アースホルトン・マインバッハ3世
◆◆◆
その頃、ダンジョンの入口にある探索者村で騒ぎが起きていた。
地上への出入り口をある一団が封鎖し、自由な通り抜けを禁じているのだ。
彼らはみな同じような格好をしている。手にツルハシを持ち、頭にはライトの付いた採掘ヘルメットを被っていた。
彼らは『大穴事務所』。
採掘関係のスキルを持つ探索者たちが集まって出来た組織だ。
ダンジョンの入口を封鎖するなど、もちろん探索者たちが許すはずがない。
採掘師と探索者はお互いをにらみ合い、たちまち剣呑な雰囲気となった。
すると、派手なコートを肩に掛けた一人の男が採掘師の一団から歩み出てきた。
男はまるでトランプの「キング」に作業着を着せたような風体をしている。
彼は「スゥゥゥ」と、音が聞こえるほどに深く息を吸い込む。そして――
「皆のものぉ!!聞くがぁぁぁぁよいっ!!」
「吾輩はアースホルトン・マインバッハ3世であーるぅぅぅぅ!!」
「ツルハシ男はぁ……!! このダンジョンにおぃいてぇッ!!
――開拓の名を借りた、破壊行為を~!! しているゥゥッ」
「奴はダンジョンを破壊しぃぃ……限りある資源を略奪!!!」
「おのれのものとして独占を企んでいーるぅぅぅぅ!!!」
「そ! こ! で!!!」
「我々の権限にぃおいてぇ!!ここで臨時の検問を行うぅぅ!!
ダンジョンから外に出るものぉ~わぁ――」
「我々の検査を受けることッ!!!!」
堂々と勝手なことを言うマインバッハ3世に賛同するものは多くない。
二度寝を邪魔され、舌打ちした探索者がペラペラの布団から起き上がった。
「クソ、朝っぱらからやかましいなぁ」
寝ぼけた様子の若い探索者はそう言ってうめく。
彼の横に居たベテラン風の探索者も、怒りを隠さなかった。
「あんなネットリした声で起こすとか、人道に対する罪だろ」
「水のかわりに油飲んでるのかな?」
「オッサン、アイツ何? すげえドスの利いた巻き舌のやつ」
「採掘師の親玉だよ。ツルハシ男に一言、もの申したいんだろ?」
「ん~ッ!! 他所でやってくれないかな、
採掘師は騒ぐんじゃなくて掘るのが仕事だろ!」
「だな、で、自分の掘った穴にそのまま埋まってくれりゃいい」
『あの……ちょっといいですか?』
「ん? 騎士さんか」
借り物の布団をたたんでいる二人に、声をかける者がいた。
おそろいの白い甲冑を着込んだ、二人の騎士だ。
騎士は片方の身長がとても高く、もう一方は低い。
それが二人の探索者には、まるで子供連れのように見えた。
彼らに話しかけたのは、そのうちの身長が低い、子供のように見える騎士だ。
「まー騎士さんたちにゃ関係ないよ」
「目当てはあんたらじゃない。『大穴事務所』って所の採掘師どもは、ツルハシ男っていうやつを探してんのさ」
『なるほど、ツルハシ男……あの配信をしている人ですね』
「お、よく知ってるな」
「あいつらがイラつきだして、誰彼かまわずイチャモンつけだす前に、さっさと通ったほうが良い」
『そうします』
首に鏡を下げていた騎士は丁寧にお辞儀すると、足早に彼らの元を立ち去った。
「なんかどっかで見た気が……気のせいか?」
◆◆◆
「つーぎぃぃぃぃぃ!!!」
「聖墳墓教会の騎士二人です。通ってよろしいですね?」
「ふぅぅーむぅぅぅ……?」
「ちょ待てぃぃ!!!」
『何か?』
「ぬぅぅぅぅん……」
二人の騎士をマインバッハはしげしげと見つめた。
が、彼の横にいた採掘師たちが耳打ちする。
「マインバッハ3世閣下、鎧は似てますが、二人とも声が違います」
「ええ、大きい方は似ていますが、配信にいた騎士はもっと乱暴な感じで男みたいな声でした。こんなきれいな声の女の人じゃないですよ」
「閣下、それにこの足止めが問題になって。教会とトラブルになったら……」
「うむぅぅ……では、通ってよぉぉーし!!」
「おつとめご苦労さまです」
「――いや……まてぇぇぇぇい!!」
「――ッ!」
「旅の幸運をお祈りするーぅ!!!」
「……そちらもお気をつけて」
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荒れ果てた地上を歩く、大小の二人の騎士。
彼らは手頃な物陰を見つけると、そこへ身を隠すように潜り込んだ。
周囲に人の気配がないことを確認すると、小さい騎士が胸元の鏡をなでる。
すると、騎士の姿はツルハシ男のものになった。
『ふう、最後はヒヤヒヤしましたね』
「こんなにうまくいくとは思いませんでした」
『ラレースさんが「これ」を持ってて助かりましたよ』
「本当に、すごい偶然でしたね」
俺は息を止めて、ヘルメットの内側につけた護符を外す。
これはラレースがヘルメットに使っていた拡声術式だ。
彼女は戦闘指揮のために声を張る必要がある。
それでこれを使っていたのだ。
この護符を使うと、別人のような声になる副作用がある。
今回はこの副作用を利用して、連中の検問をごまかしたのだ。
「連中のせいで時間を食いました。先を急ぎましょう、ラレースさん。」
「はい!」
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