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女神様と過ごした50日間  作者: 神宮司びわ
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07. 朝ご飯というより昼ご飯

龍烈「この小説を読むときは~。部屋を明るくして。画面から、離れて読んでくれよな(☆)」

アイ「それって毎回言う必要ありますか?」

龍烈「俺が言いたいから、言ってるのさ(キラリン)」

アイ「……」

 ジューと何かを焼く音で目が覚める。何か夢を見ていたような気がしたが思い出せない。

 そんなことを考えてたら、ガチャンガチャンという音がし始める。恐らく、フライパンがガスコンロに当たる音だ。

 朦朧としていた意識が覚醒していく。そのおかげで美味しそうな匂いを感じてきた。

 魚を焼いた匂い、魚の種類はたぶん鮭。卵焼きの匂いもしてきた。……そうだ、さっきの音は卵焼きを作っている音だ。

 ん? 卵焼きを作っている音? 誰が作ってるんだ?

 この家には俺一人しかいな――いや違う、いる。人ではなく神様が。

 俺はガバッと勢い良く起き上がり、キッチンの方を見上げて反射的に言う。


「何やってんのアイ!」


 キッチンには昨日と同じスーツの上に、黒いエプソンを着たアイが立っていた。

 アイは卵焼きを作り終わったらしくガスコンロの火を消して俺に声を掛ける。


「こんにちわ」

「こんにちわ……じゃなくて、何してんのさ!」

「朝ご飯を作っています」

「朝ご飯と言うより昼ご飯だけどね」


 これをツッコミといえるのかどうかは定かではないがそう口に出した瞬間、スマホのアラームが鳴る。アラームは正午に鳴るように設定していたため、今が何時なのかが判断できる。

 アイは俺が起きるタイミングを計って、朝食を作ってくれたみたいだ。

 いやちょっと待て、可笑しいだろ。俺はアイに朝食を作ってくれと頼んだ覚えはない。むしろ、作らなくていいとまで言ったはずだ。

 これは一体どういうことなのか、俺はアイに尋ねようとすると――。


「どうした? 俺のことそんなに見詰めて」


 卵焼きをフライパンからまな板に置いたアイがフライパンを手に持ったまま微動だにせず、俺をジッと見詰めてきていた。

 無表情のまま何も言ってこない。不思議に思い俺は再び声を掛けようとすると、アイが先に口を開く。


「どうして、泣いているのですか?」


 質問の意味が分からなかった。

 俺が泣いている? 何を言っているんだ。

 そう思った瞬間、右目から何かが頬を伝った。


「え……」


 驚きと困惑のあまり声が漏れる。

 おもむろに瞼の下あたりを右手で触れる。頬が濡れているのを感じた。

 泣いている……。俺は今、泣いている。


「なんで……」


 泣いていると分かった途端、涙が止まらなくなった。

 何度も鼻を啜りながら、何度も涙を手で拭く。


「あはは、なんでだろうね。何で泣いているんだろうね、俺。ごめん、すぐに止めるから」


 笑顔を作って明るい声を出そうとするが、声が震えてしまう。涙を止めようとしても、ぼろぼろと涙が零れてきて止められない。

 俺は笑顔のまますすり泣いた。それをアイは、ただただ何も言わず無表情で見守っていた。


 ******


 涙が止まるまでに5分以上も掛かってしまった。


「あ~ごめんごめん、いきなり泣いちゃって。もう大丈夫だから」


 まだ少し感情がぐちゃぐちゃだが、無理やりいつも通りの調子で声を出す。

 今日の深夜に出会ったばかりのアイに泣いている姿を見られてしまい、恥ずかしい気持ちが溢れてくる。

 なんでいきなり涙が止まらなくなったのだろう……まあ、理由は何となくわかっているのだが。


「本当に大丈夫なんですか?」

「大丈夫大丈夫。もう何ともないよ」

「そうですか。良かったです」


 そう言ったアイは無表情のままで、何を考えているのか分からない。俺がいきなり泣いて困惑しているのか、それとも泣きやんで安堵しているのか。今までで一番、読みづらい。


「そんなことよりもアイさんや、何で朝ご飯を作っているのカナ?」


 俺は大丈夫だよアピールをするために、わざとおじさん構文で話しを切り出す。


「そんなことって……」


 アイがそう呟き、一度ため息を付いて口を開く。


「朝ご飯を作ってはいけなかったのですか?」

「別にいいだけど。申し訳なく思うというか……」

「なぜそう思うのですか?」


 アイがオウム返しに聞いてきたので、俺は昨日思っていたことをそのまま話す。


「だって、アイはご飯を作る必要がないのに、俺の分をわざわざ作ったんでしょ。そんなの申し訳なく思うでしょ」

「ですが、弟次(ていじ)が私に謝る必要はないのではないでしょうか。これは私が勝手にやったことです。弟次が失敗をした、悪いことをしたわけではないのですから」

「確かにそうなんだけど……」


 難しい。この感情をアイに理解させるのはなかなかに難しい。

 アイの言っていることは正しい。アイが勝手にやったことであり、俺が何か悪いことをしたわけではないので、アイに謝るのは可笑しいことではある。

 しかし俺は、アイに対して悪いことをしたと思ってしまう。アイにご飯を作る手間を、時間を使わせてしまったと思ってしまう。

 悪いことをしたわけではないのに悪いことをしたと思っている。

 矛盾しているこれを一体どう表現すればいいのだろうか、どう説明すればいいのだろうか。


「やはり、私には理解できません。……いつか私にも分かる時が来るのかな」


 ああ、クソ……。やっぱり俺には、何も出来ないのか……。


 ――――本当に何も出来ない子ね。


「よし、決めた! アイには料理を任せようかな」


 俺は無理やり話題を変える。これ以上、昔のことを思い出したくなかったから。


「宜しいのですか?」


 ありがたいことにアイも乗っかってくれた。

 さっきまでの暗く重苦しい雰囲気から、今日の深夜のような明るい雰囲気へと変わり始める。


「どうせ、ダメって言っても作ってそうだから。なら、もう任せた方が良いかなって」

「…………分かりました」


 アイが頷くまでに少し間が開いた。声の雰囲気から戸惑いを感じた気がするが、この流れに戸惑うことなんて何処にもないはずなので恐らく気のせいだろう。


「あ、配信中の時は作らなくていいよ。いつもデリバリーを頼んでるから」


 俺は今まで配信中にお腹が空いたらデリバリーを頼んでいた。なのでこの先、配信中にデリバリーをせず「ご飯を食べてくるわー」とか言った矢先には、誰かと同居しているのではと疑われてしまう。

 流石にそれはまずい。しかも同居人が神様だ、俺の人生は確実に終わる。


「分かりました。デリバリーがきたら作らなくていい、という認識でよろしいでしょうか」

「そういうことだな。じゃあ、これからよろしく」


 申し訳ない気持ちはありつつもアイに任せることにして、敷布団から四つん這い歩きで出る。リビングの隅に置いてある座布団を持ってくるのが面倒くさかったのでそのまま床に座った。

 机の上には、白ご飯、焼いた鮭、ほうれん草のおひたし、ひじきの煮物、豆腐とわかめの味噌汁。そしてキッチンから出たアイが持っている卵焼き、これが今日の朝食だ。


「なるほどなるほど、まさしく和食の朝ご飯って感じだな」


 俺は驚きを隠そうと両腕を組み、何度か頷く。俺の朝食はいつもパンだけなので、これを全て一人で作ったと考えたら驚くに決まっているだろ。

 ……というかこんなに作っていたんだな。最後の一品を作り終わるまで寝ていたとか、どれだけ深い眠りに就いてたんだよ。


「食材は全て冷蔵庫に入っていたものを使ったのですが、よろしかったでしょうか?」

「全然いいよ。また買いに行くから」


 俺は両手を合わせて「いただきます」と言って右手で箸を持つ。

 まずは味噌汁を飲もうと左手で汁椀を持ち、一口飲んだ。その瞬間、雷に打たれたような衝撃が走る。


「なにこれうま!」

「……良かった」


 ウグゥッ! 可愛さのあまり心臓がギュッと締め付けられる~。

 もしかして、表情が少し和らいでいることに気づいていないのか。思ったことを口に出していることにも気づいていないのか。こうなったら次はこの一連の流れを動画に取ってやる。そして編集して、如何にアイが可愛いかを証明してやる。ついでに感情を持っていることも分からせてやる。

 なんか今、アイに感情を教える良い方法を思い付いた気がするが、そんなことよりも今はアイの料理だ。ずっと美味しそうな匂いがしていて、食べたくて仕方がない。

 まだ一口しか味噌汁を飲んでいないがそれだけで分かる、この圧倒的美味さ。今まで食べてきた料理の中で一番美味しい。

 味噌汁がこんなにも美味しいのだから、他の料理も――。


「うまい! うまい! うまい!」


 あまりの美味しさに食べる手が止まらない。


「うまい! うまい!」

「そんなに何回も言わなくていいです」

「うまい! うまい!」

「……もう分かったから。それ以上言うな」


 俺は茶碗を持ちながら斜め左にいるアイに顔を向けて一言。


「うまい!」

「うるさいです。もうそれは、凄く分かりましたから」


 そう言ってアイは立ち上がり、配信部屋がある壁の中へと消えていった。

 それを見て少しだけ体がビクッとなる。すり抜けることは知っていても驚いてしまう。あり得ないことを目の当たりにしているのだから、慣れろと言われてもすぐには慣れない。


「流石にやり過ぎたか」


 とはいえ、事実ではある。本当に美味しいので、あれぐらいの勢いが出てしまうのは仕方がないことだとは思う。

 まあ本当のことを話すと、俺はまた泣きそうになったので勢いで誤魔化したに過ぎない。

 おっと、暗いことは考えちゃいけないな。せっかくの美味しいご飯の味が分からなくなってしまう。

 俺はテレビを付けて、旅番組を見ながら朝食を食べ続けた。


 ******


 壁をすり抜けて配信部屋へときた私は、弟次に料理を任された時のことを思い出す。

 押し売りをしてしまった気がすると思った瞬間、胸辺り――というよりは体内、心臓がある辺りがもやっとした気がした。


「……何だったのでしょうか。それに、どうして私は弟次に朝ご飯を作ったのでしょうか」


 私自身、弟次にご飯を作ろうと思った理由が分かっていない。

 でも、弟次といればそれが分かる時が来る。何故だかそんな気がする。


龍烈「今回の話はどうだったかな? 面白いと思ってくれたなら、ブックマークや評価をしてくれると嬉しいぞ(☆)。あと、感想や誤字報告は遠慮しないで、じゃんじゃんしてくれよな(☆)」


龍烈「次回予告!」

龍烈「ついに始まった女神様との共同生活。こんな調子で弟次は大丈夫なのだろうか」

龍烈「次回、《08. 共同生活一日目》お楽しみに!」

アイ「これも毎回やるんですね」

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