落とし物
<ガチン! ガチンッ! ガララッ……>
「ふう……ようやく向こう側に開通したぞ!」
『発生源を全て壁の中に埋めてあるとは……なかなか手強かったですね』
「本来なら、延々スパルトイと戦う羽目になるんですよね。いやーひどいわ」
最初のスポナーを回収した後、俺はさらに3つのスポナーを破壊していた。
最初はハチャメチャなやり方になっていたが、その次ともなると回収方法は洗練され、マグマの運河を作って掘り進むという方法を取っていた。
ダンジョンの壁でマグマを通す水路を作り、それに沿って壁を掘ることで、スパルトイの出没を防ぐという、ごく単純なやり方だったが、非常に効果的だった。
しかしまぁ、生まれた瞬間から死が待ち受けているってのは悲惨だな。
スパルトイに対して、いささか同情めいたものが芽生える。
ま、骨だから生きてないんだけど。
「スパルトイの存在しない直通路が開通したから、次回からは無傷で通れますね」
「よい修行場でもあったのですが……背に腹はかえられませんな!」
「レオの気持ちもわかるけど、今回は開拓が目的だからね~」
さて、第6層へ続く階段までのショートカットが開通した。
あとは転送門の扉をぶち壊して、キャンプを設営するだけ……――っ!?
周囲を見回していた俺の目に、あるものが目に入ったのだ。
おびただしいほどの量の血の跡。
そして、ダンジョンの床の上に転がっている、白い薬瓶――
「まさか!」
駆け寄って拾い上げると、間違いない。
俺がユウキに渡した「カッパの薬瓶」と同じものだ。
『ツルハシさん、急に走り出して一体……あ、それは!?』
「はい。これは多分……俺がお台場でユウキに渡したカッパの薬瓶です。ビンについている汚れや傷に見覚えがあります」
『中の薬を使い終わったから、ユウキ君が捨てていったのでしょうか?』
「それは考えにくいと思います。カッパの薬瓶は次の日に復活するというのは彼にちゃんと伝えてありますし……」
『まさか、ユウキ君に何か!?』
「……かもしれません。ファウストが付き添っていると言っても、彼にはジョブが無い。もし致命的なケガをしていたら――」
『ツルハシさん!』
「わかってます。彼らを追いかけましょう。」
いけない、妙な考えがあふれ出てくる。
動悸が早まり、冷や汗が出るのと一緒に、手までしびれてきた。
ユウキの奴、いくらなんでも無鉄砲すぎる。
お台場の友だちに会う前に死んでちゃ、何の意味もないだろうが。
「クソッ……失敗だった」
『そんな、ツルハシさんは何も……』
「いいえ、ファウストと出会った時点で、帰る事を宣言するべきでした。そうすれば、奴は目的を見失って、ユウキを連れてそのまま帰ったかも知れないのに――」
何で俺は…‥ッ!
『……ツルハシさん』
彼女はガントレットの薄金に包まれた手を、俺の肩に添える。
いつものそれとは違って、とても静かな所作だった。
『お気持ちはわかりますが、過ぎたことです。たらればの話は止めましょう』
「うん。――ありがとう」
ヘルメットの向こうにあるラレースの表情は見えない。だけど、鉄の板の裏で彼女がどういう顔をしているかくらい、俺にだって想像できる。
彼女は騎士だ。それも、俺よりもずっと長いこと荒事を続けてきた。バーバラの相棒のように、仲間たちの「永遠の死」も見てきたはず。
だからこそ、残酷なまでに彼女は冷静なのだ。
感傷的な気持ちになる以外、俺の話には何の意味もないと知っているから。
『今、私たちにできる事を考えましょう。薬ビンの中身が空っぽのまま……中身が戻っていないということは、彼らはつい最近通り抜けたはずです』
「そうだな、それは間違いない。」
『急げば追いつけるかもしれません。どうしますか?』
このパーティのリーダーは俺だ。
だから決断は俺が下さないといけない。
ラレース、レオ、ナナ、ジンさん。みんなの視線が俺に集まる。
「今の時間は午後1時。第六層を攻略するだけの時間はあるはずです。できるだけ急いで下へ向かいます」
「探索者としてはただのおせっかいに見えるけど、それをする理由は?」
ジンさんからナイフのような意見が飛んできた。
俺はじっと彼女の目を見る。
メガネの奥にあった瞳は、いつもの眠たげなものじゃない。こちらの真意を値踏みするような、ぞっとするほどの苛烈さを思わせる目だった。
彼女の本当の姿はこれか。
何でこの人、スレにいたんだろうな。でも居てくれて助かった。
彼女の厳しい視線で射すくめられたことで、熱くなっていた頭がすっと冷えた。
形にならない意思が言葉として組み立てられ、喉の奥で列をなす。
「ユウキ君は自分で判断できないまま、状況に迫られて戦っています。ファウストは彼の意志を利用して、自分の目的のために使っている。きっと付呪の実験のために彼を利用しているだけです」
「このままだとユウキは死ぬ。彼を連れ帰ります。」
「うむ! 何の異論もありませんぞ!」
「わたしも」
「だね、ささっと行こうか~」
『はい!』
「いきましょう。第六層へ!」




