師匠に気をつけろ
「すごいですね!! あっという間に解決法が見つかりました」
「ああ、うん……」
「どうしました? ツルハシ男さん」
「いや、何でも無いんだ。ただスレの人達が――」
「はい。ツルハシ男さんのことを皆さん気にかけてます。有り難いですよね」
「あぁ」
「びっくりしちゃった感じですか」
「そう……なのかな?」
あそこは俺の予想とは全く違う場所だった。
もちろん、良い意味でだ。
俺はすっかり面食らってしまっていた。
あんな温かい言葉をかけられるなんて、全く想像もしていなかったから。
「みんなの期待に応える力を持ってるあなたが羨ましいです」
「いや、俺はただ――ツルハシを振ってただけだよ」
「謙遜もそこまで行くと嫌味ですよ!」
「本当のことなんだけどなぁ」
「さて……手立ての目星は付きました。トンボ帰りになりますが、今から浜離宮へ帰って、ダークゾーンを集めますか?」
「いえ、待ってください。掲示板の書き込みによると、浜離宮はミラービーストの手で作り変えられ始めてるみたいです」
「……きっと私達の邪魔をしようとしますね」
「それに、思い出してください。奴は第三層での依頼人と俺のやり取りを見ている。ミラービーストはおそらく階層を移動出来る」
「あっ……」
「もし奴が自分の弱点を理解していた場合、第4層まで移動してダークゾーンの周りに、罠や殺し間を仕掛けられる可能性があります」
「となると、浜離宮でダークゾーンを集めるのは、かなりの危険が伴いますね」
「はい……そこで一つ、実験したいことがあります」
「実験、ですか?」
「はい。『ブロックを別のダンジョンに置けるのか?』という実験です」
「なるほど、もしそれが可能なら……!」
「はい、浜離宮まで行かずとも、お台場ダンジョンでダークゾーンを集めれば良いってことになります」
「一度まとめましょう……お台場ダンジョンでブロックを置けるかどうか確かめる。もしそれが出来たら、そのまま奥へ行く、という感じでしょうか?」
「そうですね。もしブロックが置けなくても、俺はその、神気を稼ぐ必要があるので……」
「そうでした。ツルハシさんは全財産を失ってましたね……」
「うん、それと4層まで行くなると危険度が跳ね上がる。俺とラレースさんだけだと、ちょっと不安です」
「一緒に突入するメンバーを募集するのと……ツルハシさんの装備を新しく新調しないといけませんね」
「俺は大丈夫ですよ」
「いえ、無用なトラブルを避けるためです。容姿を変えませんと、その……」
「そっか、ミラービーストがやらかしたことが、俺のせいになってるんだった」
「はい。それに空蝉を使い続けるのもちょっと不安ですし」
「それな」
「メンバーは騎士たちから選ぶとして、装備は武器庫から拝借しましょう」
「あの、一応言っておきますけど、俺は教会に入るつもりは……」
「もちろんわかってます。ツルハシ男さんは、こういうのもなんですが……あまり規則とか、お好きじゃないですよね」
「そうなんですけど、ラレースさんも割とそうですよね」
「わかります?」
「はい。ルールの穴を探すの好きそうだな―って」
「バレましたか。実は……廃棄予定の装備がありまして」
「……ほうほう」
「廃棄予定ですが、性能に問題はありません。予備のまま使用していませんので」
「何でまた廃棄することに?」
「補修部品が絶版になってしまったんです」
「あー」
「では、ちょっと取ってきて、ここに捨てていきますね」
「わぁ、何という偶然!」
◆◆◆
「おぉ、格好良い感じ」
俺がラレースからもらった装備はバーバラが着ていたものに似ている。
軽量化を重視した装甲服だ。
バーバラと少し違うのは、こっちのほうが飾り気がない点だな。
全体的にシックな雰囲気がある。
「デザインが良くて、隊員からも人気だったんですけどね」
「これ限りってことですか。残念ですね」
ひし形のボタンでジャケットの前を留めてフードを被る。
うん、サイズも問題ない。
「後はダンジョンに突入するメンバーを探しましょう。」
「誰かいないか、教会と展示場の中をちょっと探しに行ってきます」
「はい、ここで待ってればいいですかね?」
「他の騎士と顔を合わせるのが不安なら、私の部屋にいてもらっても……」
ぬ、それはそれでいらぬ誤解を受けそうだな。
すこし不安だけど、この場で待つことにしよう。
「いえ、ここで待ちますよ」
「すみません、できるだけすぐ戻りますので!」
ラレースは慌ただしく出ていき、食堂には俺だけが残された。
…………。
やばい、今さら不安になってきた。
ラレースさん、早く帰ってきてーー!!
<ガン! ガゴン、ドガン!!>
(わ! わぁ……ァ!!)
食堂の入り口の方で、何かがぶつかる騒がしい音がした。
ビックリしてそちらを見ると、壁に倒れ込むように誰かが座っていた。
「お、見ない顔じゃないか~! 一杯やるかい?」
くるっと先の巻いた赤毛を、腰の長さまで伸ばした女性だ。
白色の服装からすると彼女も騎士らしいが、胸元をはだけさせ、体にピッタリあったボディスーツの前をヘソまで開けている。えぇ……。
なになに、なんなの? これも騎士なの?!
バーバラといい、ラレース以外にまともな奴がいねぇ!!
「口が聞けないのかい?《《ちごと》》の調子はどうだい」
顔が紅潮してろれつが回らない様子からすると、酷く酔っ払っているようだ。
「ちょっと大丈夫……には見えないな、立てます?」
「立ち上がる必要があるよーに見えるかい?」
「はぁ……嫌なことでもあったんですか」
「あるさ……毎日誰かを壁のシミにしないと、ヒック、いけない事とかね」
わぁ。
そう言えば、ソーチョー、ダンジョンの治安を何とかって言ってたな。
この人、暗殺でもしてるのか? なにそれこわい。
「立ちましょうよ―、お部屋はどこです? お家に帰りましょーね―」
「家なら消えたよ」
「全力を尽くしたのに、それが全部クソの山になった時の気分――」
「アンタにわかるかい?」
「奇遇ですね、俺も今日、夢と希望がクソの山になりました」
「よし、乾杯だ!!」
赤毛の女の人は俺にビールを押し付けてきた。
……ビール!? マジ?! くれるの!?
「しょうがないなぁ、一杯だけですよー」
「「よーし、乾杯!」」
・
・
・
俺の足元にはたくさんのアルミ缶が転がっている。
うーぃ。いくつ飲んだんだろ。
「わかるかい、一生懸命、砂のお城を守ろうとした。全部流されたけどね」
「わかるわー」
<ガチャリ><カン!カランコロン!>
扉が開いて、アルミ缶がコロコロと床を転がって合唱する。
ん~~~?
開いたドアにはラレースとバーバラがいた。
こりゃいいや。
「あ~ラレースさん、お先にやってますよ~」
「ラレース! この新入りに乾杯だ! お前も飲め!」
『ツルハシ……あっちゃー……』
「……忘れていました」
「師匠に気をつけるよう、言っておくべきでした」
「「かんぱーい!!」」




