水抜き
「カッパの厄介さは、全て水に原因があります」
「なので水を抜いていきましょう。と言ってもいきなり全部は無理です」
俺は手頃な大きさの島に渡ると、そこで砂地に穴を作りはじめた。
……ふと気づいたが、砂地を真四角に切り取っても、全く崩れないってのはなんかシュールだな。まあダンジョンだし、こんなの気にしても仕方がないか。
俺が四角く切り取った空間は、水抜き用の空間だ。
二層の岸で悠長に水抜き作業なんかしてられないからな。
カッパに見つかったが最後、水の中に引きずりこまれる。
ならこっちは逆に、陸に引きずりこんでやろうってわけだ。
では、はじめるとしよう。
まずは島に作った水抜き用の空間に、水を引き込む。
これは岸まで溝を掘っていくだけだから、何の問題もない。
「げっ、なんかもういますね」
浅瀬の先、足が立つか立たないかくらいの所に、泳いでる黒い影が見えた。
カッパども、もう俺の存在に気づいたのか?
「カッパはある程度深さがないと何も出来ません。落ち着きましょう」
視聴者というよりは、これは自分に言い聞かせてる感じだ。
ふう、なんかつるはしを持つ手がしびれる感じがする。緊張するぜ。
なんせ、俺のジョブは戦闘系じゃないからな。
何かの拍子でカッパに「ヒャッハー!」と絡まれたらお終いだ。
最後まで行儀よくしていてくれよ……?
「では、水抜き場まで溝を掘っていきます」
俺は岸にツルハシを振るい、1メートルの深さの溝を掘っていった。
ひとしきり掘って開通すると、滝となって穴の中に水が降り注ぐ。
よし、ようやく「アレ」の出番が来たな。
俺は水抜き場に氷のオーブを設置する。
あとは「爺部屋」でやったことをそのまま続ければ良い。
氷ができれば掘る。掘る。水が来なくなったら溝を深くする。
やることは、たったのこれだけだ。
ツルハシで1Mの大きさの氷をバカバカ取っていけば、何時か水辺も干上がる。
普通の人間なら、この単調な作業に悲鳴を上げるだろう。
しかし、俺は違う。
伊達に4ヶ月以上、何も変化のないダンジョンの壁に延々とツルハシを振り下ろしてない。
さあ、カッパ共、根性勝負といこうや。
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ふう、結構掘ったが、どうかな?
配信を始めて2,3時間は掘ったと思う。
まったく代わり映えしない画面に耐えきれなかったのか、1万人の視聴者も半分以下、3000人くらいになっている。
いや、意外と残ってるな?
世の中は広い。
焚き火をずーーーっと映しているチャンネルにファンが付いてたりするし、同じように無限に氷を砕く光景を見たいという人もいるんだろうか。
……いや、さすがに上級者すぎんだろ。
人類が俺の手によって新たな趣味を開拓した可能性についてはともかく、水抜きの状況を見に行くとするか。
「結構長いこと氷を砕いたので、そろそろ水辺の様子を見に行きますか」
水抜き場を離れて水辺を見に行くと、恐ろしいことにほとんど干上がっていた。
池の水、全部抜くとかいう動画を見たことがあるが、まさにあんな感じだ。
「うまくいきましたが……ひどい臭いですね」
水が無くなるとこんなことになるとは、俺は知らなかった
水底のヘドロがむき出しになって、凄まじい悪臭をはなっている。
臭いの原因は魚の死骸、よくわからない苔や海藻、そして――
人の骸骨や腐乱死体だ。
「あれはカッパに引きずり込まれた人たちですかね? あとで弔いましょう」
俺の目にはそりゃもう凄まじいトラウマ級のものが映っている。
しかし、配信画面の方では違う。
ファンシーで可愛らしい、骸骨とゾンビのお人形さんが転がっているだけだ。
きっと大国主が認識フィルターを掛けたんだろう。
「えー、見せられないものが映っております。お察しください」
死体を映したことで視聴者が減るかと思ったが、逆に増え始めた。
いつの間にか、視聴者はさっきの倍の6000人台まで戻っている。
いや、戻るどころか数字は回転し、増え続けている。
ふーん……。
おっと、流石の俺も舌打ちしそうになった。
ステイステイ。配信者らしく、お行儀よくいこう。
「視聴者のみなさんはきっとカッパのことが気になってますよね」
「では、陸に上がったカッパを探しに行きましょう」




