バカは死んでも治らない
『あの……お怪我は大丈夫ですか?』
「腕が―腕の骨が折れたぁぁぁ!!」
「うむ! これは駄目そうですな!」
「人間には200本の骨があるんだから、ヘーキヘーキ~」
「それ、間違っても癒やし手が言って良いことじゃないですよ!」
「ま~、見せてみたまえ~」
「お、お願いします!! マケール! この人が助けてくれるよ!」
「骨が飛び出てないのは運がいいね。さくっと直そうね~」
ジンさんはメガネを怪しく光らせてそう言うと、初心者探索者のあらぬ方向に曲がった腕をむんずと掴んだ。……なんか嫌な予感が。
「な、何を……?」
「まずは骨の位置をちゃんとした場所に動かさないとね~」
<ゴリッ! ゴキッ!>
「ギャァァァァァァ!!!」
「動いたら肘が2つになっちゃうよ―?」
<ボリボリ! ボキ!!>
「ホゲゲゲゲ!!!」
わー、えっぐい。
え、ていうかあれじゃん。もし俺が負傷したら、あの治療を受けるわけ?
うわー。絶対に怪我したくねぇ……。
「ラレースちゃん、そこ抑えてもらっていーい~?」
『あっはい!!』
「お、こういうの結構慣れてる?」
『えぇ。手当ての助手は良くしているので』
「力ありそうだもんね~。うん、固定はこんなもんでいいよ~」
「彼の者の辛苦、彼の者の気精をもって癒したまえ『キュアウーンズ』」
おぉ、流石だ。
ジンさんがスキルを使うと、探索者の折れた腕に力が入っていくのがわかる。
腕が折れたことで、麻痺していた手指も動かせるようになったみたいだ。
ただ……色々すごい事になってるな。
「あ”り”がどう”ござい”ま”ず……」
治療を受けた探索者の顔は、涙と鼻水でえらいことになっていた。
軽率な行動をとった罰としては、これ以上のものは無さそうだ……。
「うむ! 治ってよかったですな!」
「お大事に」
「いや、まだ終わってないよ~?」
そう、ジンさんが言う通り、彼にはまだ、折れた2本の足がある。
すっごくカワイソ。
「んじゃ、もういっちょ~体力の問題も有るし、一気に2本やるかね~」
「え、ちょ」
『動くとやり直しになります、動かないでください』
「そんな?!」
「痛かったら言ってくださいね~。別に止めないけど~」
<ベギボキドリヴィリ!!!>
「ゴギョギョギョビビビー!!!」
わぁ。
人間って上半身だけで、あんなエビみたいに跳ねられるんだ。
イキがいいな~!
・
・
・
「…………」
「し、死んでる?!」
「だいじょーぶ、痛みで失神してるだけかな~」
どうフォローしたもんだろうな、コレ?
治療って言うより、限りなく拷問に近い何かだったぞ。
「ハハハ! 耳が遠くなるくらいの悲鳴でしたな!」
「凄まじかったですね。治療というか、拷問というか……」
「ちょっとばかし、骨折の程度がひどかったからね~」
『完全に関節が砕けていましたね。後遺症が出ないと良いのですが』
「それなら、おしゃれなロープを首に巻き付けるなり、割ったガラスでも飲んで、新しい体にしたほうが良いかな~?」
『ジンさん?!』
(ホントこの人、さっきから医者とは思えないことを口走るな……ツルハシスレのスレ民だけあって、ちょっとヤバイのでは?)
「私としてはあんまりオススメしないんだけど~。そういう手段をとっちゃう患者さん。結構多いんだよね。とくにクスリにハマったジャンキーとかさ~」
『どういうことです?』
「クスリって、使ってるうちに耐性ができて、同じ量でもハイになれなくなるらしいんだよね~。もっと使わないといけなくなると、金がかかるでしょ~?」
「首をくくって体を新品にすれば、またクスリをイチから楽しめる。そう考える救えないヤツらが居てね~。歯や血管、体がボロボロになってもお構いなし」
「あぁ、そういう輩がいるっていう話は聞いたことはあります」
『……奇跡をそんなことに費やすなんて』
「バカは死んでも治せないっていうのは、本当だね~」
「そうか、後遺症とか依存症、そういうのは一度死ぬと引き継がれないのか……それ、地獄に落ちたりしないんです?」
「だから薬物を使用する、トランス系の儀式が存在する神を選んでるんだよね~」
『「うわぁ……」』
「ま~実際、ケガを治すより、死んだ方がてっとり早い……そんな考えの人も多いから医者としてはモニョるよね~」
「あ、あの……」
「ごめ~ん。話が逸れちゃったね。あとの二人は、ケガは無いかな~?」
「な、ないです! 健康そのものです、はい!!」
「ホッ」
『ケガがなくってよかったですね……』
ああ、本当によかった。
さすがにあの拷も――治療風景をもう一度見せられるのはキツイ。
まだあの時の絶叫が、俺の耳に染み付いてるぞ……。
「あの、治療費なんかは……あまりその、持ち合わせがなくて」
「私は探索者協会の者だからね~。今回はサービスってことで~」
「本当ですか!?」
「うん~」
『あと……厳しいことを言いますが、貴方たちは純粋に準備と能力不足ですね』
『マシュマロゴーレムは素直な相手ですので、これに負けてしまうようでは、ダンジョンに勝てる相手はいないと思います』
「そんな……」
「そう落ち込まなぁい~! そんな時のための探索者協会だからね~?」
「え?」
「無償講義やメンバー集めの手助け、実地教育もしてるから~。もし探索者を続けたいなら、カブキ座に来てね~って営業? あこれパンフね」
「あ、ありがとうございます!」
そう言ってジンさんは荷物からパンフレットを取り出して、彼らに渡した。それの題名は「稼げる探索者になる方法」なんて書いてあって、うさん臭いことこの上ない……。
まぁ、これは興味を持ってもらう工夫だろうな。「正しい探索者のしおり」なんてお利口なことを書いても、誰も興味を持たないだろうから。
ひょっとしてジンさんって、意外と仕事熱心?
探索者協会のパンフを渡した後、初心者探索者をダンジョンの出口まで送った。といっても、出会った場所がほぼ入り口だったので、たいした移動距離ではなかったが。
「余計な時間を喰ってしまいました、先を急ぎましょう」
『はい!』




