ウォー・ボス
「盾と鎧をまとめて切り裂くなんて、一体何を使ったらこうなるんだ?」
『この傷……緩く曲がった傷の様子から察するに、剣のようですね。これほどのスキルの使い手となると、師匠と同格かもしれません』
「うむ! 重装甲のオーク・ウォリアーに対しては、メイスやウォーピックといった、装甲を破壊できる武器を使用するのが普通ですからな!」
『はい。重装甲に対して剣はあまり相性がよくありません。普通は隙間を狙うものですが、真っ向から斬り伏せるなんて。よぽどの使い手なのでしょう』
「第四層がメインの稼ぎ場っていう人たちじゃ無さそうですね」
「かな? ここよりもっと深いところに行ってる人たちだろうね~」
俺たちがオークの死体を検分しているその時だった。
茂みに隠された樹海の奥から、地面を揺るがす咆哮が木々の間に轟く。
「「ウァァァァァァグッ!!!」」
声は木々の葉を強く打ち、静謐な樹海に梢のざわめきを広げる。
耳にした者の肌を粟立たせ、本能的な恐怖を感じさせるこの声は――!
「今のは……第4層の【はぐれボス】のオークのいくさ頭ですね」
『いくさ頭、オークたちのリーダーということですか?』
「えぇ。とんでもなくデカくて、とんでもなく強いやつですよ」
『きっと「これ」をした人たちが、オークのリーダーと戦っているんでしょうか。どうします、ツルハシさん?』
「これだけの実力があれば、第4層のボスに負けることは無いでしょうが……」
「武人としては、ちょっと戦いぶりを見てみたくもありますな!」
「やじ馬するの、レオ?」
「えぇ、後学のために見学しましょう! ナナの参考になるかも知れませんぞ!」
「うん……レオが言うなら見る」
「らしいよ、ツルハシ~?」
「確かに、どんな人達なのか、ちょっと気になりますね。様子を見てみますか」
『はい! ぜひとも!』
なんか心なしか、ラレースさんもウキウキしているように見える。
戦闘系のジョブを持つ人的には、やっぱこういうのは気になるんだろうか。
「やっぱ戦闘系ジョブだと、こういうのって気になります?」
『そうですね。自分のやり方を続けていると、そのうち何が良くて、何が悪いのか? それがわからなくなって、固定化してしまうんですよね』
「あー、そういうの、何となくわかります」
「うむ! 他人のふり見て我がふり直せ、とはよく言ったものだな!」
「レオは鏡を見たほうが良いと思うぞ」
「流石ツルハシ男さん! 痛いところを突きますな!」
「他人のやり方を見ないと、いまいち良し悪しって見えないからね~」
『はい』
まぁ、みんなが気になっているなら見に行くか。
俺は完全無欠の非戦闘系ジョブだけど、何かの足しになるかも知れない。
あ、配信はしたままだけど……ま、別にいっか。
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木々の合間から聞こえてくるのは、やかましく打ち鳴らされる剣戟の音と、その合間に差し込まれるオークの悲鳴。
俺たちは目に見えないそれらを追いかけて、樹海の奥へ進んだ。音は時たま方角を変える。戦いながら移動しているのだろう。
いくつもの梢をかき分けていると、突然ぱっと目の前が開ける。すると、そこには巨大な斧をもったオーク。小山のような大きさのいくさ頭が居た。
「あっ」と思って足を数歩下げると、ブーツのカカトに何かが当たってよろめいた。何事かと思って足元を見ると、俺のバランスを崩したモノの正体がわかる。
根本からすぐ上の部分を吹き飛ばされた、低木の根っこだった。
(なるほど。これはきっと、あいつの仕業だな。)
「ウルァァァァァッ!」
いくさ頭は人間を軽々と真っ二つに出来そうな斧をぶん回して、周囲のものをなぎ倒し、カチ割っていく。
急に鬱蒼とした樹海の視界がひらけたのは、このモンスターが周囲の低木や樹木を片っ端から刈り取っていた所為だったのだ。
さて【はぐれボス】は一体何と戦って――ッ!
オークが人間よりも巨大な斧を振り下ろしている相手に、俺は見覚えがあった。
街で不意に出会ったとしても、特に記憶に残らない、どこにでもいそうな、ごく普通の見た目の少年。だが、彼の意志の強い瞳。燃え盛るような視線が、彼の事を俺に思い出させる。
(――ユウキッ?! 何でこんな所に!)
オークのいくさ頭と対峙していたのは、ユウキだった。
深く反り返った黒色の刀身を持つ弯刀を彼は手に持っている。
まさか、あれがオーク・ウォリアーを切り裂いた獲物か?
「ユウキ、お前なんでダンジョンに!?」
『ツルハシさん! 彼が手に持っている武器、あれには付呪がされています!』
「付呪ってことは……!」
「はい。私がここまで彼を連れてきました。」
「ファウスト!」
茂みの奥から現れたのは、黒コートの探索者。
ファウストを名乗る、「黄泉歩き」だ。
なるほど。オークなんか軽く蹴散らされるはずだ。
ファウストは十層を攻略済み。第四層の敵なんか、練習相手にもならないはず。
だが、わからないのは――
「あんたら……何で浜離宮ダンジョンに潜っている? ストーカーのつもりか?」
「いえ。私はただお手伝いをしたいだけです」
「お手伝い?」
「はい。あなた方が深層に到達する、そのお手伝いです」




