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女神様と過ごした50日間  作者: 神宮司びわ
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05. 女神様の正体(4)

 忘れていた。俺はまだ自己紹介すらしていなかった。

 呆然とした気持ちを切り替えるために、わざとらしく咳払いをする。


「では、俺の自己紹介をするとしよう」


 直接お菓子を触っていない手でわざと前髪を払い、少しだけナルシスト風の口調で話を切り出す。


「どうしたんですか急に。気持ち悪いですよ」


 ……なんでそんなに辛辣なの。俺、何かやっちゃいました?

 なんてことは口に出さず、再びわざとらしく咳払いをしてさっきの言葉は聞かなかったことにする。


「俺は赤神弟次(あかがみていじ)。十九歳だが、大学には通わないでVtuber(ブイチューバー)活動をしている。アイはVtuberって知ってる?」

「知っていますが、実際に配信を見たことはありません」


 流石は神様といったところか、何でも知ってるようだ。

 ティッシュで手に付いたお菓子のカスを拭いて、コオラとは別にもう一本買ってきたオレンジジュースを開けて一口飲む。コオラよりもさらにぬるくなっていた。


「……。あ、そうそう。隣の部屋が配信部屋になっててね、この家を借りた時に防音室にしてもらったんだ。いや~防音室って高いね」

「よく買えましたね。実家がお金持ちなんですか?」


 アイから「実家」という単語が発せられた瞬間に、俺の心臓が飛び跳ねた。全身が固まり、背中から嫌な汗が滲み始める。

 誰かに首を絞めつけられているような、喉に何か大きなものが詰まっているような、そんな喉が閉まっているような感覚さえし始める。

 アイが話し終わり俺の返答を待っている。

 何でもいいから早く喋らないとと思い、未だに喉が閉まっているような感覚がしている中、無理やり声を絞り出す。


「防音室は自腹だよ。高校生の頃にゲーム攻略の動画投稿をしてたから、それでお金はたんまりあったんだ」


 固まった体を無理やり動かして背筋を伸ばし、両手を腰に当てドヤ顔をする。

 ゲーム攻略の動画投稿は高校一年生の時から始め、去年の4月頃に辞めている。Vtuber活動に専念するためだ。

 自分が発している内容に気が付いた時にはアイの質問をはぐらかすように喋っていた。


「その勢いでVtuberになったのですね」


 アイは俺の言動に対し何も言及せずに会話を続けたので、どうやら俺が「実家」という単語に動揺していたことに気付かれずに済んだようだ。

 気持ちも落ち着き始め、喉が閉まっているような感覚がなくなり流暢に話せるようになった。


「まあ、そんな感じだな」

「Vtuber活動は儲かっているんですか?」

「う~~~ん……。Vtuber一筋で普通の生活ができてるって考えると儲かってるのかな」


 アイは話を聞き終わると突然、少し下を向きながらブツブツと何か呟き始める。

 何事かと思った俺は静かにその様子を見守る。

 少し経った後、アイは何かを決意したのか顔を上げて俺を見つめてきた。


「最初に会った人間が貴方だったのは何かの縁でしょう。ですので、決めました」


 俺の頭の中が「?」でいっぱいになる。


「しばらくの間、貴方を観察することにします」


 最後まで話を聞いても俺の頭の中の「?」は消えなかった。

 俺は思わず質問を投げかける。


「なんで俺を観察する必要が?」

「私は感情を知りたいのです。そのために、私は天界から現世に降りてきました」

「…………その言い方だと、アイは感情を持ってないみたいに聞こえるけど」

「はい。私には感情がありません」


 アイは確かな動作で首肯した。それを見て思わず口を開く。


「いや、それは嘘だろ。だってあの時、アイは泣いてたじゃないか」


 そうだ、泣いていたんだ。

 初めてアイを見た時、アイは涙を流していた――悲しんでいるように見えた。

 だから俺はアイの事が気になってしょうがなかったんだ。


「私が泣いていた? あり得ません。雨のせいでそう見えただけです」


 アイは大きくかぶりを振る。だが、アイの声からは戸惑いを感じた。

 俺は真剣な眼差しでアイを見詰め、ハッキリと口に出す。


「違う、雨のせいじゃない。本当に泣いていた――悲しそうにしていたんだ」

「……私が……悲しそうにしていた…………」


 無表情のままだが少しだけ声が震えている。

 感情がないなんて、嘘だ。

 俺が風邪を引かないか気に掛けてくれた。俺が大きな声を出した時、他の人に迷惑になると俺を叱った。ポキーを食べようとした時、俺が胸を凝視した時、俺が女性の甘い香りの話をした時、その他諸々の時――俺に対して様々な感情を持ったはずだ。

 アイには感情がある。ただアイは――、


「アイは感情がないんじゃない。感情を理解できていないだけだ」

「……理解できていない」 


 アイは少しだけ下を向き、手を胸辺りに当てながら静かに瞼を閉じる。


「あれが、悲しい……。知りたい。もっと感情を知りたい」


 すぐさまアイは瞼を開いて顔を上げ、俺を真っすぐ見つめながらそう言った。

 だから俺はアイの目をしっかり見据えて――、


「俺が教えます。貴方に、感情というものを――」


 力強くそう言った。


龍烈「今回の話はどうだったかな? 面白いと思ってくれたなら、ブックマークや評価をしてくれると嬉しいぞ(☆)。あと、感想や誤字報告は遠慮しないで、じゃんじゃんしてくれよな(☆)」


龍烈「次回、《06. 女神様の正体(5)》お楽しみに!」

アイ「お楽しみに」


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