槍事務所
「お待ちしてましたツルハシ男さん!!」
「お、おう……?」
俺は待ってないし、今すぐ逃げたい!!
なんだろう。レオはきわめて紳士的なポーズをしている。
己の筋肉を誇張しつつも、下品さはない。知的で慎み深いポーズだ。
格好は最悪だが。
俺の「おう」という生返事を了承と受けとった彼は、一方的に会話を続ける。
「流石ツルハシさん。ココに来るはずだと思っていました。これはまさに運命!」
「確かに受け取りました……! その想い!!」
うん、何も送ってないからね?
架空請求やめて?
『ツルハシさんどうしましょう? 無視して横を通るのも、気の毒な気もします』
「それで良い気がするけど……」
「ま、まぁ、確かに俺は探索者を求めてるけど……レオが条件に合うかどうかは、まだわからないからな?」
「我が『槍事務所』は守るも攻めるも精鋭中の精鋭……自信はあります! 」
実際そうだから質が悪い。
ゲートでの振る舞いを見る限り、普通に強いんだよなこいつ……。
「ラレースさん、時間が惜しいです。早く受付にいきましょう」
『あっ、はい!』
「お待ちしておりますよぉぉぉッ!!!」
やかましい!!
周りの連中がこっち見てんだろ?! 死ぬほど恥ずかしいわ!!
◆◆◆
「さて、最終的に第十層を目指すとして……どうするか、だ。」
俺の目の前には、カブキ座の朱色の壁がある。
だが、その表面はびっしりと紙片で覆われている。
これは全て探索者のプロフィールが書かれた紙だ。
ここで望みのメンバーを探して、探索者協会に照会してもらう。
そういう手はずだ。
神気でネットが使えるんだからペーパーレスにしろよって思うが、探索者協会はなぜかこの方式にこだわってる。
手書きのほうが心がこもるってか?
実害のある老害ムーブはちょっと止めてほしい。
『ツルハシさん、深層を目指すために探索者の募集を始めるとして……編成はどうします? 私としては最低4名。6名いると安全ですが』
「ぶっちゃけ、俺よりラレースさんのほうが詳しいですよね。どういうメンバーを集めたら良いんです?」
『そうですね……守り手は私として、癒し手を1名。そして射手と闘士を1名づつ。それが最低単位でしょうか』
『私達の戦闘教本では、闘士2人につき、守り手と癒し手を1名づつ用意するのが最善とされています』
「ふむふむ……ツルハシは?」
『ツルハシさんには申し訳ありませんが……戦力外として、数えない方向で』
「デスヨネー」
まあ、数えられても困る。
「となると、3名の募集ですかね」
『そうなりますね。ツルハシさんがいるので、罠解除といったシーフ系技能を持つジョブは、すこし優先度が下がりますね』
「力づくで突破できますからね。そうなると、パーティは火力重視で?」
「で、良いと思います。その方向性でいくために、師匠とバーバラをパーティに誘いましたので」
「ふむふむ……」
たしかにあの二人は思いっきり火力重視って感じだったな。
なるほどね。
「となると――」
「我が『槍事務所』の出番ということですね!!!」
「ぬわぁ!!」
「失礼ながら、盗み聞きさせて頂きました!」
漏らすかと思った。不意打ちはやめろ!!
おや……?
俺に奇襲を仕掛けたレオの隣には、さっきまで見なかった子がちょこんと立っている。鳥のきぐるみを着た、ちっこい少女だ。あらカワイイ。
鳥のきぐるみは、クチバシの下から顔を出せるようになっていて、彼女はそこから顔を出し、きぐるみの上から肩かけカバンをぶら下げている。
まるで何かのマスコットみたいだが、手に持った黒曜石の槍が、彼女が探索者であることを物語っていた。
「この子はナナです。幼く見えるでしょうが、闘士としての力は確かですよ。なんといっても、すでに第五層までの突破実績があるほどです」
マジかよ。
どうみても小学生くらいだよ?
『……なるほど、彼女は「イーグルウォリアー」ですね?』
「お詳しいですね。まさにそのとおりです」
イーグルウォリアー? 鷲の戦士ってことか。
ん、この手の命名方法、何か聞いた記憶が……?
「彼女の信仰は『ナナワトル』。世界がまだ闇のなかにあったころ、太陽を作り出すために、その身を炎に捧げ、鷲として舞い上がったという神です」
OH……
アステカとかマヤ、メソアメリカ系じゃねーか!!!
しかも逸話からしても、おもっくそ生贄系の神様だよ?!!!!
「さぁ、ナナもツルハシさんにご挨拶して……彼女もツルハシさんの動画を視聴していまして、是非にというので……」
「は、はぁ、それは……どうもです」
前に進み出たナナは、きぐるみのてっぺんにある冠羽を揺らしながら、俺達の前に進み出てきた。
そして――微動だにしない。
なんだろう、こんな鳥いたよな。ハシビロコウだっけ?
「えーっと……ナナちゃん、さん?」
俺が名前を呼ぶと、羽を揺らしてペコリとお辞儀した。
どうやらコミュニケーションは取れているらしい。
「うちをパーティに入れてください。深層でどうしても欲しいものがあるんです」
うーん、欲しいのって、残虐行為手当かな?
腕とか首とか心臓とか引っこ抜いてボーナスにするみたいな?
「私のお父さんとお母さん、探索者だったんです。でも、深層でテレポーターの罠にかかって……今も、壁の中にいるんです。お願いします、ツルハシ男、さん」
(――ッ!!)
『ツルハシさん…‥』
俺の横に立っていたラレースは、俺の肩の上にどこかぎこちなく手を乗せた。
まぁ、彼女なら断らないだろうな。
「深層へ行くには、ちょっと幼なすぎる気もしますが……」
ラレースの手が、俺の肩を万力のようにギリギリと締め上げる!!
痛い痛い!! わかってるから!! 最後まで聞いて!!!
「わかりました。まず1人目は決まりですね」




