ダンジョンハート
「ジジイの言うことが正しいとしたら……いや、多分正しいんだとは思うんだけど。誰かの心がダンジョンを具現化したってことになる。
「うむ、そうなるのぅ」
「こんなバカでかい心の持ち主が居たってことか? よっぽどの誇大妄想狂だな。それに、このクソたわけダンジョンを作るくらいだ。ついでに性格も悪そうだ」
『……そもそも、人間にそんな事が出来るのでしょうか』
「その疑問はもっともじゃな。仮にそんな者がいるのだとしたら、ダンジョンの最深部、奥底に居ることじゃろう」
ダンジョンの最深部、か。俺の記憶がまちがってなければ、ダンジョンの「底」には、まだ誰も行ってないはずだ。
「ダンジョンの奥底なんて軽く言うけどさ……いや、ジジイはここの住人だから、底まで行けるのか?」
「いや、ワシも第十層より下には、一度も行ったことがない」
「思わせぶりなこと言っておいて、無理なんかい」
ここまで話していて、唐突に会話が止まった。
ロウソクの芯がジリジリと燃える音だけがする、何故かそれが妙に耳に残った。
ラレースは顔をうつむいて、何かを考えている様子だ。
多分、彼女は俺と同じことを考えている。
「ラレースさん?」
『あっはい、なんでしょう』
「もしもですよ? このダンジョンが誰かが望んだもの、誰かが夢見たものだとしたら……その心を砕いたら、このダンジョンは消え去るんでしょうか」
『……ダンジョンを消せる。その可能性はありそうですね』
「あーでもそうなると、ダンジョンが消えたら、ジジイも巻き添えで消える?」
「どうかの? 消えるかもしれんし、消えぬかもしれん。もとよりこのダンジョンに居たわけではないからのぅ」
「意外と冷静だな。てっきり『やめんか!!』なんて言うかと思った」
「わしはこのダンジョンから、『本当の住民』として扱われていない可能性が高いからの。本当の住人なら、最深部までいけるはずじゃ」
「なるほど、そりゃ確かに。」
『ダンジョンが消えたら、外に出される。そんな可能性もありますね。理屈はよくわかりませんが、現にダンジョンの外で活動しているモンスターもいます』
「ジジイにとっても、ダンジョンの第十層から下は特別なんだな」
「うむ。第十層までも十分過酷じゃが、そこから下ともなると未知の世界じゃ」
『第十層より下には、何故入れないのです?』
「簡単なことよ。門で閉ざされておる。通称、『地獄門』と言われる巨門で十一層への道は封じられているんじゃ」
「思ったより力技だった」
「そこは普通さ、入れるけど戻ったら死ぬ~とか、そういうんじゃないの?」
「わしに言われても」
『普通に封鎖されているんですね。でもツルハシさんなら……』
「ですね。普通にぶっ壊せると思います。それか、横を掘ればいいですね」
「本当に酷いなお主。」
「えー?」
「他の人間が真面目に考えてることを、そのツルハシ一本でこなしてしまう。それが酷くなくて何だという話よ」
「まあそれは、うん。」
『たどり着ければ先に進める。ですが、問題がありますね』
「問題……どんな問題ですか?」
『そもそもの話ですが、私は十層に到達した事がありません。』
「そうだったんですか?」
『えぇ。私が一番深くまで潜ったことがあるのは、第七層までです』
「負けました。俺は第五層です」
『ツルハシさんって基本単独行動でしたよね……? 非戦闘系ジョブでそこまで潜れるのは異常ですよ』
「隠れまわってただけですよ。 あ、師匠はどうなんです?」
『本当のところはちょっとわかりませんけど……師匠も私達と同じ、第七層までだとおもいます。当時、ここまで潜ったのは始めてだ、とおっしゃっていたので』
「そっかー……そうなると手助けが必要ですね」
『ですね。第十層まで潜ったことのある探索者。すなわち「黄泉歩き」と呼ばれる方々をガイドに雇わないと、危険だと思います』
「ラレースさんや師匠の知り合いに、そういう人いません?」
『残念ながらいません。ただ――』
『知り合いではありませんが、お台場の都市と契約している都市探索者が、確か「黄泉歩き」だったかと。「ファウスト」という方です』
「その人に手伝ってもらえば、俺たちでも行けるかも知れませんね」
「ダンジョンの最奥まで行って、ダンジョンの心、ダンジョンハートを探し出す。なんか面白そうじゃありません?」
『うーん、彼を雇うのはちょっと、いえ、かなり難しいと思います』
「ひょっとして、お高い感じです?」
『はい。去年、ファウストが国際展示場にもたらした神気は200億以上だと聞いています。彼に個人的な依頼をするとなると、億単位の予算が必要かと……』
「ゲッ!!」
『ツルハシさん、その……地道にやりましょう』
「そっすね」
『……でも、ダンジョンを消せる可能性、少し出てきましたね』
「不思議ですね」
『え、何がです?』
「ほら、ラレースさんが最初の頃、俺に言った目標、まだ覚えてます?」
『……はい。我ながら大それたことだったと思います。』
彼女と出会い、転送門の小部屋で話した時、確かこう言ってたっけ。
(ダンジョンを消し、世界を元に戻したい。そのために私はお前の力を使いたい)
あの時は、なんて無謀な事を言うもんだと思ったが……。
まさか解決の糸口が見つかるとはね。
「何ていうんだろ、いきなり目標に向かうんじゃなくて、ひとまず出来ることをしよう。でも目的はそれっていう確固たる考えがあると――」
「回り道は、回り道じゃなくなる。みたいな?」
『そうですね、言われてみると不思議です。』
「どうやら、結論は出たようじゃな」
「あぁ、ダンジョンの最深部、俺たちはそこを目指そうと思う。」




