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キケン ホルナ

 ◆

 ◆

 ◆



「ツルハシ男はどこだぁ!!!」


 マインバッハ3世はイラ立ちを隠さない。

 待てど暮らせど、目的の人物が現れなかったからだ。


 それに採掘師達による封鎖も限界だった。

 探索者たちは採掘師を無視して、普通に通り抜けている。


 彼らが始めた検問も、もはや形だけとなっていた。

 

「閣下、ダンジョン内で調査をしてみたらいかがでしょう?」


「ふぅぅむ……これだけの人数がいれば、一層ならばいけるか」


「ハッ! メンバーには、戦闘ができる者もいます」

「むろん、戦闘職と戦えば一方的にやられるだけですが――」


「ツルハシ男は『採掘師』ィィ! ならば十分に勝機はあるゥゥ!」


「ハッ! その通りです閣下!! メンバーには採掘用の爆弾が使えるものもおります。ツルハシ男を爆散させてやりましょう!!」


「皆がそこまでいうのならぁ……しかたがぁ、あるまい!!」

「もの共、我に続けぇぇぇぃ!!!」


「「ウォォォォォォォ!!!」」


 マインバッハ3世の声を受け、採掘師たちは雄叫びを上げる。

 そしてその勢いのまま、ダンジョンの地下、第一層へと向かった。


 バタバタと騒々しい足音を立てるどころか、「打倒ツルハシ男」と声をそろえて唱和しながら進む彼らの姿は、ダンジョンの中でアホみたいに目立つ。


 ダンジョンの中でこんな目立つ行為をすれば、何が起きるか?

 当然、ダンジョンの内部をうろつく敵を呼び寄せてしまう。


 狩りのために敵を集めたいならまだしも、人探しでやることではない。

 無駄に手間をかけた自殺。そんな行為だ。


 しかし、今の彼らはツルハシ男への怒りで頭がいっぱいになっている。

 そんな些細(ささい)なことなど、全く気にかけていない。 

 

「ツールハシ男をやっつけろー!!!」

「やっつけろーーー!!!」


 素人丸出しのまま一層の通路を進むと、彼らはある物を発見する。

 本来なら第三層にあるはずの、明鏡石の鉱床だ。


「ややっ!! これはッ!!!! 閣下?!」


「ぬぅ~ッ!!! これこそツルハシ男の仕業に違いない!!」

「これは本来ならば第三層『炎威の獄』にあるはずの素材、明鏡石だ!!!」


「やはりツルハシ男は……」

「うむ!!」


「やつはダンジョンを私物化し、このように資源独り占めするつもりだ!!」

「あの壁を見よ!!!」


「な、なんてことだ……!!」

「おぉ……神よ、こんな事が許されて良いのか?」


 アースホルトン・マインバッハ3世がビシッと指さした壁。

 そこにはしっかりと「キケン ホルナ」と黒文字が書かれていた。


「キケン・ホルナ……は~~~ん?」

「これは間違いなくぅぅ『掘ったらぶっ殺すぞ』の意味だ!!!」


「なんて恐ろしい」「ギャー!!」「ツルハシ―!!」


 採掘師の一団からヒステリックな悲鳴が上がった。


 しかし王であるマインバッハは慌てない。

 彼は配下の者たちに父親のように優しく、穏やかに話しかけた。


「皆ぁ……落ちぃ着くんだ」


「これを見ればわかるぅ。スレに書かれた事は完全な真実だった!」

「ツルハシ男がダンジョンを作り変える力を得たのは間違いないッ!」


「きっとそれが、善良な採掘師であるぅ彼の魂を、歪めてしまったンだろう……」


「彼は三層にあるはずの鉱石を一層に持ち込み、それどころか、ダンジョンの一角を私物化した!! 彼はこの行いを止めるつもりはぁ……無い!!」


「見よ!!! このおぞましい黒文字(キケン ホルナ)を!!」


「がやがや……キケン」「ざわざわ……ホルナ」


「皆のもの、これは我々、採掘師に対する挑戦だ。」


「たった一人の邪悪な男による、独裁(どくさい)! 支配(しはい)! これを許して良いのか!!」


「許すな!!」「そうだ!! ツルハシ男を許すなー!!」「そうだ!!」


 正義の怒りに身を任せた一人の採掘師が、明鏡石の鉱床に獲物を振り下ろす。


 これに触発され、また一人、また一人と採掘師がツルハシをふるった!!


 <ガキン!><ガキン!><ガキン!><ガキンッ!>


 興奮した採掘師の手は止まらない。

 その場に4つあった明鏡石の鉱床はたちまち《《全て掘られて》》しまった。


「ダンジョンは皆のものであるはずだ!!」


「「そうだ!!」」




「いや、それは違うね。ダンジョンは俺のものさ」




「なにぃ?!……キ、キサマはッ!!!」


 マインバッハの言葉を否定した男が一人、そこに立っていた。


 手には小汚いツルハシをもち、粗末なコートを羽織(はお)って、顔の全くわからないフルフェイスのヘルメットを被った探索者。


 しかし彼の正体は、この場にいる誰もが知っている。


「現れたなァ! ツルハシ男ォ~~~~!!」

「ちょうどいい、お前の最期を世界に配信してやろう。」


 マインバッハ3世は表示枠を開き、実況配信を始めた。


 彼のチャンネル「我輩の世界採掘計画チャンネル」絶大な人気を誇る。


 マインバッハの振る舞いからすると意外に思えるが、こと採掘に関しては、本当に有能な探索者なのだ。


 彼はデータに基づいた丁寧な解説をするタイプで、チャンネルから得られる情報には役に立つものが多い。


 そのため採掘師はもちろん、戦闘職にも彼は高く評価されている。

 チャンネル登録者数はついこの間、10万人を超えたところだ。


「……へぇ、それは《《面白くなりそうだ》》」

「やってみろよ。やれるもんなら」


「ク、ククク……良い度胸だ」

「者どもゥ! かかりゃっしゃああああぁぁぁぁい!!!!!」


「「「ウオオオオオオオオオオオ!!!!!!」」」


 怒りで青筋を立てたマインバッハは、部下に攻撃を命じた。

 採掘師たちは我が王の下知に従い、勇敢に突撃する。


 ある者はツルハシを振りかぶって突撃し、またある者は火の点いた大きな爆弾を両手に持って突進する。たった一人を相手に、これで負けるはずがない。


 なぜかその時、彼はゾクッとして奇妙な感覚を得た。




 ツルハシ男の背後がぬらりと光り、笑わなかったか、と。

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