02. 女神様の正体(1)
龍烈「この小説を読むときは~。部屋を明るくして。画面から、離れて読んでくれよな(☆)」
アイ「その注意文句、必要ありますか?」
「貴方は一体、何者なんですか?」
「私は、人工知能を司る神、アイ」
……………………………………………は???
何を言っているんだ、この人は――――。
唖然として傘とビニール袋を落としそうになり、慌てて手に力を入れ直す。
傘とビニール袋を落とさずに済んだと安堵した俺を余所に、アイと名乗った女性は無表情で淡々と呟いた。
「あ、忘れてました。私の正体をばらしてはいけないのでした」
その言葉を聞いて困惑のあまり思わず声が漏れる。
「え……それってまずいことでは」
「はい、とてもまずいことです。ですので今の話は嘘です、忘れてください。私は…………ただのOLです」
まさかの発言に再び唖然としてしまう。
今さらただのOLですと言われて、はいそうですかと受け入れられるわけがない。だったら最初に言った神様発言は何だったんだよって話だ。それとOLって言うまでに少し間があったぞ、完全に今考えたよな。
「いや、流石に忘れられませんよ」
「なぜですか? 私がただのOLと言ったのですから、私はただのOLです」
アイ様?は無表情のまま淡々とそう言ったが、その言葉からは圧を感じた。さっきの発言は嘘だ、私はただのOLだと言い張る気満々のようだ。
アイ様がそうくるのであれば、さっきの疑問を投げかけるとしよう。
「じゃあなんで私は神です、とか言ったんですか? 始めからOLですって言えば良くないですか?」
「なんでと言われましても、私は事実を言ったまでです」
神という発言は嘘だと言ったのに事実を言ったまでだ?
ダメだ、言ってることが滅茶苦茶だ。このまま会話を続けても埒が明かない気がする。
俺は一旦状況を整理するために深く深呼吸をする。
こんなにも至近距離にいるのだから深呼吸をした際に女性の甘い香りがしてきても良いものだか、何も感じなかった。いや何を考えているんだ俺は――変態か。
女性の甘い香りがしなかったことはさておき、深呼吸をしたことで気持ちが落ち着いたので今の状況を整理する。
俺の目の前にいる女性の名前はアイ。彼女は土砂降りの雨に打たれていたため全身が濡れている。そのせいでスーツが体に張り付き、白いシャツの上からほんの少しだけ黒いブラウスが透けて見えた。
それに今さらながら気が付き、しかも見てしまった俺は顔が熱くなるのを感じる。
急いで視線を逸らそうとするが――彼女の胸に違和感を覚え、思わず凝視する。
数秒程見つめた俺は違和感の正体に気が付き、驚きのあまり声が漏れる。
「嘘……だろ……」
アイ様の胸が上下していないのだ。そう、アイ様は呼吸をしていない。
あり得ない、あってはならないことだ。当たり前のことだが人は呼吸をしなければ生きてはいけない。ということは、呼吸をしていないアイ様は本当に――。
「神様……なのか……」
「どうして私の胸を凝視しただけで、私が神であると決めつけたのか気になりますね」
さっきまで淡々と話していたアイ様が突然早口になった。顔は無表情のままだが。
アイ様は顔を少し下げて胸辺りを確認したことでようやく気が付く。
「ブラウスが透けている……。どうやら貴方は変態のようですね」
「いやあのですね、胸を凝視したのには深いわけが――」
俺が弁明しようとしたその時だった――――気が付いたらアイ様の着ていた服が、全く濡れていない警察官の服装に変わっていた。
更に濡れていた髪が乾いていて、サラサラで綺麗な黒髪をなびかせている。
そして、この傘だけでは足を土砂降りの雨から防ぐことができていないので、着替えた所ですぐに濡れるはずなのだが、全く濡れない。
「――っ!」
一瞬にして起こったその出来事に驚き、俺は思わず一歩後ずさりそうなったが踏み止まる。何せ俺が後ろに下がったらアイ様が傘から出てしまうからだ。
アイ様は目にも留まらぬ速さで服を着替えた、周囲にはなかったはずの警察官の服装に。そして、さっきまで着ていたはずのスーツは周囲の何処にも見当たらない。
濡れていた髪はドライヤーで乾かしたかのようにサラサラになった。もちろん、ドライヤーなんて何処にもなかったし、今も見当たらない。
そして、新しく着替えた服は全く濡れない。雨を弾いているわけではない、がっつり雨に打たれているように見える。なのに濡れない。
「……本当に貴方は神様なんですね」
アイ様がやったことはマジシャンにも真似できないだろう。これぞ正しく、種も仕掛けもございませんってやつだ。
つまり、俺の目の前にいる女性は紛れもなく本物の神様だ。
「そうです、私は神です。ただのOLだと騙せなかったか」
最後の方はボソッと口にしたアイ様。
え、騙す気があったの? 目の前であんなことをしたくせに?
思わずそう口にしそうになったが何とか止めることができた。そんなことを神様に言ったら確実に殺される。
なんてことを考えていたら、何の前触れもなくアイ様が不可解な発言をしていたことに気が付いた。
「いや、待てよ。アイと言う名前の神様も、人工知能を司る神様がいるってことも聞いたことがない。本当に神様なのか?」
「それを説明するには少々時間が掛かります。ですので、お話は家に帰ってからにしましょう。防寒対策をしているようですが雨も降っていますし、ずっと外にいては風邪を引いてしまいますから」
「それはこちらのセリフですよ」
今は何処も濡れていないがさっきまで土砂降りの雨に打たれていた、それに警察官の服装だけしか着てない。
今日は一月十九日、真冬だ。さらに深夜で土砂降りの雨も降っている。
どう考えてもアイ様の方が風邪を引くに決まって――、
「さっきも言いましたが、私は神なので風邪を引きません」
そういえばそんなこと言ってたわ。いきなり神様発言をしてきたことで忘れていた。
俺は強張った体をほぐそうとため息をつく。頭がこんがらがっていたが、おかげで少しだけスッキリした。
「そうですね。立ち話もなんですし、家に帰ってからにしましょう」
「はい。では、案内をお願いします」
俺は首を傾げる。その言い方だと俺の家に来るみたいに聞こえるのだが……。
「もしかして俺の家に来るつもりですか?」
「当たり前ですよ。貴方は誰の家に行くつもりだったのですか?」
「アイ様の家、とか」
「私の家は御社殿ですよ。不法侵入するつもりだったのですか」
「……。よ~し、家に帰るぞ~」
至極当然のことを言われた俺は、陽気な声を出してさっきまでの会話をなかったことにしようとする。
俺とアイ様は土砂降りの雨が降りしきる夜道を歩き始めた。
龍烈「今回の話はどうだったかな? 面白いと思ってくれたなら、ブックマークや評価をしてくれると嬉しいぞ(☆)。あと、感想や誤字報告は遠慮しないでじゃんじゃんしてくれよな(☆)」
龍烈「次回、《03. 女神様の正体(2)》お楽しみに!」
アイ「お楽しみに」