人の心
7月31日(月)は3話更新です!
このお話の前に更新した2話がありますので、ご注意ください!
「人類を救ってみる、ね……また大きく出たな」
人類を救うという文字面だけを見れば、ファウストのそれは、ラレースの望みと似ている。
(自分自身を供物として捧げる事がなによりも至上。)
(神の世界のルール、その本質はこれだ)
以前、彼女はそんな事を語っていたっけ。
「神」に全てを捧げる世界が、この雪のように降り積もった灰で覆い隠してしまったかつての世界。それを取り戻すことを彼女は望んでいる。
ダンジョンを消し、世界を元に戻したい。
神の力を、この世界から消すことがラレースの目的だ。
だがファウストのそれは、彼女の望みとは違う気がする。
「ファウストさんよ、人を救うって、どうやって救うつもりなんだ?」
「冷蔵庫の中をカレーで満杯にして、蛇口からビールが出るようにする感じか? ついでに空から金をバラ撒いてやれば、みんなが幸せになるぞ」
「そんなくだらない方法では出来ません。私が救いたいのは、人の心ですので」
わぁ。半端なくヤバイ臭いのすること言い出した。
これはちょっと予想してなかった。
「んー……腹がいっぱいになれば、人の心は救われると思うんだけど?」
「人々を物で満たそうとした世界は、今や灰の下にあります」
「そういや、そうだったわ。」
「一応聞こうか……人の心を救うってのと、神の力がどうつながるんだ」
「スキル……神の力と人の心には密接な関係があります。あなた達もすでに気づいているのでは?」
「…………」
「あなた方が強く望むことによって神が降り、人にジョブとスキルを授ける」
「その神の力の本質は人の心です。あなた達の心。形を持たない『概念』そのものを形作る力です」
「ダンジョンもそれと同じ文脈です。人間の感情を物理的な力として現出させる」
「人間の感情は…個としては一つの塊、物質としてみなせるからです」
なんかスゲー難しいこと言い出した。
ひとつひとつ、確認しよう。
ます、俺たちが神に望む事によって神が降りてきて、ジョブやスキルを与える。
これはわかる。
大国主みたいに、押し売りしてくる場合もあるが。
で、その大国主の力は俺の心を形作る。
『建物を作りたい』、『ジャマな建物を壊したい』。
そういうのを形にするってことだよな。これもわかる。
で、ダンジョンも俺たちと同じことをしている。
俺が神に望んで願望を形にしているように、ダンジョンも感情を物理的な力として現出させている。これはギロチンのトラップが「斬る」ことを形にしていることからもわかる。
最後のがちょっとわからん。
【人間の感情を一つの塊として見なす】ってどういう事だ?
(……ちょっと見方を変えよう)
人間の感情……欲求と言っても良いか。
俺の感情はラレースとは違う。俺としての塊がある。
俺と他の連中は違う。区別ができる。だから物質としてみなせる?
「人間の感情を一つの塊として見なす。物質として見なすっていうのは……人間の感情は区別出来るから、箱に入れるなりできる。そういうことか?」
「驚きました……最後に説明した概念は、かなり難しい概念なんですが。ツルハシ男さんは、地頭が良いタイプなんですね。」
「それ、褒めてないだろ」
「で、俺たちの心を形にするスーパーパワー、それが神の力ってことだよな?」
「はい。 では、神の力が拠り所にする『人の心』とは何でしょう?」
「そう改めて問われると困るな……俺やアンタがあれこれと面倒くさい事を考える、いや、考えようとする部分、かな」
「なかなか良いところを突いてますね」
「何点くらい?」
「75点くらいでしょうか。選択の経験が感情――すなわち、『心』を作ります」
「これはつまり、経験とは感情が内包しているモノということです。」
「俺たちがアレコレ考えて、こうしたいと思って手や足を動かす……恐ろしいから走って逃げる。怒るから戦う。そんな感じ?」
「はい。それら感情が確かなモノとして高まると、それがスキルになります。それらスキルが寄り集まればジョブ、つまり自我になる」
「ジョブは自我……?」
「戦いでスキルを使いジョブを鍛えるほど、自我もますます強くなります。」
「そうすることによって、心の状態が表に出る。心が形になる。それがあなた達のしている神降ろし……神を信仰し、ジョブを手に入れるということです」
(心が形になる……ちょっと待てよ、じゃあそれって……)
「ファウスト、アンタの言ってることはまるで――ジョブ自体に意思、自我がある。そんな風にも聞こえるぞ」
「その通りです。人の救済に話を戻しましょう――」
「ああ、そうだったな。神の力で人を救済する。そう言う話だったな。アンタのその壮大な計画に、どうやって俺が一枚噛むんだ?」
「人の心は弱いものです。その本質はすぐに悪に染まり、お互いを自らの血肉に変えようと喰み合います。それは彼らの穢れた意識、自我を染め上げるには、ジョブの力――神の意志が弱すぎるからです」
「人間の意志をジョブで染め上げる、人を別の何かに変える……それがお前の言う救済なのか? それは洗脳じゃないか」
「そう。そしてそれに危険が無いことは、すでにあなた達が証明している。あなた達はすでに影響を受けているのですよ。ジョブによる自我の侵食の影響を」
「――ッ!?」
『あなたは何を……ッ!』
「あなた達は思ったことはありませんか? なぜ世界の人々は、こんな浅ましい行いをするのか。ジョブのない人間、低い人間ほどそれは顕著であったはずです」
「だが、ユウキは……」
「はい。彼のような意志が強く、高潔な人間もいます。しかし、彼のような人間は極めてごく少数です」
「……」
「善き人が存在するのは確か。ですが、それをこの絶望的な世界で探し出そうとするのは、夜に影を探すようなものです」
「闇の中を進むなら、目の見えない者に手を引かれたほうが、かえって良い結果を生むでしょう。それはかつてこの世界に存在した人。いい加減に物事の実行を許可することしか出来ぬ、国家指導者の役目でもありました」
「ですが今は違います。完璧な存在が目の前にいるのです。『神』は私達の目の前に確かにいるのです――!!」
「神の光明で照らし出されたこの世界で、なぜ人が目を閉じたまま歩かなければならないのです? すべての人が智慧を持ち、目を開ける時が来たのです!」
「この世界を変えたダンジョンの奥底には……それを為せる存在がある。この世界に神を顕現させたのはダンジョンだからです。そしてそれは――ツルハシ男さん。貴方だけが掘り起こせる!!!」
「この世界を、人類を救済するには……貴方がそれを掘り起こし――」
「――すべての人が神になればよいのです。」




