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ゴブリン・スカーミッシャー

「ツルハシ男さん! 側面に動きがありますぞ!」

『きっと盾の横を狙っていますね。十字砲火を仕掛けるつもりでしょう』

「どうしよっか~」

「むむ……」


 ゴブリンたちは側面に回り込んで、ラレースの盾の後ろに居る俺達を射抜くつもりなのだろう。まーた面倒なことを!


 ゴブリン・スカーミッシャーは射撃戦で片付けるのがセオリーだ。

 だが、メンバーの装甲に自信がある場合に限って、真正面から突撃して粉砕する脳筋解決も手段としてはよく取られる。


 しかし、今回の場合はどうだろうな?


 狡猾なゴブリンが、本隊の前面をがら空きにするはずがない。

 身を隠している茂みの前には、きっと落とし穴やブービートラップが仕掛けてあるはずだ。


 うーん……ここは基本に立ち返ってみるか。


<ポンッ><ポンッ><ポンッ>


 俺はパーティの両側面にダンジョンの壁を並べ、遮蔽物とした。

 これでゴブリンたちの側面に回りこもうとする動きは、完全な無駄になる。


「側面に壁を置きました!」

「おぉ、これで前面に集中できますな! さすがツルハシ男さん!」


『しかし、前の敵がどこに居るのか……茂みでまるでわかりませんね』

「いつものヤツでいきますか!」


 俺は毒矢トラップを前に向けて置いた。

 緑の蛍光色で光るダートがシュパパと茂みめがけて飛んでいく。

 が……。


<カンッ! カキンッ!>


 ラレースの盾にぶち当たっている敵の射撃は、まったく弱まらない。

 不味いな。射角が狭すぎて、避けられてるのか?


 角度を調整してみよう。

 ブロックを水平方向に少し回してみるが、効果はない。

 どうやら、相手もバカじゃないようだ。

 ド派手にキラキラ光って見える矢が飛んできたら、流石にわかるか。


 うーむ、さすが第四層のモンスターだ。第一層のモンスターと比べると賢い。


「ダメです。手持ちのトラップだと、ゴブリンに避けられちゃいますね」


「おっと、じゃぁ『コレ』の出番かな? ナナちゃんお願い~」

「うん、がんばる」


 ジンさんは表示枠から、野球ボールみたいな形をしたガラスビンを取り出すと、それをナナの足元まで転がした。


 ビンの中にはオレンジ色の液体が入っている。なにかの水薬か?


「それを連中がいる茂みの中に投げつけて~!」

「わかった。やってみる」


 ナナは槍を地面に突き立てたかと思うと、長い紐の付いた革の帯を取り出して、中央の大きな革の受けにビンをはめ込んでくるくると回しだした。


 あれはスリング……投石ひもってやつだな。石を遠くへ投げる道具だ。


「えいっ」<ブンッ>


 怪しく光る液体が入ったビンは、光の尾を引きながら、優雅な山なりの曲線を描いて、茂みの中に落ちた。


 そして何かが割れた音がしたかと思うと、茂みの中が炎に包まれた。


「わぁ。人道に対する罪って感じ。」

「だいじょーぶ、人間じゃないからヘーキヘーキ~」


 焼け出されたゴブリンが悲鳴を上げて、手を振り回しながら茂みから飛び出す。


 パニックになって真正面に飛び出したゴブリンは、両手を上げた冗談みたいなポーズでボスッと落とし穴に落ちる。直後、肉に串が通る鈍い音がした。


 おぉぅ……これは案の定だな。


 ゴブリン・スカーミッシャーは相手が突撃を仕掛けてきたときに備え、自分達の陣地の前面に落とし穴のトラップを設置していたようだ。


 まあ、そうだと思った。

 レオが勝手に突撃を仕掛けなくて、本当によかったと思う。


『敵の射撃が止みましたよ!』

「深追いは禁止! 逃げるやつの背中を撃つのに留めましょう」


「わかった。」


<ブォンッ!!>


 ナナは俺の指示通り、きぐるみの冠羽を振り乱しながら、黒曜石の槍を振りかぶって投擲する。素朴な作りの槍だが、その威力は目を見張る物があった。


 ゴブリン・スカーミッシャーは、革をウロコ状に重ねた、軽量かつ強靭な鎧を着込んでいる。しかし、その程度の鎧ではナナが投げつけている石槍から身を守ることは、不可能のようだ。


 黒曜石の穂先は容赦なく革を貫通して肉に侵入して、連中をべったりと地面に縫い付けた。こりゃすごい。


「%&’&@%!!」


 ゴブリンたちはキンキンと響く金属的な奇声をあげると、未知の言語を口走り、こちらに背を向ける。どうやら戦いは諦めたようだな。


「どうやらゴブリンは不利を悟ったようです、やはり気を抜けませんな!」

「うん、判断が早い」


 おっと、これは解説チャンスかな? ……コホン。


「えー配信を見ている方に説明しますと……大抵のモンスターは全滅するまで戦いますが、ゴブリン・スカーミッシャーは余力を残して撤退して行きます。これが本当に性質(タチ)が悪いんです。」


「よし逃げた! そう思って追いかけると、いつのまにか敵陣ど真ん中。いわゆる釣り野伏でカウンターを食らう可能性があります。なにせ第四層の見通しの悪さでは、いくらでも兵隊を隠す場所がありますから……」


 ひとしきり説明を終えたところで、俺は違和感に気がついた。

 そういえば……「あいつら」はどこにいったんだろう。


「しかし妙ですね。本来なら、前衛もいるはずなんですが……」

『そうなんですか?』


「うむ! ゴブリンたちはもっぱらオーク・ウォリアーと連携して攻撃を仕掛けてきますな!」

「ゴブリンだけはちょっと変。」


「うーん……」

『どういうことでしょう?』

「なにか嫌な予感がしますね。敵が再集結してくる前に、前進しましょう」


 先を急いだ俺たちだが、茂みの中をかき分けて進むうちに、なぜ連中が前衛を立てなかったのか、その理由を発見した。


『ツルハシさん、これは!』

「オーク・ウォリアーですね……」

「牙のすり減り具合から察するに、ヤングじゃないね、ベテランかな~?」


 人間を遥かに超える体格を誇る、筋骨たくましいヒト型のモンスター。

 それがオーク・ウォリアーだ。


 緑色の肌をしているのはゴブリンと変わらない。だが、体格の方はまるで違う。

 ゴブリンにステロイドをバケツいっぱい食わせて、脳みそを半分切り取ったモンスターといえばイメージしやすいだろう。


 オークはその体格にふさわしい分厚い黒鉄のプレートアーマーで全身を包みこんでおり、バカみたいな耐久性を誇る。


 しかし、俺たちの目の前にあるオークの死体は――


「黒鉄の盾、俺の手のひらと同じ厚みなのに、真っ二つですよ……」

『これ……位置的に、甲冑を切り裂いた傷とピッタリ合いませんか?』

「おぉ、確かに! ラレース殿のおっしゃる通りですな!」


 チョット待って!?

 黒鉄の鉄の塊みたいな盾の上から、鎧も一緒に切り裂いたって……コトォ?!


 一体何をどうやったら、こんな死体になるんだ……?

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