コメント封鎖の理由
――数十分後
「さて、検証は十分。そろそろ配信を始めてみますか」
『そうだな』
この「炎威の獄」の開拓方法は一見すると無理ゲーに見えた。
しかし、聖者からの尊い差し入れが炎に巻かれた悲劇から、俺は学んだ。
水をまき、溶岩を凝固させることでできたブロックは、熱を遮断できる。
色々実験したが、発見した対策法は完全な再現性がある。
俺はこの第三層の開拓の風景を、世界に向けて発信することにした。
もしこれから4ヶ月後、俺と同じようにダンジョンを作り変えられる人が出たとしたら、この配信は絶対に役に立つ。
それに、第三層が開拓されたという情報自体が、今の人たちにとって有用だ。
配信をやらない理由はない。
『そういえば、コメントの封鎖はなんだったのだ?』
「あ、それなんですけどね……」
俺は二拍手して表示枠を出す。すると――
『ワシじゃよ!』
『わっ!』
俺の配信待機画面の中から、弥生人みたいなアバターがニョキッと出てくる。
俺のアバター、大国主だ。
「えー結論から言うと、うちのアバターの大国主、こいつの仕業でした」
『そうだったのか?』
「コメントしてくれる人いないなぁ? とは俺も思ってましたよ、えぇ。」
「でも俺、男配信者だから、コメント来るわけ無いよな―。世の中そんなもんかーなんて思ってたんですが……」
『わしがミュート機能を使用して、見聞き出来なくしていたというわけじゃ』
『なんでそんなことを?』
『こやつが配信で煽りや挑発をされて、冷静でいられると思うかの?』
『……きっと、いえ確実に無理ですね。』
ラレースさんに「確実に無理」って言われると、ちょっとグサッっと来る。
まあ本当のことだけどさぁ!!!
「大国主にはムカつくけど、俺もそー思う」
『そう言えば、配信には結構な「お布施」もありましたけど……』
『それはシーーッじゃ!!』
「え、そうなの?」
『えぇ。見る限り限度額の5万神気を送っている方もちらほらと……』
『……~♫~♪』
大国主が鼻歌を歌ってごまかそうとしている。
これは確実に黒だな。
配信のお布施は、配信者を応援するために神気を贈る機能だ。
念のため記憶を探る。……。
うん。俺には一切、そんなことをされた記憶は無い。
配信をしている前と後で神気が増えていたら、いくら俺でもわかる。
ということは……!
「大国主! お布施を黙って持ってくつもりだったな?!」
『な、なんのことかの~?』
俺は大国主を捕まえようとするが、するりと逃げられる。
くっ! 素早い!!
『はぁ……ツルハシ男、それは後にしろ。配信をするほうが優先だろ』
「チッ。命拾いしたな大国主」
(グッジョブじゃ! ラレースちゃん!)
(後で何か奢ってくださいね)
互いにビッと親指を立て、何かの意志を伝えあっている二人。
俺はそれに不穏なものを感じつつも、配信を開始した。
◆◆◆
結局、コメントは封鎖したままにした。
いまさらコメントに反応するのも人気に媚びてるみたいだし。
それに、急に開放すると、ほら、アレだよアレ。
俺はコメントなんか気にしない!!
そんな感じで最初はクールを装ってたけど、人気になったので~?
視聴者にそんな風に取られると激烈にダサいじゃん。
それがなんかヤダなのだ。
……。
……大国主がコメント欄を封鎖した理由がわかるな。
死ぬほど頭にきているが、大国主は大英断をした。
やったことに何一つ間違いがない!! クッ!!!
「皆さんおはこんばんちわ。ツルハシ男です。」
「チャンネル『ツルハシでダンジョン開拓します』をご視聴いただきありがとうございます!」
手際の悪いことに定評のある俺でも、3回もやれば、配信にも慣れたもんだ。
ささっと挨拶をして、視聴者に今日やることを説明する。
「今日はダンジョン第三層『炎威の獄』に来ています。」
「知らない方に説明すると、ダンジョンは第三層から初心者お断りになります」
「その理由は、三層から追加されるダンジョンのギミックにあります。」
「えー御覧ください。床が燃え盛ってますね―? はい、三層から新しく追加されるギミックとは、『対策なしでは生存不能』というギミックです」
「は? ふざけんなっ?! そう思われるでしょう。」
「ですが、これがダンジョンの現実です」
「この『炎威の獄』では、地面が燃えており、探索者はレアアイテムを入手するか、足の裏を焦がしながら、力づくで探索するしかありません」
「全てはこの炎が原因です。この炎さえなければ、ここは一層と同じです」
俺は次の言葉を発する為に、熱っぽい空気を深く吸い込んだ。
「なので、この炎を消していきたいと思います!!」




