炎威の獄の開拓
『すごい、さっそく視聴者数が2万を超えたぞ』
「はやっ!?」
ラレースは俺の配信を表示枠で確認して、感嘆の声を上げた。
しかし、彼女は喜ぶどころか表情を険しくして、武装を握りしめる。
『妨害を目的にした探索者が来たら排除する。入り口で警戒につく』
「わかった、頼りにしてるよ」
『……あぁ』
配信が伸びるということは、その分、危険も増すということだ。
俺が言葉を送ると、彼女は頷いてダンジョンの入口近くで配置につく。
分厚い盾を地面に刺し、戦鎚を振りかぶる。
完全な戦闘態勢を彼女は取った。
ラレースさんがこうして守りについてくれるなら、安心して作業できるな。
――よし、では始めるか!
「まず皆さんにお知らせしたいのは、三層の床が燃えている原因です」
「ご覧ください。10メートルほど地下に、溶岩が流れています」
「この熱が上に上がってきて、燃える床ができているんですね」
「いくら床を取り替えても、溶岩がある限り床は炎を吹きます」
「なのでこの『溶岩』という元を断つことにします!」
俺は二層で大量に手に入れた「アレ」を出す。
氷だ。
俺は二層のはぐれボス、カッパを退治した時に、ジジイからパクった「氷のオーブ」で水を氷にして、ブロックとして回収するという手段を取った。
その時の副産物として、俺の所持品には大量の氷が残っているのだ。
<ポンッ><ポンッ>
氷は土台となるブロックの上に置かれた。
直接溶岩に置かないのは、とある理由のためだ。
「氷のオーブ」で溶岩が固められれば良かったんだけどな……。
流石に溶岩相手では、氷のオーブを使っても何も起きなかった。
いくらジジイでも、溶岩なんか想定してないか。
素朴な疑問だが、一日経っているはずなのに、何で氷が溶けてないんだろ。
所持品に入れると、アイテムの時間が停止する効果とかあるのかな?
この氷、夏までいくつか取っておいて、氷屋を始めても良さそうか。
…………いや、無いわ。
この氷、死体をダシにしてる水だったわ。
どんなドリップが出てるかわかったもんじゃない。
かき氷にでもして「ウマイ!」とかいう奴が居たら逮捕したほうが良いぞ。
冷房代わりに使うのも……ダメだ。
お部屋に置いて死臭が漂ってきたら、クレームじゃすまない。
ジジイだったら喜ぶかもしれんが、人類にはまだ早すぎる。
さて、俺は氷ブロックを置いた次に、自分が逃げ込むための避難場所を作る。
これは氷が溶岩に落ちた時に起きる、「ある現象」から身を守るためのものだ。
「安全のために屋根付きの壁を用意してっと……では、いきます!」
俺は氷ブロックが乗っている土台を破壊する。
そして、氷が落ちる刹那の瞬間、避難場所に逃げ込む。
(うぉぉ! いそげぇッ!!)
<ボムッ!! ボシュゥゥゥウッゥゥゥウウウウ!!!!>
氷ブロックが溶岩に沈むと、爆発の後にものすごい湯気が上がる。
<ジュウゥゥウウウウウゥ!!!ズジュウウウウ!!!!>
「えーー!! これは水蒸気爆発ってやつですね!!」
固体から液体、そして気体になると、物体のサイズが大きくなる。
そしてこの速度が速いと、爆発という現象になるのだ。
するとどうなるか?
氷が爆散して、溶岩が自由だァァァ!!!って飛び散るのだ。
俺はどうしても近くにいなきゃいけないので、メチャクチャ怖い。
ビチャビチ!!ビチャ!! と、暴れ狂う溶岩が落ち着くのを、小動物のように震えて待つことしかできない。
本気で心臓に悪いよこれ。
「そろそろ……おさまったようですね。静かになりました」
爆発が収まると、そこには数個の黒い岩のブロックが残る。
これをツルハシで取り除けば作業は一巡となる。
「はい、ここでツルハシをふるうと、溶岩は『黒曜石の床』となりました」
「これがダンジョンの床に変わって、足場になります!」
しかしだな……俺には大した科学知識は無いんだけど、溶岩の中に1メートル四方の氷をブチ込んで、こんな大人しい爆発で収まるとは思えないんだが……。
まあダンジョンだし、細かいことを考えても仕方無いか。
俺は流れる溶岩の上に、採れたてホヤホヤの『黒曜石の床』を置いた。
10秒、20秒、30秒、炎は……吹かない。
「視聴者の皆さん、見えますでしょうか?」
「溶岩を冷やして作ったブロックは炎を吹きません」
「つまり、これからは普通の靴で第三層を歩くことが出来ます」
「探索者の皆さんは、もう足の裏を焼きながら火鼠を探す必要はありません!!」




