥に鋭い痛みが走った。
間違いない。これは――!
「頭痛がする……は、吐き気もだ……クッ!……」
「どー考えても二日酔い。手当してやるからおいでー」
「お……おぉ……」
俺はバーバラに食堂まで連れていかれて、椅子に座らされた。
ぬぉぉぉぉ……座って体を起こしているだけでも頭がズキスキする。
たしゅけて。
「だいぶキツそ―だね。 ツルハシって酒弱いんだ」
「飲むのは好きなん……ですけどね」
「キャパ無いのに飲み続けるからだよ―」
そこでふと気づいた。
この時俺は初めて、ヘルメットを脱いだバーバラの顔を見た。
彼女は眼鏡の奥の三白眼で、俺のことをジトーって見ている。
彼女の喋り方から、俺は日焼けした金髪のギャルを想像していたのだが……。
バーバラは文学少女みたいな雰囲気の、金髪ボブのメガネっ娘だった。
ウッソやろ?!
アレからこの中身は想像出来んわ!!
ちなみに、彼女は赤い翼を持った天使のアバターを頭の上に乗せていたのだが、慈愛に満ちた目を俺に向けている天使は、額に青筋を立てていた。
すんません天使さん、ホントにキツイんです。許して。
「この頭痛、なんとかできます? うぇー」
「ゼンゼンよゆー」
「ありがとうございます、うっぷ」
「痛いの痛いのとんでけ―っと『メディ』~」
「お……おぉ……」
優しい光に包まれた彼女の手が俺の額に触れると、痛みが引いていく。
でも、詠唱が適当すぎなぁい?
「痛みは引いたけど……何かモヤる!!!」
「効けばいいじゃん?」
「ツルハシさん、大丈夫でした?」
「はい、大分マシになりました。――ッ!」
ぬわ! 俺に声をかけたラレースさんの後ろに、あの魔人がいる!
昨日と同じくきわどい格好だが、師匠の顔は赤くなってない。
どうやら今のところはシラフみたいだ。
「よっ」
「どうも」
「悪かったね、つき合わせて、ハハッ!」
「ツルハシさんに紹介しますね。彼女はミコトさん。私たちの武芸の師匠です」
「よろしく。しかし治しちまったかい、迎え酒と行こうと思ったのに」
彼女は二拍手をして表示枠を出すと、酒を取り出した。
アレだけ飲んでおいて、さらに迎え酒ってスゴイな。
……ん? 二拍手? あ! 表示枠が神道系だ!
ミコトさんってここの騎士じゃないの?
「お酒はダメです、今日はダンジョンに行くって言ったじゃないですか!」
「ウチの弟子はつれないねぇ」
「――あの、ミコトさんって、騎士じゃないんですか? 表示枠が……」
「気づくのが遅いね。その通りだよ。ま、食客ってやつだね」
「食客?」
「居候。ここの騎士の相手をする代わりに、屋根を借りてる」
「家庭教師みたいな?」
「そんな上等なもんじゃないけどね」
「フラっとやってきては、皆をボコボコにして帰ってくみたいなー?」
「ハハッ! 大体そんな感じだね!」
「ただの通り魔じゃないですか!?」
「まー、ツルハシには関係ないかな?」
「ですね。俺、戦闘系ジョブじゃないので」
「で、今日は何をするんだい? 早くしないとまたどっか行っちまうよ?」
「あっはい! 今日は、ツルハシ男さんを連れて、お台場ダンジョンの4層にあるダークゾーンまで進むのが目的です」
「まあこのメンツで4層までなら問題ないかね。守りはラレース、火力はアタシ。で、癒やし手はバーバラが出来る」
「このメンツなら、普通に進んで3日って所かね?」
「んー……わっかんないけど、たぶん1日で踏破出来るくね?」
「はい。道はツルハシ男さんがつくってくれますからね」
「バカ言うんじゃないよ。4層を1日って――」
「いえ、無理じゃないと思います。俺がメインにしてた浜離宮ダンジョンの話になっちゃいますが、3層までは数時間でしたよ」
「ん? 待ちな、アンタは戦闘系ジョブじゃないんだろ?」
「あー、師匠ってば、ひょっとして?」
「ですね。師匠はダンジョンの配信とか、興味ないタイプですよね……」
「俺はダンジョンの壁を壊して前に進めます。なんで鍵のかかった部屋とか、ボス部屋は全部無視できるんです」
「……なんだいそれ。無茶苦茶じゃないか」
まあうん。そういう反応になるよね。
「じゃあ私なんか必要ないんじゃないかね? モンスターなんか、全部無視しちまえば良いんだろ?」
「いえ、それが……ツルハシ男さんでも無理な相手がいるんです」
「うん?」
「壁を通り抜けちゃう幽霊の類。ゴースト系のモンスターは、俺でも封じ込めることができないんですよ」
「……なるほど、話が見えたよ。『アイツ』が邪魔ってことなんだね」
「はい。4層の【はぐれボス】の『フライングダッチマン』。これとは絶対に戦うことになります。ですので、師匠をお呼びしました」
・
・
・




