はぐれボス
俺は表示枠の配信画面を見ながら、ダンジョンを一人で歩いて実況していた。
今さっき配信を始めたばかりなのに、配信の同時接続者は1万人に達している。
いや、1万人て。
ちょっとした都市の人口くらいありません?
1万人の目と耳が俺に向けられている。
それを想像するとちょっと怖いな。
胃がどうにかなりそうだが、とにかく配信を続けよう。
「えーっと、一応【はぐれボス】について説明しますね」
「基本、モンスターはダンジョンの扉でわかれた場所、ようは部屋にいます」
「ですけど、はぐれボスっていうのは、部屋じゃなくってダンジョンの階層全体をうろついています。だから【はぐれボス】。……まんまですよね」
「で、この浜離宮の2階層目のはぐれボスは、『カッパ』っていうんですけど」
「落とす物がショボイせいで、基本放置されてます」
「落とすのは『カッパの皿』っていう、頭に装備する兜になります。これを被ると、水属性に対する耐性が上がります」
「ただしデメリットもあって、物理攻撃に弱くなります」
「具体的に言うと……剣や棍棒で殴られると、怪我が普段より深くなります」
「こんなのもらっても困っちゃいますよね。ぶっちゃけ微妙どころかゴミです」
「なので、カッパは基本放置されています」
仮拠点を作った後、俺は下の階層を降りて、再び配信を行うことにした。
今回の配信ネタは【はぐれボス】の撃破。
しかし、このボスはただのボスじゃない。
面倒な割に、戦っても、落とす戦利品がまるで割に合わないのだ。
ダンジョンに人を呼び込むなら、できるだけ割に合わない脅威を排除していくのが良いと思った俺は、このカッパを排除することにした。
「基本的にモンスターは倒されても、時間がたてばリスポーンしてまた現れます。【はぐれボス】のカッパも例外じゃありません」
「でも大丈夫、見ててください、一応、俺には考えてきた対策があります」
俺はアレコレ喋りながら、ようやく現場にたどり着いた。
配信しながらだと、どうしても足の進みがゆっくりになってしまうな。
さてと……ふむ。
俺がたどり着いたのは浜離宮ダンジョンの2層目「たゆたう水草の墓」だ。
1層はレンガで出来た壁と床しかなかったが、2層になるとちょっと様子が変わってくる。
ダンジョンの内部、地下にも関わらず、二層は全体が水辺になっている。そして部屋はそれぞれが島で分かれ、橋で行き来する形になっているのだ。
で【はぐれボス】のカッパはこの水辺のどこかをうろついている。
「目の前の水辺が見えますか? カッパはこの水辺のどこかにいます」
「カッパは水辺に潜んで、あの橋の上を通る人や、島の岸に近づいた迂闊な探索者にしがみついて、そのまま水の中に引き込んで殺します」
「カッパは、はぐれボスの中でも厄介な、奇襲を仕掛けてくるタイプですね」
「そして、地上では次第に体力が減って弱体化していくんですが、傷を負うと水の中に逃げて、体力を回復してまた襲ってきます。」
「カッパを相手にすると、どうしても長期戦になりがちってことです」
「なんかもう、聞いただけでうんざりですよね……」
「戦利品はイマイチ、その割には面倒。誰もカッパを相手にしないのは当然です」
俺は頭上の大国主と一緒に水辺を見つめる。
そう、それもこれも、全部まるっと、目の前にあるこの存在が悪い。
「ここまで説明した通り、カッパの力の源は、目の前の水辺、水源です」
俺は息を深く吸い込み、1万人の視聴者に宣言した。
「なので……この水源を消してしまいましょう!!!」




