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案外見られてる

「対策を考える前に、ひとまず上に戻りますか。ここは暑すぎる」

『そうだな……ん? 誰かがこっちを(のぞ)いてるぞ』

「えっ」


 ラレースと一緒に上を見上げると、彼女の言う通りだった。

 俺が掘った穴、その(はし)っこに立っている探索者がいた。


 ヘルムで表情はみえない。

 しかし武器を構えていないことから、一見して、敵意はないように見えた。


「おーい、ツルハシ男じゃないか!」


 彼は上から親しげに声をかけてくる。

 バイザーの向こうから聞こえる声は、以前聞いた気がする男のものだった。


「えーっと、どなた様でしたっけ」

「客だよ。まあ、ちゃんと名乗ってないから覚えてないよな、ハハッ!」


 ちょっと思い出せないな……。


「……うーん、どんな依頼でしたっけ?」

「クロム鉄鉱石200キロ」

「あっ、思い出しました! 半年前の、期限1週間だったやつ」

「あの時はマジで助かったよー!」

「えーと、何でしょう?」

「ただその時の礼がしたいだけだよ。ほら、受け取れ」

「おぉっ?」


 彼は何かの入ったビンを二つ取り出した。

 そして次に、それをこっちに向かって落としてきた。


 俺は何事かと一瞬身構えて、何も出来なかった。


 だが、俺の横にいたラレースは、瞬時に戦鎚を盾を持っていた手に預ける。

 そして、二本とも器用に片手で受け取ってしまった。


 わぉ。反射神経もすごいな彼女。


 っと、彼が落としたのは一体何だ……?


 あ、永久水氷の入ったボトルか。ボトルの表面に氷霜が付いている。

 みるからに涼し気だ。


 永久水氷(えいきゅうすいひょう)は通常よりもずっと長持ちする氷だ。

 普通に買うと割とお高いんだが……いいの?

 

「差し入れだよ。飲んでくれ!」

「どうも!」


 ラレースを見ると、彼女は黙ってコクリと頷いた。


 彼女の肩に乗ったマリアは両手で丸をつくっている。かわいい。

 ふむ、アバターの反応を見るに毒は入ってないみたいだ。


 本当にただの差し入れみたい。マジでか。


「誰も受けてくれなくって、時間だけ過ぎていくのに焦ったなあ」


「そりゃぁ……1週間はキツすぎです。支払いは割増されてましたけど」


「受けてくれたのはツルハシ男、アンタだけだった。ありがとうな」

「いえ、困ってそうでしたし」

「ありがとう、本当にありがとうな」

「アレは大変でしたよね」


「……今はダンジョンの開拓してるんだって? みたぜ配信」

「マジですか」


「あんたが第三層を開拓するってんなら、ジャマにならないように今日は上の層で稼ぐとするよ。上もずいぶんやりやすくなったしな」


「すいません、ご迷惑おかけします!」

「全然問題ないぜ、頑張ってくれよ!!」


 言うだけ言った探索者は、仲間たちと共に上の階層へと戻っていった。


 急に話しかけられたから、何事かとびっくりしたわ。


『ツルハシ男』

「あっはい、何でしょう?」

『お前案外……ちゃんと見られてるじゃないか』

「そうですね」


「困ってたのは俺もですし。ダンジョンの壁を叩くだけだと収入が無くなると思って……だからその頃は手当たり次第に依頼を受けてました。それだけですよ」


『彼にお前の都合は関係ない。逆もしかりだ』

「まぁ、そうですけど。」


『「……」』


『せっかくの差し入れです、頂きましょう』

「ですね」


 俺とラレースは、マスク(あご)下のパッチを開いて、チューブを引き出す。

 これはマスク本体を外さなくても、水分補給できるようにする仕組みだ。


「ウマッ!」

『うん、この状況だとなおさら旨く感じるな』


 しかし、ボトルについた氷霜がジャマで、手が滑るな。

 ちょっと落とすか。


『何してる?』

「ちょっとボトルに付いた霜を落とそうかと思って……アッ!」


 手袋をつけたまま霜を払ったのが悪かった。


 乾いた手袋の指先が霜を引っ掛けてしまったのだ。手袋にひっついたままのボトルは、俺が霜を払う動きで手から「つるんっ」と滑って宙を飛んだ。


「あああああああっ!」

『あっ! あー……』


 ぴゅーんと飛んでいったボトルは溶岩の上に落ち、パシュン!っと弾けた。

 そして内容物が溶岩の上に広がり、黒いシミのようなものを残した。


 あ、溶岩が冷えて固まって、岩になったのか。


 冷たい氷水だったものは、黒い岩の塊となってしまった。

 そしてそのまま溶岩の流れに乗って何処かへ消えようとする。


(おおおお、おおおおおぉぉぉ……お?)


 深い悲しみの中、俺はあることを(ひらめ)いた。


(黒い岩の塊となったまま……?)


 ――あっ! これだ!


『ツルハシ男、私ので良かったら……』

「これだ!」

『え?』


「ラレースさん、マグマを水で冷やして出来た岩を見てください」


 俺はマグマの波間に浮く黒い岩を指さした。

 それは今も溶岩の上を(ただよ)っている。


『ただの岩に見えるが……』


「そうです、ただの岩です。《《あれからは炎が上がってません》》」

『――あっ! 本当だ!!』


「あれで床をつくれば、第三層の炎は消えるかもしれません」


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