時間切れ
「そう言えば気になってたんですけど」
『何か?』
「ジジイと話してる時、なぜかラレースさん、ちょっと話し方変わりますよね」
『気になりました?』
「あ、いや、そういうわけではないんですが」
『お年寄りを前にすると、師匠のこと思い出しちゃうんですよね……』
「あー、それでちょっと丁寧になるんですね」
『その……もしかして気に障りました?』
「いや、楽な話し方がそっちなら、それでいいかなーって」
『あ……すみません、お気を使わせてしまって』
「あ、いえ、お気になさらず」
くっ、コミュ障だからどうしても「あ」とか「いえ」とか言ってしまう。
ボッチの悲しい性だぜ。
『そうだ。リッチさんにもうひとつ聞きたいことがありましたね』
「えっ、何かありましたっけ?」
『あの怪物のことです。』
「む、一体何の話じゃ?」
「流石のジジイもあのモンスターのことは知らないと思うけど……」
『そうではなく、ダンジョンネズミたちが怪物になって、神の御前に送れなくなった。つまり人がモンスター化することについてです』
「うーん……人がモンスターに、あっ!!」
『人がモンスターになる実例が、私たちの目の前にいるじゃないですか』
ラレースの言う通りだ。
そういえばそうだった……ジジイはリッチだ。
人が自分の力で不死者に、モンスターになった存在じゃねぇか!!
しかもジジイは俺たちと話せる。
欲しかった答えのほとんどが手に入るのでは?
「お前たちの言うことがよくわからん。ワシにわかるよう説明してくれるか?」
『はい。まず――』
ラレースはジジイにこれまでのことを説明した。
ダンジョンネズミが俺たちに戦いを仕掛けてきたこと。
それから、姿を消していたそいつらがモンスターに変じたこと。
弔いをしようと思ったが、何も起きなかったこと。
この数日、ダンジョンで起きたことの全てをジジイに語った。
「ふむ、女騎士、お主が今語った全ての事……それはただの事実だ」
「それで、その事実から何が知りたい?」
『それは――』
言葉につまったラレースの代わりに、俺が答えた。
「人がモンスターへどうやって変じるんだ? 一度変じたら戻れるのか?」
「……ワシの知る限り、獣に戻ったもの、人になった者はおらんな」
なったらおしまいか。
ジジイが知らないだけの可能性もあるが。
「ワシが変じたのは……確かダンジョンに潜り、不死の術を求めそれを自分に使った時、だと思う。そのあたりの記憶は定かではないんじゃ」
「ジジイも年だからな……」
「殴るぞ」
「次に、モンスターは死ぬと、一体どうなるんだ?」
「俺たちは死体を弔われると神の御前とやらに飛ばされる。で、人を殺すとか神を汚すなんかの悪徳をしてたら地獄に行く。あんたらはどうなるんだ?」
「ワシの意識がダンジョンの中を巡っていた気がする。そして気がつくとまた同じところに立っている。その繰り返しよ」
「認知症による徘徊か」
「お主の頭もそうしてやろうか。脳みそチュルチュルというスキルがあるぞ」
「なにそれ怖い」
聞いてはみたものの、思ったよりピンとくる答えが帰ってこないな。
ジジイだからって言うより……。
モンスターにもよくわからないって感じか?
あと聞きたいのはモンスター側の神気の取り扱いだが……。
ここで聞くとラレースさんがジジイをボコりそうだから止めとくか。
ジジイの信仰、確実に生贄の儀式あるだろ。
人の心臓を捧げたら神気がもらえるとか、確実にそっち系だろうからな。
ま、人間側も「神の敵」とかいう、ガバガバな分類をしてるからお互い様だ。
どっちが悪いとか考えるのも、正直無駄な気がする。
『ツルハシさん、リッチさんの言う事が確かなら、私達が倒したあのモンスターは、またいつかダンジョンに現れるんじゃないですか?』
「あっそうか……それはあんまり良くないですね」
「俺たちが戦ったモンスター、仮に『ミラービースト』とでもしておきますが……あいつはどう考えても、一層で出てきていいモンスターじゃない」
『同感です。あれは幻影が強ければ、それだけ強くなります』
「うん、首狩り斬姫を出しただけでも、一層までしか行けない探索者は皆殺しにされる。あんなのがリスポンするようになったら、開拓どころじゃない」
『一層から下へ降りるだけでも、命がけになりますね』
「ですよね」
それに次に戦う時、奴はラレースを出してくるかも知れない。
そうなったら苦戦は必至だ。
ラレースの後ろからパシパシ杭を撃たれたら?
きっとそこらの探索者では何も出来ないぞ。
「まいったな、ダンジョンの開拓が予想外のところで頓挫しそうだ」
『まだ現れると決まったわけではないですが、不安ですね』
ラレースさんとの会話が一区切りつくと、俺はふと眠気に気づいた。
表示枠に出ている時間はもうすぐ深夜の12時をまわろうとしている。
そろそろ寝るか。
「とにかくもう遅いし、今日は休もうか」
『もうこんな時間ですか、リッチさん、そろそろ失礼いたします』
「うむ、休むと良い。探索者の見張りは任せておけ」
「……なんかジジイ、俺に対する態度とちがくない?」
「おぬしに気を使うメリットある?」
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仮拠点に引っ込んだ俺たちは、壁の一部を明鏡石の鉱床に取り替えた。
寝る前に採掘して、12時を基準として時間を計るためだ。
「表示枠の時間を設定してっと……」
<ピピピピピピピピッ!>
「んっ?」
12時になった瞬間、唐突にアラームが鳴ったが、これは俺のじゃない。
まだアラームは設定してないからだ。
音は俺の背後に居たラレースさんだ。
彼女は甲冑を脱ぎ、上半身をタンクトップだけにして表示枠を見ている。
「しまった。すっかり忘れてました。もうすぐ時間切れみたいですね」
「……時間切れ?」
「はい。あと24時間以内に、私は『都市』に帰らないといけません」




