キケン ホルナ
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「ツルハシ男はどこだぁ!!!」
マインバッハ3世はイラ立ちを隠さない。
待てど暮らせど、目的の人物が現れなかったからだ。
それに採掘師達による封鎖も限界だった。
探索者たちは採掘師を無視して、普通に通り抜けている。
彼らが始めた検問も、もはや形だけとなっていた。
「閣下、ダンジョン内で調査をしてみたらいかがでしょう?」
「ふぅぅむ……これだけの人数がいれば、一層ならばいけるか」
「ハッ! メンバーには、戦闘ができる者もいます」
「むろん、戦闘職と戦えば一方的にやられるだけですが――」
「ツルハシ男は『採掘師』ィィ! ならば十分に勝機はあるゥゥ!」
「ハッ! その通りです閣下!! メンバーには採掘用の爆弾が使えるものもおります。ツルハシ男を爆散させてやりましょう!!」
「皆がそこまでいうのならぁ……しかたがぁ、あるまい!!」
「もの共、我に続けぇぇぇぃ!!!」
「「ウォォォォォォォ!!!」」
マインバッハ3世の声を受け、採掘師たちは雄叫びを上げる。
そしてその勢いのまま、ダンジョンの地下、第一層へと向かった。
バタバタと騒々しい足音を立てるどころか、「打倒ツルハシ男」と声をそろえて唱和しながら進む彼らの姿は、ダンジョンの中でアホみたいに目立つ。
ダンジョンの中でこんな目立つ行為をすれば、何が起きるか?
当然、ダンジョンの内部をうろつく敵を呼び寄せてしまう。
狩りのために敵を集めたいならまだしも、人探しでやることではない。
無駄に手間をかけた自殺。そんな行為だ。
しかし、今の彼らはツルハシ男への怒りで頭がいっぱいになっている。
そんな些細なことなど、全く気にかけていない。
「ツールハシ男をやっつけろー!!!」
「やっつけろーーー!!!」
素人丸出しのまま一層の通路を進むと、彼らはある物を発見する。
本来なら第三層にあるはずの、明鏡石の鉱床だ。
「ややっ!! これはッ!!!! 閣下?!」
「ぬぅ~ッ!!! これこそツルハシ男の仕業に違いない!!」
「これは本来ならば第三層『炎威の獄』にあるはずの素材、明鏡石だ!!!」
「やはりツルハシ男は……」
「うむ!!」
「やつはダンジョンを私物化し、このように資源独り占めするつもりだ!!」
「あの壁を見よ!!!」
「な、なんてことだ……!!」
「おぉ……神よ、こんな事が許されて良いのか?」
アースホルトン・マインバッハ3世がビシッと指さした壁。
そこにはしっかりと「キケン ホルナ」と黒文字が書かれていた。
「キケン・ホルナ……は~~~ん?」
「これは間違いなくぅぅ『掘ったらぶっ殺すぞ』の意味だ!!!」
「なんて恐ろしい」「ギャー!!」「ツルハシ―!!」
採掘師の一団からヒステリックな悲鳴が上がった。
しかし王であるマインバッハは慌てない。
彼は配下の者たちに父親のように優しく、穏やかに話しかけた。
「皆ぁ……落ちぃ着くんだ」
「これを見ればわかるぅ。スレに書かれた事は完全な真実だった!」
「ツルハシ男がダンジョンを作り変える力を得たのは間違いないッ!」
「きっとそれが、善良な採掘師であるぅ彼の魂を、歪めてしまったンだろう……」
「彼は三層にあるはずの鉱石を一層に持ち込み、それどころか、ダンジョンの一角を私物化した!! 彼はこの行いを止めるつもりはぁ……無い!!」
「見よ!!! このおぞましい黒文字を!!」
「がやがや……キケン」「ざわざわ……ホルナ」
「皆のもの、これは我々、採掘師に対する挑戦だ。」
「たった一人の邪悪な男による、独裁! 支配! これを許して良いのか!!」
「許すな!!」「そうだ!! ツルハシ男を許すなー!!」「そうだ!!」
正義の怒りに身を任せた一人の採掘師が、明鏡石の鉱床に獲物を振り下ろす。
これに触発され、また一人、また一人と採掘師がツルハシをふるった!!
<ガキン!><ガキン!><ガキン!><ガキンッ!>
興奮した採掘師の手は止まらない。
その場に4つあった明鏡石の鉱床はたちまち《《全て掘られて》》しまった。
「ダンジョンは皆のものであるはずだ!!」
「「そうだ!!」」
「いや、それは違うね。ダンジョンは俺のものさ」
「なにぃ?!……キ、キサマはッ!!!」
マインバッハの言葉を否定した男が一人、そこに立っていた。
手には小汚いツルハシをもち、粗末なコートを羽織って、顔の全くわからないフルフェイスのヘルメットを被った探索者。
しかし彼の正体は、この場にいる誰もが知っている。
「現れたなァ! ツルハシ男ォ~~~~!!」
「ちょうどいい、お前の最期を世界に配信してやろう。」
マインバッハ3世は表示枠を開き、実況配信を始めた。
彼のチャンネル「我輩の世界採掘計画チャンネル」絶大な人気を誇る。
マインバッハの振る舞いからすると意外に思えるが、こと採掘に関しては、本当に有能な探索者なのだ。
彼はデータに基づいた丁寧な解説をするタイプで、チャンネルから得られる情報には役に立つものが多い。
そのため採掘師はもちろん、戦闘職にも彼は高く評価されている。
チャンネル登録者数はついこの間、10万人を超えたところだ。
「……へぇ、それは《《面白くなりそうだ》》」
「やってみろよ。やれるもんなら」
「ク、ククク……良い度胸だ」
「者どもゥ! かかりゃっしゃああああぁぁぁぁい!!!!!」
「「「ウオオオオオオオオオオオ!!!!!!」」」
怒りで青筋を立てたマインバッハは、部下に攻撃を命じた。
採掘師たちは我が王の下知に従い、勇敢に突撃する。
ある者はツルハシを振りかぶって突撃し、またある者は火の点いた大きな爆弾を両手に持って突進する。たった一人を相手に、これで負けるはずがない。
なぜかその時、彼はゾクッとして奇妙な感覚を得た。
ツルハシ男の背後がぬらりと光り、笑わなかったか、と。




