鏡の中の獣
「ま、まってくれ、助けが必要なんだ!」
「あれっ?」
『む、貴方は……?』
ダンジョンの影から現れたのは、見覚えのある人物だった。
第三層の開拓の検証を始めていた時、オレたちに差し入れをくれたあの人だ。
彼は肩に怪我をして、マスクのバイザーもひび割れている。
「あなたは『炎威の獄』で会った……一体何があったんです?」
「でっかいカエルみたいな奴に襲われたんだ。仲間はどうなったか……」
『そいつは杭か矢を使ってこなかったか?』
「ああ、とんでもなくぶっといのを打ち出してきた。必死で逃げてきたんだ」
『ふむ……まだその奥にいるのか?』
「ああ、あんた頼む! まだ仲間が生きているかも知れないんだ!」
「差し入れの礼じゃないが……ラレースさん、やるか?」
『無論だ。騎士としての努めでもある』
「あ……ありがとう! ありがとう!」
「仕事を受けた縁もあるしな」
「また一週間で200キロのクロム鉄鉱を集めろって言われると困るけどな」
そういってハハッと笑うと、それに釣られたのか、彼も笑った。
「ああ、さすがツルハシ男だ」
「あんたちゃんと……ピッタリ一週間で集めてくれたもんな」
(――?!)
『では行こう。貴公は隠れて――』
「ラレース!! 退けッ! 」
『――ッ!』
俺は叫ぶとその場に毒矢トラップを展開した。
<バッシュシュシュ!!!>
「グワッ!!!」<ドスドスドスッ!>
ラレースは俺の声に素早く反応し、地面を蹴って円舞を踊るようにして、毒矢のトラップを回避する。
毒矢の嵐はそんなラレースの代わりに、差し入れをくれた探索者の姿をした何かに降り注いだ。男の胸に、緑の蛍光色を放つ、無数の毒矢が突き立った。
「な……なぜ!! ナゼ――「「ワカッタ!」」
毒矢を受けた男は、それでも転がりながら射線を外す。
しかし毒矢に仕込まれたマヒ毒が、彼の体の力を抜き、膝をつかせた。
「一週間でクロム鉄鉱200キロなんて集められるわけねえだろバーカ!!!」
『えっ? だがお前の依頼者は……』
「ラレース、その話は後! とにかく目の前のコイツを何とかする!」
『わかったッ!』
「ウゥゥゥゥ!!!」
依頼人の姿を取ったものが咆哮する!
するとその姿がぐにゃりと歪み、周囲の風景を写すようにして――割れた。
<ガシャン――ッ!>
鏡の破片のようなものがダンジョンの床に散らばる。
しかしそれは地面に落ちると、煙のようにかき消えてしまった。
男のいた場所には、白い皮膚を持ったカエルのような存在が現れている。
しかしカエルにしては奇妙だ。カエルの頭に相当する部分には横に伸びた首が2つあり、先端に爛れた頭があった。
怪物の下半身は逆関節になっていて、カエルというよりはバッタに近い。
なんだコイツは?
「「ツルハシ、オ、男、コ…コ、コロス」」
2つに別れた頭が、俺に向けて殺意のこもった言葉を合唱する。
え、まさかの俺狙い?
『危ない! 金剛不壊――「ランパート!!」』
スキルを使ったラレースが俺と怪物の間に割り込む。
それにわずかな間隙もなく、彼女の支える盾を何かが叩く音が響いた。
彼女の足元を見ると骨の矢、いや、杭が転がっている。
さっきの死体はこいつの仕業か!!
「「オ、オデタチ……コ、コノママ、ジャ、ダメ」」
「「ソ、ソウダアイツ…‥アイツノ、カ、カ、カゲ、ヨブ!!」」
モンスターは月影を宙に浮かべたかと思うと、周囲の風景を写し取る。大きさも形も様々な鏡の破片が周囲の風景を写し、その姿をおぼろげにしていった。
そうして鏡の中に怪物が消えたかと思うと、その場に一人の少女が残っていた。
黙って目を伏せた、ミニスカートの和服を着た黒髪の少女だ。
彼女は前触れもなくパチッと目を開くと、場違いな陽気な声をあげた。
「今日もみんな、首狩り斬姫の配信に来てくれてありがとうね~!!」
「はぁっ?! なんで首狩り斬姫が!?」
目の前にいるのは、見覚えのあるダンジョン配信者だ。
フォロワーもとい信者を連れて、モンスターの首を狩りまくり、たまに探索者の首も狩る。どちらかと言うと、迷惑配信者よりの探索者だったはずだが……。
『知っているのか? ツルハシ男』
「はい、ダンジョン配信者です。こんなところにいるはずありません!」
『だとすると幻影か分身、影術か?』
『しかし、影術で実体のない分身を呼ぶなんて、聞いたこともない』
「こらー! 私のこと無視すると怒っちゃうよ!」
「そんな子には首狩り斬姫の必殺スキル!!」
「一意専心――『無拍一文字』!!!」
斬姫がスキルを発動すると、ダンジョンの暗闇を割断する白線が飛んできて、ラレースの盾に吸い込まれる。
<ガキィィィィィィィィン!!!!!>
『クッ!!』
「うぉっ?!!」
ラレースの盾と斬姫の剣戟がぶつかり、とんでもない音がした。
あまりの大音量に、俺は失神しかける。めまいのする頭にムチ打って前を見ると、ラレースの盾の外側、ダンジョンの壁と床の表面にスキルのエフェクトが残っている。
エフェクトはすぐに消えたが、とんでもない広範囲&高威力だ。
斬姫の分身(?)は大体LV50くらいの実力があるんじゃないか?
もしこれがラレース一人の戦いだったら、余裕で張り倒せるだろう。
だが、彼女は俺を守る気だ。
斬姫の攻撃は見ての通り広範囲。
守る彼女としては、全く気が抜けない。
これ……もしかしなくても、危ないのでは?




