手荒い歓迎
バージが沖合いに出ると、先ほど挨拶してきた騎士がこちらにやってきた。
彼女の表情は、狩猟帽を象ったヘルメットのバイザーのせいで見えない。
一体何の用向きだろう?
『シスター・ラレース、その者は……まさか』
「そのまさか、彼がツルハシ男です。」
「え、それマ?」
『え、ひょっとして彼氏案件みたいな? エグさのレベルちがくない?!』
「シスター・バーバラ……」
「言葉の乱れは……心の乱れですよ」<ガシャン>
『ちょちょ、冗談じゃないですかぁ~!』
バーバラは親しげに語り……いや、親しげすぎだろ!
彼女はラレースの甲冑を狩人風にした感じのシブい格好をしている。
この格好なら普通「貴公……」とかハードボイルドに言う感じでしょ?!
まさかギャル語がでてくるとは思わなかった。
ギャップ萌えとか言うレベルじゃないぞ。
『でも先輩が彼氏じゃないって言うなら~、あーしがもらってもいい感じです?』
「な……ッ!」
バーバラは長銃を抱いて俺の前に立つ。
細身で身長は俺と同じくらいだ。狩猟帽の向こうからこちらを見すえる。
そして――
『ごめん、ちょっと無いかな―、なんか貧乏そうだし』
「グハッ!!!」
「ツルハシさんがまた悶絶して転がってる! 危ないですよ! 落ちますって!」
急所に鋭い一撃をもらった。
バーバラ……こいつはすごいスナイパーだぜ……。
その時、バージを押している背後の船から声が上がった。
『警報!!! 敵襲です!!!』
「何?!」
『方角と高度! 種別!』
先程までの浮ついた雰囲気が消し飛んだバーバラが叫んだ。
彼女は手の平くらいの長さの弾丸を、太腿の弾帯から引き抜く。
それを銃に込めると、鈴を鳴らしたような、透き通った金属音がした。
『2時方向、高度400、ガーゴイルです!!』
「ガーゴイル……? あれか!」
バージの前方からわずかに右を見ると、翼を広げるモンスターが見えた。
あれがガーゴイルか。
尻尾の生えた石の体に石の翼を持ち、顔はツノの生えた老人という出で立ち。
手には斧と槍を組み合わせた武器、ハルバードを持っていた。
比較するものがない空中にいるので、よくわかんないけど、結構デカくない?
「防御スキルを展開する。バーバラ、迎撃しろ!」
『了解!!』
「ラレース、俺は!?」
「ツルハシさんは……とにかく私の後ろに隠れてください!」
うん、そうだよね。
戦力としては期待されてない。されても困るけど。
わかってるけど、ちょっと涙が出ちゃう。
「金剛不壊――『ランパート』!」
ラレースは盾に光を帯びさせ、前方に展開した。
鋼の盾をさらに光の盾が覆い、それが左右に広がっている。
この範囲に入っていれば、ひとまず安心ってことかな?
「まったく……手荒い歓迎だな」
『でしょー? ハハッ! ようこそ地上に、ってトコだね!』
ガーゴイルは空気を叩いていた翼を止め、滑空を始めた。
――来る!
『ラレース、肩貸して!!』
「わかった!!」
バーバラの合図を受けて、ラレースはサビた甲板に膝をつく。
そうして下がった彼女の肩にバーバラは銃身を預け、不規則に体を揺らしながら向かってくる黒い影に対してスキルを放った。
『墜ちろ! 「迅雷鉄雨」!!』
<ドンッ!!!!>
バーバラが銃の引き金を引くと、銃口から巨大な火の玉が生まれる。
それと同時に、腹にひびく重厚な音がした。
<ドン!ドドン!ドドドドン!!!>
「おぉ!!」
打ち出された弾丸は、ガーゴイルの目前で断続した爆発を作る。
彼女が放ったのは、空間をキルゾーンにするスキルなのか!
ガーゴイルは避けるそぶりもなく、そのまま愚直に突っ込んできた。
無数の破片が飛び交う空間にそのまま飛び込み、鉄のシャワーを浴びる。
だが――
「効いてない?!」
多少表面を砕かれ、まだら模様みたいになっているが本体は健在だ。
こちらの攻撃に大した威力がないことに安心したんだろう。
ガーゴイルは逃げる素振りすら見せず、こちらに向かってくる。
『ありゃま。……まあ、そういうこともあるよね?』
「そんな簡単にあきらめないで?!」
「来ます! 衝撃に備えて!!!」
<ガゴンッ!!><ガキィンッ!!!>
ガーゴイルは通り抜けざまに、手に持ったハルバードをブン回す。
ラレースの防御スキルでこっちに向いた一撃は防げた。
だが攻撃の余波がとんでもないことになっている。
勢い余った斧槍の刃がバージの甲板をいとも容易く切り裂いて、甲板の下にあった積み荷の鉄クズをあらわにしていたのだ。
(あんなの喰らったら、生身の人間はタダじゃすまないな。)
良くて真っ二つ、悪けりゃ弾き飛ばされて海の中だ。
さて、どうしたもんか……。




