偽ツルハシ男
『それは一体どういうことですか? 彼が何をしたと……』
『これを見たまえ』
総長は表示枠の一つをこちらに向けると、停止した何かの動画を表示する。
『これは……?』
『大穴事務所という、採掘を専門とする探索者のリーダーが配信した動画を保存したものだ』
『大穴事務所?』
(どこかで聞いた気がするが、思い出せない。何だったろうか)
『見てもらったほうが早いな』
総長は動画を再生した。
するとカメラが動いて、ある人物を映し出した。
(ツルハシ男だ。しかし変だ。彼はずっと私と一緒にいたはずだ。)
(こんな光景、私は知らないぞ。)
『ク、ククク……良い度胸だ』
『者どもゥ! かかりゃっしゃああああぁぁぁぁい!!!!!』
(この声は! 今日ダンジョンの入り口で検問を張っていた、あの者たちか!)
『『『ウオオオオオオオオオオオ!!!!!!』』』
<ズゴーン!!><ズガァンッ!>
『うわぁぁ』『ぎゃあ』『何が……!』
戦闘がはじまり、カメラがブレだす。
そして、即座に倫理フィルターが起動した。
そこから数分の間、ぬいぐるみが爆発で吹き飛び、笑いながら体の部品を失い、綿を吹き出す様子が映し出されていた。
フィルターのせいで何が起きているのか、よくわからない。
だが、槍や矢を放つブロックが画面に出てきているのが確認できた。
(あれはトラップ?! まさかこのツルハシ男は――)
『ウソ~ン!! ボクの仲間たちを~! キミは何だい?』
『ダンジョンは……俺のものだ』
『やめてよ~!!!』
ツルハシ男は普段おちゃらけて、真面目な話はできるだけ避けようとする。
そんな彼を知っていると、この動画のツルハシ男には違和感しか無い。
姿も声もまったく同じだが、これは彼ではない。
彼は丸っこい手を振り回すぬいぐるみに、ツルハシを――
……待て、待て、待て、コレはおかしい。
なぜこの動画に写っている彼、ツルハシ男に倫理フィルターが掛かっていない?
採掘師の方は、姿はもちろん、発している言葉にもフィルターが掛かっている。
なのに、ツルハシ男の方にはそれが無いのは、どういうことだ?
――ッ!!
(間違いない、ミラービーストだ!)
(モンスタ―、それも幻影だからフィルターの対象外なのか!)
『このような残虐行為を見過ごすわけには――』
『お待ち下さい総長。この動画には奇妙な部分があります!』
『シスター・ラレース。君の発言は許可していない』
『では許可してください。今!』
『なぜツルハシ男に倫理フィルターが掛かっていないのです!!』
『な……本当だ。盲点だった。確かにそうだ。コレは一体……』
『実は、私たちはこの存在を知っています』
『何? それに……私たちだと?』
『はい。私とツルハシ男です。この動画に写っている存在は、ツルハシ男ではありません。私達が戦った異質なモンスター、「ミラービースト」だと思われます』
『……発言を許可する。詳しく話せ、シスター・ラレース』
う、威勢よく言ったものの、どうしよう。
彼の性格からして、少しでも気にかかる部分があると話が止まる。
都合の悪い部分は隠して伝えることにしよう。
『ツルハシ男は何かの拍子でダンジョンを作り変える能力を得ました。そして軽率にも、それを世界全体に配信で伝えてしまいました』
『私はそれに危機感を覚え、彼に接触を試みました』
『待て、今回の外出許可の申請はそれが理由だったと?』
『はい』
『今回は不問とする。続けよ』
『ツルハシ男との接触に成功した時、彼は影術を操るダンジョンネズミに攻撃を受けていました。私はその戦闘に加勢し、彼を救出しました』
『その後、彼を安全な場所へ移動させようと試みていた際、2日目の夜に、不明なモンスターと遭遇しました』
『それが「ミラービースト」か?』
『はい。モンスターは何らかの方法で探索者の幻影を召喚することが可能で、私たちに対しても、それを使役して攻撃して来ました』
『まて、ダンジョンネズミは影術を使うと言ったな? そのモンスターと、何か関係があるのか?』
『実は……そのモンスターを仕留めた際、モンスターは断末魔で、先に戦ったダンジョンネズミと同じ名前を名乗っていました』
『人がモンスターに……? ふむ、ありえない話ではない。すでにアンデッドの例がある。非常に興味深い……』
『総長。私をこの事件の調査に任命してください』
『むう……しかしだな、お前にはもっと重要な――』
『浜離宮ダンジョンは、現在、非常に危険な状態にあります。ミラービーストが飛び出す幻影は、オリジナルと同じスキルを持っています』
『オリジナルと同じスキル? ……まさか――ッ!!』
『はい。そのまさかです。あの偽物はツルハシ男と全く同じことが出来ます。つまり、ダンジョンの形を自分の意のままに変えられるのです』
『このまま放っておけば――』
『浜離宮ダンジョンは、完全に偽ツルハシ男のものになります』




