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芝浦埠頭

「ここが船が来るっていう、芝浦(しばうら)埠頭(ふとう)ですか」


「はい。連絡をするので少し時間をください」

「もちろんです」


 ラレースは十字を切って表示枠を出すと、通信を始める。

 いまさらだけど、オレが乗っちゃっても良いんだろうか?

 完全な部外者だけど。


 まあいいか。

 俺は波止場によくある床から突き出たアレに腰掛ける。


 マスクのフィルター越しでもわかる、腐った油の混じった潮風の臭い。

 ひび割れたコンクリートの桟橋を叩く波の他に、音はない。


 いやはや、とても観光するっていう気分になれないな。

 悪臭から気を紛らわせるために、俺は視線を遠くへ移した。


 黒い波間には乱す風もなく、ただひたすらにいでいる。

 遠くに見える「都市」まで、平たい板のような黒い海が続いていた。


 全ての物が動きを止めて、一枚の絵のようだ。

 こんなただ黒いだけの殺風景な絵を欲しがる奴はいないだろうが。


「――了解、通信終了。……ふぅ、ツルハシ男さん終わりました」


「お疲れ様です、ラレースさん。どうでした?」


「近くを移動している船があったので、それほど待たずに移動できそうです」


 ラレースも俺と同じように、すこし離れた場所にあるアレに座った。

 距離感!!


「そうですか。あの――」

「なんでしょう?」


「ラレースさんは(ぬえ)の動きに詳しいみたいでしたけど、戦ったことが?」


「いえ、鵺は人が多いとほとんど現れないので……師匠から聞いたものです」


「その師匠っていう人、強いんですか?」

「えぇ。ちょっと戦い以外の部分が、いろいろ抜け落ちちゃってますけど」


「抜け落ちてる?」

「ちょっとだらしない人でして」


「……てっきり、見る人全てに襲いかかるバーサーカー的な人なのかと」


「フフ、そんなオバケみたいな人じゃありません。性根は面倒見の良い、優しい人ですよ。都市についたら紹介しますね」

「よろしくお願いします」


 ダンジョンを出てからというもの、お互いの会話が丁寧語になっている。

 特に悪いというわけではないのだが、見えない壁のようなものを感じてしまう。


 うむ、ちょっと話題を変えよう。


「ラレースさんが拠点にしている『都市』のお台場ってあれですよね?」


 俺は黒い波の向こうに見える四角い影の群れを指さした。


 お台場までの距離は直線にして1キロもない。

 それなのに空気中のチリが霧のようになって、建物の正体がつかめない。


「はい。私達が住んでいるのは東側。昔は国際展示場と呼ばれていた場所です」


「歴史の授業で聞いたことがあります。年に二回、日本各地から自分の作ったものを持ち込んで売るっていう、大規模なバザールがあったって」


「それは過去の話じゃありません。国際展示場は今でも市がたっていますよ。手に入らない物を探す方が難しいです」


「へぇ、じゃあ新しいツルハシとハンマーを……ダメだッ!!」


「俺は文無しだった!! おおぉぉぉぉ!!! なんでこんな時に俺はァッ!」


「のたうち回らないでください!! 海に落ちちゃいますよ!!」



「落ち着きました?」

「……ハイ」


「いきなり5000万の神気を失ってパニックになる気持ちもわかりますが……」


「……アー……ウー」


「……ツルハシ男さんが『ぬ』と『ね』の区別がつかなそうな状態に……」


「一応、お台場の西には『お台場ダンジョン』があります。そこで神気を稼いでも良いかも知れませんね……」


「お台場のダンジョンは潜ったこと無いな。そもそもお台場が始めてだけど」


「急に正気に戻らないでください!!」


「……オホン、もし行くならお供しますよ、それか、うちの騎士を連れて行っても良いかも知れませんね。2層までなら、みんな慣れているので」


「へぇ……どんなのがいるんです?」

「そうですね、まず一層には――」


 ラレースとお台場ダンジョンの話をしていると、どこからともなく、ポンポンという気の抜けたエンジンの音が聞こえる。

 どうやら迎えの船が来たようだ。


(……思ったよりゴツいなぁ)


 迎えの船と聞いて、モーターボートみたいなのを俺は想像していた。

 だが迎えに来た船は、船っていうよりは、浮いた箱って感じだった。


 船の側面にはバイキングの船が盾を並べるみたいにタイヤが並んでいる。

 甲板は吹きっさらしで、手すりも何もない。いかにも危なそうだ。

 

「バージ船が来ましたね。この子は近くで荷物を運んでたようです。」


 へえ、この船ってバージっていうのか。

 バージの後ろには、人が乗った別の小さな船がついている。


 なるほど。バージ自体には動力がなくて、ただの箱。

 後ろにある船が動力になってるんだな。


「よし、合図します」


 ラレースはスキルのフラッシュを使って光を点滅させ、船と交信する。

 船に乗っている人も同じく光を点滅させ、バージを岸壁に寄せてきた。


「急いで乗ってください。すぐ出ますよ」

「あっ、はい!」


 ラレースがバージの上に乗ると、後方の船から誰かがタタッと駆け寄って来た。

 彼女はラレースに敬礼すると、弾んだ声で挨拶をしてくる。


『シスター・ラレース。お帰りなさい』

「ただいま。シスター・バーバラ」


 ラレースが挨拶を返したバーバラという騎士は、彼女に比べると軽装だった。

 しかし、鎧よりも俺の目を引いたのは、彼女が持っている装備だ。


 「銃」だ。


 今の御時世、銃を使う人間は本当に少ない。

 銃のスキル自体は強力だが、Gomazonで売っている弾丸はとても高価だからだ。


 海の上だとほとんど近接武器が役に立たない。

 だから特別に持っている感じなんだろう。


(……ちょっとまって? 船旅ってもしかして――)

(そんな安全じゃないって……コト!?)


「よし、出してくれバーバラ」

『了解しました!!』


 俺の不安をよそに、バージは黒い波間を押しのけ、前へ進み始めた。

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