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『ダメだ。《送れない》』


 ラレースがそう言うと、彼女の肩に乗ったマリアも、首を横に振っている。


「ってことは、もう完全に……」

『そうだな。モンスター、ということだ』


 戦いが終わった後、俺たちは後始末に取り掛かった。

 で、変わり果てた姿になったコイツも葬ろうとしているのだが……。

 大国主(オオクニヌシ)、次にラレースが葬ろうとしても、死体は消えない。


 そして、こいつがくたばった時点で、俺たちに神気が入ってきている。

 これは敵を倒した時と全く同じだ。


「元人間がバケモノになり、ダンジョン、そして神にもそう認められた」

「そういうことなんでしょうか?」


『おそらく、そういうことなのだろうな』


「……あの幻影は一体なんだったんですかね?」


『こいつは完全に姿を消すことが出来る。人々をじっくり観察して、その幻影を作った。そんなところだろう』


「あぁ、戦ってたときも、かなり近くまで忍び寄って来ていましたね」


『お前の依頼主や首狩り斬姫の事も、そうやって覚えたんだろう』


「俺たちの横に、しれっと立ってたかも知れない、ってことか」

『……嫌なことを言うな』

「完全なホラー生物ですねコイツ」


『葬ることが出来ないなら、放っておくしか無いな』

「こいつが本当にモンスターなら、そのうち消えますからね」


 ダンジョンで死んだモンスターの死体は、不思議な挙動をする。

 死体が腐敗して、虫やらが飛び始める前に、その姿を消すのだ。


 ……まあ、腐敗する前に消えるといっても、それを俺たちは「腐って消えた」と表現するのだが。

 

 この「腐って消える」おかげで、俺たちはダンジョンの中で臭い思いをしなくて済む。


 だが、モンスターの肉や骨、皮を素材として活用するには乱獲が必要になる。


 モンスターが落とす品、ドロップ品を除いたものは全て、その場で消えてしまう事を意味しているからだ。


 これはよくダンジョン探索者の間でもネタにされる。


 メチャクチャ苦労して、巨大な牛のモンスターを倒した!

 はい、アナタがもらえるのは肉の切り身1枚です!


 ……こんなクソみたいなのがザラにある。

 他の部分どこいった?! みたいなのがマジでよくあるのだ。


 まあ、(まれ)にその逆もあるけどね。

 第三層、火鼠(ファイアラット)の皮みたいに、明らかに本体に比べてデカすぎんだろ?!

 っていう量のドロップが出ることもある。


 あまりにも理不尽すぎて、探索者はそのうち疑問に思う心もなくす。

 次第にダンジョンに常識が(おか)され、おかしくなっていく。


 この狂気とも、ダンジョン探索者は戦わなければならないのだ。



 しらんけど。



「そうだ、後はあいつのドロップ品ですが、これ、どう分けます?」

『……どうしたものかな』


 俺の手元には古びた鏡がある。

 古びた白銅を磨いて鏡にした、いわゆる銅鏡ってやつだ。


『所持品欄ではどう表示される?』

「あっそうか、試してみますね」


 俺は二拍手で表示枠を開いて、アイテムを収納する。

 すると、鏡は所持品欄では『鏡(?)』となっていた。


「だめですね、鏡としかでません。未鑑定アイテムです」

『なら「鑑定」のスキルを持っている者を探す必要があるな』


「ですね。『都市』ならこれを鑑定できる人がいるでしょう」


 「鑑定」は、物品の名前や用途、背景を明らかにするスキルだ。


 こういったアイテム名の後ろに(?)がついた未鑑定アイテムは、鑑定スキルを持った者に「鑑定」してもらわないと、詳細がわからない。


 実際のところ、大抵のアイテムはすでに解明されてるので、見た目でそれとわかる。しかし、そうと分かっていても、大抵の探索者はアイテムを鑑定する。


 モノによっては、何らかの呪いがかかってる場合があるからだ。


 ま、未鑑定のまま使う勇者(アホ)もたまにいるけど。


『一応、そのまま君が持っていてくれ。持ってる分には平気だろう』

「わかりました。でも鑑定かぁ……法外な神気をぶんどられるからなぁ」

『仕方がないだろう。他に方法がない』


 ……いや、待てよ? 他の方法、あるんじゃね?


 このダンジョンには、この手のモノに詳しそうな奴が一人だけいる。

 ――そう、ジジイだ。


 この鏡は後でジジイに見せてみよう。

 きっと何か知ってるかも。


『そう言えば……』

「はい?」


『なぜあの依頼人が偽物とわかったんだ?』

「あー……あれはですね」


「クロム鉄鉱200キロ採取、一週間の期限って――」

「あれ、依頼人が加工する時間を残すための〆切(しめきり)だったんです」


『ん……どういうことだ?』


「《《本当の〆切》》は、もっと長かったんです」


『すまない、よくわからない』


「つまり、依頼人は材料を使う事が目的で、集めるのが目的じゃないんです」


 俺の言ったことの意味に気づいたのだろう。

 ラレースはパチンと指を鳴らした。


『そうか! その200キロを使って、制作することが目的なら、鉱石を少しづつ届けてもいいのか!』


「はい、そのとおりです」

「そもそも一週間じゃ、鉱床の再生が間に合わないので。」


『なるほど……それでは誰も依頼を受けないはずだ。』

「はい」


「一週間をただ待つだけじゃなくて、依頼人に作業をし続けてもらって、こっちは延々と届け続ける。それで《《二週間》》かけて何とか終わらせたんです」


『あの依頼人に化けていたやつは、それを一週間きっかりと言った……』

『なるほど、それでわかったのか』


「はい、依頼人と二週間、ずーーーっと作業してましたからね」


『なのに一週間と。』

「はい。そこでピンときました」


『受けた依頼内容と仕事の実体は異なっていたんだな』

「はい。ぶっちゃけトラウマですよ」


 ふっと何かに気づいたのか、ラレースは動きを止める。


『そうなると……一つ気になる事があるな』

「なんです?」


『奴は依頼人とお前の関係を、どこかで見ていたことになる』


「……あいつ、いつから見てたんでしょうね?」

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