闇に息づくもの
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『それで……そんなに持って帰ってきたのか?』
「いやほら、ラレースさん、あくまでも実験のためにね?」
『……実験のために第三層の明鏡石の鉱床を半分も取ってきたのか?』
あの後、俺はついつい誘惑に負けてしまった。
第一層を歩く俺の所持品欄には、10個の『明鏡石の鉱床』が入っている。
これは第三層に存在する鉱床の半分にあたった。
前を行くラレースさんは、俺に背中を向けたまま呆れたような声を上げる。
『独り占めしようなどと考えるとは……まったく』
「いやいや、物欲で闇雲に掘ったわけじゃないですよ!」
『ほう、ちゃんと考えがあってのことか?』
「どれだけの時間で再生するのか、その比較とか……」
『なるほど。時間差で掘って、再生にランダム性がないのか調査するのか?』
「そうです、それそれ!」
「それと後は……他の階層でも再生するのか? っていう所ですね」
『うん、それは確かめたほうが良いな』
『明鏡石が「実は第三層の熱で生成されていた」となると、我々のしたことはただの破壊ということになってしまう』
「それも含めて実験ですね」
「鉱床の持ち出しは大問題ですけど……取れるって気づいた今の段階で、調査したほうが良いと思うんですけどね」
『ん、何故だ?』
「もし俺と同じスキルを持つ人たちが出てきたとします。そうなるときっと、鉱床はバラバラにどっかへ行ってしまう。その可能性が高いと思うんですよ」
『個人の良識、モラルに期待する。それがどんなに無謀な事なのか、地上を見ればわかるからな』
「……そうですね。」
『全員が全員、お前のような奴ではないからな』
「それって褒めてます?」
『……微妙なところだな。……冗談だよ』
俺はガクッとなってしまった。
ラレースさんの完全な信頼を得るのはまだ難しそうだ。
『一応確認しておくが、実験が終わったら不要。ということで良いな?』
「あっハイ」
『ならよし。』
『実験が終わったら全部返すぞ。まったく……他の採掘師にも迷惑だろう』
「ですよねー」
鉱床の持ち出しは、流石にラレースさんからダメ出しがでた。
俺も内心、これはちょっとやばいかなと思っている。
どう考えたって採掘師業界はもちろん、もっと上の人たち――
最悪、「都市」からも暗殺者が飛んできそうだもん。
『私は採掘師業界のことをよく知らないが……鉱床をそのフロア以外に持ち出すのは、自重したほうが良いと思うぞ』
「ですね。かなりの同業者を敵に回しそうです」
『もう持ち帰ってしまったものは仕方がない。ちゃんと返すとして――』
前を行くラレースさんがピタリと動きを止めた。
何事とかと思った俺はサッと屈み込むと、彼女の膝の間から前を見た。
「……うへ、こりゃひどいな。」
『モンスターがやった後のようだが……』
俺の目の前に、元は人間だったモノがあった。
床に広がる血はまだ完全に固まりきっていない。
「部屋でもない場所で死んでるなんて……」
『【はぐれボス】か、探索者どうしの戦いか』
「腕や足に大きな穴がありますね」
『銃か? いや、それにしては妙だ。手足からの出血が少ない』
「胴体は派手にぶちまけてますね……」
ラレースはしゃがみこんで死体を調べ始め、分析を語り始めた。
『手足の傷は血管が潰れている……死んだ後に抜いたか』
『……矢にしては太い。これではまるで杭だ』
「そんなの使うモンスター、一層にいましたっけ? 俺、けっこう浜離宮ダンジョンには詳しいつもりですけど……こんなの見たこと無いですよ」
『ツルハシ男も知らないとなると、新種か?』
「ですかね」
『――ッ!』
ラレースは何かに気づいて死体の前から立ち上がった。
そして前方の闇を見つめると、静かに戦鎚に手を伸ばす。
『待て……何かいる。ツルハシ男、私の後ろに下がっていろ』
険しい声を放った後、彼女は「ガシャン」と甲冑を鳴らし、盾を構えた。
『誰だ!!』




