銀座のゲートにて
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『銀座ってこんなに近かったんですね』
「えぇ。浜離宮から銀座までは、200メートル、徒歩3分ってとこですね」
俺たちは浜離宮を後にして、俺がホームタウンにしている銀座に向かっていた。
ラレースが言う通り、銀座と浜離宮ダンジョンの距離はものすごく近い。
ちょっとその辺のコンビニに行く感覚でダンジョンへ行ける。
「銀座がダンジョンに近いということは、それだけ「地上の脅威」から守られるということです。これがけっこう大きいんですよね」
『これだけ人口密集地が近ければ、モンスターも近寄ってきそうにないですね』
「はい。俺もそうだったんですが……銀座に拠点を構えれば、装備が貧弱な初心者のうちでも活動しやすいです」
「だもんで、銀座は初心者向けの『都市』って言っても良いんですが……」
『素晴らしいことだと思いますが、その様子だと、何か問題が?』
「問題は……初心者が集まるということは、それを喰い物にしようとする奴らもやってくるってことです。銀座はルーキーの街ですけど、そういった意味ではあまり気が抜けない場所なんですよ」
『なるほど……良い所ばかりではないですね』
「お台場に比べると荒っぽい街なんで、気をつけてください」
「特に、スリには要注意です! 表示枠からみだりにアイテムを出さないこと!」
「荷物もそこらに置かない、屋台とか要注意ですよ!!」
『はい!』
手荷物に注意するよう、口をすっぱく言い含め、俺は銀座のゲートをくぐった。
――おっと、あいつらは今日も元気に営業中だな。
「護衛はいらないかー? 銀座を歩くならボディガードが必要だよー!!」
「うちのガードは銀座で一番だよ!」
「さぁさぁ!! 襲われてから後悔しても遅いぞ!」
ゲートをくぐった俺たちに、威勢の良い声が降り注ぐ。
かけ声の主はゲートの左右で一列に並んでいる、武装した連中だ。
これがまた、色々な連中がいた。
スチール製の鎧を着込んでいる、見るからに強そうな奴から、普段着に毛の生えたいかにも頼りなさそうな奴、そしてボロい着流しに一本の脇差しだけを帯に突っ込んだ、いかにも玄人っぽいやつまで。
彼らは俺たちに声をかけ、ある事の「営業」をしているのだ。
『なんですか、あれは?』
「あれはボディガードの売り込みですよ。銀座には、ダンジョンで見つかったものを買いに来る人達もいるんで、そういった客向けにやってる商売です」
『では、彼らは強いんですね』
「あそこに並んでいる連中の顔、俺一度もダンジョンで見た記憶がありませんね」
『あぁ……そういう』
護衛ならラレースで間に合っている。
俺は客引き連中を無視して、通り抜けようとする。
だが、そんな俺の目の前に立ちふさがった奴がいた。
「そこで止まれ。保険が無ければ銀座で歩き回ることは出来ないぞ?」
ゲ、厄介なのが出たな。この商売の元締めの男だ。
名前はたしか……「宮藤」とかいったか?
道を塞いで声を賭けてきた宮藤は、リーゼントに黒と赤の学ランを着ている。
学ランの背中には「天下統一」なんて書いてあるが、こんなクソを書いた学ラン、よく今どき恥ずかしげもなく着れるな。逆に尊敬するわ。
突っかかってきた理由はアレか。
ゴロツキを雇うか、心付けを渡さないと先に行かせないってところだろうな。
面倒くせー……。
「勘弁してくださいよ宮藤さん。俺はこの街に住んでるんですよ」
「この街に住んでるんなら、なおさらじゃねぇか。この街の安全を守っている俺たちに対して、『敬意』ってもんが必要じゃねぇか、なぁ?」
宮藤は距離感バグってんのかってくらい、ズズズと俺の前に寄ってきた。
近い近い!! うっとおしい!!
「それともお前は、そんな事もできねぇ恩知らずなのか、えぇ!?」
はぁ、脅しに掛かっといて、よくいうよ。
『下がってください。手荒な事はしたくないです』
距離感がおかしい宮藤に仰け反っていた俺の前に、ラレースが割って入る。
彼女の声は普段と違う。激しい怒気が含まれていた。
「やろうってのかい、騎士さんよぉ? この銀座に俺の仲間が何人いると思う。人間はいつまでも起きてられないぞ?」
「……保険のない連中には、事故が起きるかもな。悲惨で、血みどろな事故が」
『……………』
普通の初心者なら、ここで折れるところだが……。
ラレースさんはそうじゃないからな。毅然として胸を張っている。
これはもう、お互いのメンツの勝負だ。
彼女の性格だと、こうした脅しに屈することはないだろう。
あ、それって不味いのでは?
客引きをしていたゴロツキも、声を張るのを止め、こちらの様子を伺っている。血が流れるのを覚悟したほうがいいかも知れないな。
俺は表示枠からこっそりとスレッジハンマーを取り出す。
どこまで戦えるかわからんが……やるしか無いとなったら仕方がない。
<ガシャ><チャキ><ガキン>
ゴロツキたちが武器を取り出す音が不揃いなオーケストラのように重なる。
――と、その時だった。
「スパァァルタァァァァァァ!!!」
銀座の空の静寂を、謎の咆哮が切り裂いた。




