あの、ソーチョー?
◆◆◆
『総長、お連れしました』
「えぇっと……はじめまして? ツルハシ男です」
『ふむ、たしかにあの動画とは雰囲気が違うな』
俺はキョドりながら、挨拶した。
全く状況がつかめない。
うん、思い出そう。
俺はラレースの部屋でちょこんと正座して、座敷犬みたいに待っていた。
すると突然、血相を変えたラレースが部屋に飛び込んで来て、俺の腕をガシッと掴むと、この部屋まで連れてきた。
ラレースの部屋は一面まっ白で、牢屋みたいな場所だった。
だけど、今いる場所は……校長先生の部屋? まぁそんな感じだ。
そして部屋の中央、机に座っている人。
ラレースが総長って呼んだこの人が偉いのは、すぐわかった。
誰が見ても「あ、中ボスだ!」って瞬時に理解する見た目をしていたからだ。
鎧にはキラキラ光る金の飾りがあるし、ヘルメットの後頭部には後光を表現したのか、金色の板のリングが付いている。
この見た目でおじさんがヒラ社員だったら、世界の理が壊れるぞ。
『えぇ。彼に直接会った者なら、あの動画に違和感を抱くことでしょう』
「えっと、すみません、あの動画ってなんの事ですか?」
『総長、今一度、再生をお願いします』
『うむ。』
彼は表示枠を操作すると、何かの動画をこちらに見せてきた。
「コレは……ん? えぇぇ……」
動画は俺が虐殺パーティを開いてる様子を写しているものだった。
声と周りの様子からすると、浜離宮で検問をつくっていた連中じゃないか。
ってか声に聞き覚えがある。
このチャンネルの主ってまさか……!
「これ、マインバッハ3世の配信ですか? よくお世話になってましたけど、まさかこんな形でコラボするとは……」
『何をのんきな……コラボなどと冗談を言っている場合じゃないぞ』
『うむ。我々はこの動画を証拠に、君を逮捕しようとしていた』
「えっ!?」
『我々、聖墳墓教会は、ダンジョンの秩序を守ることも責務の内としているからだ』
「ちょっと待ってください、俺はこんなことしてませんよ!!」
『落ち着いてくださいツルハシ男さん。《《していた》》、です』
「……ってことは?」
『すみません、ミラービーストの事を総長に伝えました。』
「なるほど、なら俺の身の潔白はもう証明されてるってことですね?」
『うむ、信じがたいが、シスター・ラレースがウソをつくとは思えない』
『総長、ツルハシ男は邪悪ではありません』
『彼は自らの力の危険性を認識し、私の助言によく耳を貸しました』
『ふむ……だがもし彼が悪に傾いたら――』
『総長、可能性を罰するべきではありません。それでは全ての人が罪を負う事になります。私達が罰すべきは行いです』
『う、うむ、その通りだ。今それを言おうとした』
ラレースさん、意外にもレスバが強いな……。
俺の首がつながったのって、間違いなく彼女のおかげだろうな。
しかし、なんぼなんでもおじさんの面目を潰し過ぎでは?
ソーチョーさん、ヘルメットの下で真っ赤になってそう。
「すでに総長さんは聞いてると思いますが、俺たちが戦った『ミラービースト』は幻影を呼び出し、元となった人のスキルを使うことが出来ます」
『それがお前、ツルハシ男を呼び出したということは、そのモンスターがダンジョンを自由に作り変えられるようになった。そういうことだな?』
「はい、そういうことです」
クソッ!
浜離宮ダンジョンを出る前、俺の頭の奥底に引っかかっていたもの。
それは「これ」だ。なんで見落としていたんだろう。
ミラービーストは観察した相手を幻影として呼び出す。
それには当然、俺も含まれるはずだ。
『総長、ミラービーストがダンジョンを作り替え始めたら、それに対抗できるのは、同じスキルを持つツルハシ男だけです』
『どういう事だ?』
「ダンジョンを作り変えられるってことは、床一面をトラップにしたり、出入り口に崖をつくったり……まあ他にも色々と考えられますが、とにかく――」
「元からクソたわけなダンジョンを、探索者を痛めつけるだけが目的の、完全無欠のクソゲー、ゴミ箱行きにできるってことです」
ソーチョーはパチンと指を鳴らす。
そして名軍師さまは、素晴らしい策略を俺たちに提案してくださった。
『しかしだな、ダンジョンが危険になって入れなくなるのは惜しい。だがそこまで危険なら、敢えてそのまま放置という手もあるのではないか』
あの、ソーチョー?
……ダメだこりゃ。
この人、俺が思っていたよりも、ずっとポンコツだったわ。
「忘れたんですか? この世界に初めてダンジョンが現れた時。誰もモンスターを倒せなかったダンジョンで、何が起きました?」
『…………』
ソーチョーは手を顔の前で組んで、押し黙った。
あ、これはわかってない顔っすね。
『スタンピードですね。ダンジョンからモンスターが地上にあふれ出した』
『今それを――』
「ですです。そうすりゃ奴は地上に出られる可能性だってある」
『もしそうなってしまえば……追跡することは不可能です。ミラービーストは光を操り、自分の姿を完全に隠し通せますから』
『…………』
『総長、ダンジョン攻略をお命じください。討滅対象は「ミラービースト」です』
『……よし、命ずる。』




