お手伝い
「お手伝いって、そんな事いわれてもなぁ……」
「こちらが勝手にやっていることです。代金の請求なんてしませんよ」
「そーよ! 他人の好意はありがたく受け取るもんだわさよ!」
「んだんだ!!」
「何か変なのも出てきた!?」
「なによ変なのって、失礼しちゃうわね! あんたらの方がどうかしてるでしょ! キグルミっ子に全裸マント男、それに葬儀屋まで連れてんじゃない!」
……確かに!!
「正直すまんかった。何も言えんわ」
「でしょ!!」
しかし何だろう。このやたら細っこい体をクネクネとさせているオッサン。
ちょっと生まれる性別を間違えてない?
そんで、コレの後ろに居るオッサンもまた……生まれる性別どころか、種族レベルで何かを間違えてんなコレ。
逆三角形の肉体は良いが、上半身に比べて下半身が貧弱すぎる。
あと、ひげ剃り跡が真っ青で、フェイスペイントみたいだ。
まさか……こいつらがファウストのパーティーメンバーなのか?
いくら何でもキャラが濃すぎる。
何を考えて、こんなの連れてきてるんだか。
「何を考えているかは大体想像がつきますが、彼らは彼らで有能ですよ」
「はぁ……他人のパーティメンバーに口を出す趣味は無いですが――」
「ファウストさんの言う『手伝い』って言うのは、俺たちの前を進んで【はぐれボス】やモンスターを蹴散らして進むことですかね?」
「そうですね。」
「先釣りとまとめはマナー違反ですよ」
『ツルハシさん!!』
先釣りとは、他パーティに先行して、敵を引っ張って行く行為だ。
そして、「まとめ」とは自分たちよりずっと弱い敵を、まとめてスキルで焼き尽くす行為を指す。
この2つを組み合わせた行為を「先釣りまとめ」と言い、探索者の間ではとくに忌み嫌われている。これがどういう行為かと言うと……。
他の探索者より先行して、楽々狩れるモンスターをかき集め、まとめて焼いてズンズン進んでいき、後に続く探索者には、一切獲物を残さない。そういった行為だ。
てっとり早く神気を稼ぎたいとき、上位探索者がたまーにこれをやる。
そしてネットでけしからんと叩かれ、大いに炎上するのだ。
ネットで炎上している話題の6割以上は、この「先釣りまとめ」が占めると言っても過言ではないだろう。
俺は以上のことをファウストに対して、よどみなく弁じた。
「それは申し訳ありません。しばらくお台場のダンジョンにしか潜っていませんで……地域のローカルルールには疎いのですよ」
「なるほど。お台場でも目をかけたものに対して、こういった事を?」
ファウストは両手をお手上げ、と言った風に広げ、とぼけた様子をみせる。
答えるつもりはない。ということか。
「おっとそうでした。あなたも知っているユウキ君ですが、彼もあなたのお手伝いをしたいそうです。なんでも恩を返したいとか。心が暖かくなりますね」
「…………そうですか」
俺はユウキとオークのいくさ頭の戦いを見る。
思った以上にユウキの動きが良い。
戦闘職ではない俺から見ても、達人級の動きをしているのがわかる。
彼にジョブはないはずだが……。
「ラレースさん、ユウキの動きはすごい良いですね」
『えぇ。あれはフットワークや回避を補助するスキルの影響を受けてますね』
「なるほど……アレも付呪ですか」
「えぇ、そうです。ユウキくんはとても意志が強い。スキルの力を心から信じていますので、動きに全くよどみがないでしょう?」
「スキルと同じく、『概念』を込めた付呪を使う場合にも、使い手の意志の強さが関係する、ってことか?」
『身体能力よりも心の強さが、ということですか』
「……ほう」
ファウストは何がおかしいのか、くつくつと笑った。
何とも底のしれない、異様な不気味さを持ちあわせた男だ。
帰りてぇ。
『あの巨大な斧を、ユウキくんは完全に見きっていますね』
「ですね」
「あのオークが手に持っている斧は、この【はぐれボス】の落とす戦利品でもある両刃斧、『マンスプリッター』っていうんですが……」
「あの斧は、その「人間割り」という名の通り、異常な高威力を持ってます。さらに副次効果として、《《防具》》の効果を無効化できるんですよ」
「うむ! つまり、体に当たったら一発アウトとなる武器だな!」
「すごい強そう」
「クッソ強そうですけど、あまり探索者に人気がないんですよ。威力は素晴らしいんですが、見ての通り、アホみたいにデカくて、死ぬほど重いから」
「元の持ち主くらい筋肉バンザイじゃないと、まともに扱えないよね~」
「ええ、なんで人気がないんです。あと致命的な要素がもうひとつ。」
『致命的な要素ですか? 防具の効果を無効化するなら……あっ』
「気付きましたねラレースさん。マンスプリッターの副次効果は「防具」の効果を無効化する。つまり――」
<ガキィィン!!!>
ユウキはマンスプリッターの斧刃を横から突き、頭上に真っ直ぐ迫って来ていた刃をあさっての方向にそらすと、半身になって、斧から逃れた。
「アレです、武器にはフツーに防がれちゃうんですよ」
『勇気をもって戦えば、何の問題もない。そういうことですか』
「はい。」
「うむ! 当たらなければどうということは無い、ですな!」
そんなことをどこかの偉人がいっていたな。そして、レオが言った通りになる。
オークのいくさ頭は、自分よりもずっと小さな相手を斧の刃に捉えることが出来ず、ザクザクと切り刻まれていく。
「そもそもの話、モンスターは上等な防具を着ている奴のほうが少ないですからね。マンスプリッターは、ただ振りにくいだけの斧なんです」
『カッパもそうでしたけど……基本【はぐれボス】の落とすアイテムって、どこか抜けてますよね』
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小山のようなオークはユウキの手で仕留められた。エンチャントされた武器防具があったとはいえ、小細工なしで普通に第四層のボスにジョブ無しのユウキが勝ってしまうとは……。
「僕の戦い、どうでしたか! ツルハシ男さん!」
「うまいもんだ。俺も欲しいなそれ」
『ツルハシさん!』
「オウフッ?! 待って、わかってるから!」
ユウキに皮肉を言ったら、ラレースに思いっきり尻をしばかれた。イタァイ!
うん……悪かったよ。彼の前では真面目にするか、コホン。
「……ユウキ、お前の戦いぶりは正直すごかったよ。俺だったら、アレの目の前に立っても武器を放って逃げ出してるな」
「僕には、これを信じて振るうことしかできませんから」
彼の武器をもっと見ようとすると、ファウストが俺とユウキの間に立ちはだかった。まだ何か言いたい事があるらしいな。
「ツルハシ男さん、私はただ純粋に……あなたが第十層まで到達するお手伝いをしたいのです。わかっていただけたでしょうか?」
「一応、前もって言っておきますが……今回、俺たちがやっているダンジョン攻略は、第十層までは行かないですよ。第七層で終了する予定です」
「そうでしたか」
「えぇ。まだ準備不足ですんで」
「第七層まではまだ一度も到達されていないのですね」
「まぁ、そうですね」
「なるほど……第七階層まで。えぇ、それで十分ですとも!」
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