表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

234/235

エピローグ(1)

10月20日(金)本日は二話更新です。よろしくね!


 かつてオフィスか何かだったビル。その廃墟に師匠はいた。

 

 彼女は手に持った無線機を見て舌打ちする。

 画面の無線感度を知らせる表示が最低になっていたからだ。


「やっぱり安物はだめだね」


 彼女は面倒くさそうにうめき、ビルの壁に近寄る。


 壁には何かがぶつかったか単に風化で、大きな穴が空いている。

 穴の断面のコンクリートからは、無数のさびた鉄筋が飛び出していた。

 見るものに血管や内蔵を想起させる、生々しい破壊の後だ。


 師匠は文明の残骸(ざんがい)――東京を見下ろす。

 もはや見慣れた光景だ。


「これだけ見ると、もう終わってるんだけどね」


 彼女は手に持った無線機のアンテナを伸ばす。

 すると無線機から、少年の声が飛び込んできた。


『師匠、ようやくつながった……ターゲットは通りに移動したよ!』


「フゥン。(ぬえ)のヤツ、すっかり油断してるね」


『師匠、どうします?』


「まずは自分の考えを出しな。アイデアは先に出すもんさ」


『えっと……師匠とオレで(はさ)み打ちにします。きっと鵺は俺が狩りやすい獲物(えもの)だと思ってる。だからそれを逆手に取ります』


「続けな」


『鵺はこの先で待ち受けてる。そしてそこから動かない。いや、動けないと思います。だから別働隊の師匠は、鵺より有利なポジションをとれます』


「悪くないね。……ふむ。もっと具体的な指示が出せるかい?」


『えーっと……』


 無線の先から紙をめくる音が聞こえてくる。

 恐らく少年は地図を開いて位置関係を確認しているのだろう。


(おもしろいもんだね。やはり親に似るんだね)


『この先に周囲が高いビルで囲まれた場所があります。逃げにくく、見通しが良いので、恐らく鵺はここで待ち受けていると思います』


「私も同意見だね。それで?」


『確かここの通りには、壁に開いた穴が周囲を見下ろすようになっている、監視に適したビルがありました。その穴は妙に大きくて人為的で……多分そこがあいつの狩り場です』


「……なるほど。良い注意力だね。そこに別働隊が奇襲をかけるってわけだね」


『あっはい。そうです!』


「それでいこう。気をつけな」


 師匠は無線機を切ると、ポツリと呟いた。


「頭は父親似、戦いに関しては母親似で良かったね」



 瓦礫(がれき)の影に隠れていた少年は無線機を切る。

 すると少年の耳に、怪鳥のような鳴き声が飛び込んできた。


<ケェェェーン!>


「……鵺だ。きっと僕を狩り場に呼び込もうとしているな」


 少年は立ち上がり、目的とする場所に向かった。

 あえて鵺が張った罠にかかろうというのだ。


 少年はすべてが灰色になった死の街を進む。

 コンクリートの丘を登り、鉄筋の林を抜けた。

 やがて、わっと開けた場所が見えてきた。


 かつてのビジネス街の大通り。

 いまは行き交うものもない、街の残骸だ。


 広い道路の上には潰れた廃車がいくつかあるだけ。

 ここにはまったく身を隠すものがない。

 狩り場としては、これほど都合の良い場所もないだろう。


「師匠の姿がない。……来るのが早すぎたかな?」


<ザッ!>


「――ッ!」


 少年は土を蹴る音に反応して、即座にその場を飛び退いた。

 次の瞬間、少年がいた場所に巨躯がのしかかって地面をゆらした。


「ケッケッ! ケケッ!!」


 巨体は降り立った地面を黒い爪で削り、グロテスクな笑い声をあげる。


 ――(ぬえ)だ。


 怪物はサルに似た赤い顔を少年に向ける。

 そして口元をぐいっと持ち上げ、これからもて遊ぶ獲物のことをあざ笑った。


「たはー。こりゃ参ったな」


「ケェェーン!!」


 鵺は体を曲げて力を溜めると、一瞬でバネのように弾けて襲いかかる。

 だが少年は逃げない。


 彼は割れたアスファルトを踏みしめて叫ぶ。


「金剛不壊――ランパート!!」


 少年の前に金色の光の盾が生まれた。

 少年を引き裂こうとした怪物の爪が、光に深く食い込む。

 鵺は盾を引き裂こうとするが、爪が食い込んで離れない。


「悪いね、遅れた!!」


「ケェ?!」


 鵺の頭上に純白の何かが落ちてきた。

 師匠だ。


 彼女は剣を逆手に持ち、ビルの上から飛び込んできたのだ。

 剣は鵺の頭蓋ずがいに突き刺さり、片目がぐるりと空を向く。


「ケ、ケ……ケェー!」


 苦悶の声をあげる鵺は尾の蛇の頭で師匠を食いちぎろうとする。

 だが師匠は尾を捕まえると、そのまま力任せにひきちぎった。


「わぁ……」


「往生しな!」


 師匠は剣の柄頭に何度も拳を叩きつける。

 すると鵺の頭蓋に食い込んでいた剣の刃が傾いていく。


 彼女はカボチャを切るように、ゴンゴンと刃の背を叩く。

 そして力ずくで鵺の頭を引き裂いて脳髄を掻き出した。


 モンスターといえ、鵺も生物だ。

 脳や脊髄を断ち割られると、さしもの怪物も動かなくなった。


 師匠は剣を引き抜き、鵺の毛皮で血と脳をぬぐう。

 白無垢のスーツは、胸のあたりまで鵺の血で真っ赤になっていた。


「……少し(あせ)りすぎたかね。見苦しい戦い方になってすまないね」


「い、いえ……」


 暴虐(ぼうぎゃく)に対してはさらなる暴虐を。

 少年はこの戦いを見て、そういった学びを得た。


「相変わらず、師匠の戦い方って豪快ですね……」


「そうかね? 皆こんなもんだったよ」


「本当ですか?」


「……おっと、本当のことを教えるのもあまり良くないね」


「はい?」


「大人はちゃんとしているようで、適当に戦ってるのさ」


「まぁ……父さんを見ればそれは何となく」


「そうだったね。あれは見習わないほうがいいよ。あれはアレンジだけでこなしていく。ああいうのができるのは天才だけだからね」


「そうなんですか?」


「そうなのさ」


 師匠は鵺の腹に剣を突き立てると、その(きも)を抜く。

 まだほんのりと温かいそれを師匠はビニールに包んだ。

 そして彼女は肝の入った包みを、若干引き気味の少年に手渡した。


「ほら、ジジイに持って帰ってやんな」


「は、はい!」


「さて、アンタの初の依頼が成功した事を祝って――」


「ダメですよ、拠点に帰ってからにしてください」


「はいはい。」


(そこは似なくても良かったんだけどねぇ……)


 拠点といったが、2人は銀座には向かわなかった。

 そのかわり、海の方――

 浜離宮ダンジョンへと向かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ