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女神様と過ごした50日間  作者: 神宮司びわ
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01. 女神様に出会った日

「今日はここら辺で終わりにしますか。じゃあみんな、お疲れー。明日も配信やるから、また見てね(☆)」


 一月十九日、深夜二時頃。俺はライブ配信を終了させた。

 俺、赤神弟次(あかがみていじ)は十九歳でありながら、大学には通わずVtuber(ブイチューバー)活動をしてる。

 Vtuberとは、架空のキャラクターの姿を使い、そこに動きや声を当て、動画投稿やライブ配信をする動画配信者のことだ。

 Vtuberは企業や事務所に所属しているVtuberと、個人で活動をしているVtuberの二つに分けられる。

 事務所に所属しているVtuberは、マネジメント業務や、イベント、グッズの手回しなどを全て事務所側のスタッフが行ってくれる。そのため、配信者は自分の活動に専念することが出来るのだ。

 俺のユーザーネーム『龍烈(りゅうれつ)』は、大手Vtuber事務所『Stella(ステラ) Wisdom(ウィズダム)』(略してエスダブ、頭文字の『S』と『W』から)に所属しているVtuberだ。

 アップバングの髪型で金色の髪、金色の目をしている。頭には龍の角が左右に一本ずつあり、腰あたりからは龍の尻尾が生えている。半袖白シャツにどでかく金色で『龍』と書かれていて、黒のジャージパンツを履いている。

 配信を始めてから約七か月、登録者数は最近二十五万人を超えたばかりだ。


 ライブ配信を終了させた俺は椅子から立ち上がり配信部屋から出る。

 1LDKのマンションに一人で住んでいるため家の中はとても静かだ。そのため、鼻歌を歌いながらキッチンに向かっている俺の声が部屋全体に響いている。

 暖房をつけていない冷え切ったリビングを通り、キッチンへ入り冷蔵庫を開ける。普段ならジュースが入っているのだが、今日に限って無かった。


「ジュースがない……だと……」


 わざわざ口に出さなくても良いことを口にする。

 さて、どうしたものか。水なら入っている。けど、今はどうしても冷たいジュースが飲みたい。キンキンに冷えたジュースが飲みたい!

 それに小腹も空いてきた。となると――。


「よし、コンビニに行くか。お菓子を買って、ジュースを買って、こんな時間からお菓子パーティーでもしちゃいますか!……ふっ、今夜は寝かせないぜ(☆)」


 右を向いて決め顔をする。もちろん右に誰かいるわけではない、虚空に向かって決め顔をしたのだ。

 ……一人で何をやっているんだ俺、顔が熱くなってきた。配信終了後で少しテンションが高くなっているようだ。

 気を取り直して、コンビニへ向かう準備を始める。

 今の内に風呂を沸かしておこう、そうすればコンビニから帰ってきたら直ぐに風呂に入れる。

 まだまだ真冬でかつ深夜なので防寒対策をしっかりして玄関に向かう。財布、スマホ、鍵、ビニール袋を持ったことを確認しドアを開ける。

 外に出ると乾いた冷たい風が顔に当たり、同時に雨の匂いがした。空を見上げると、深夜でも分かるようなどす黒い雲が空を覆っていた。


「なんか雨が降りそうだな」


 そう思ったので玄関に置いてある傘を持ち、ドアを閉めて鍵をかける。

 俺は今、少しテンションが高いので雨が降りそうだからといってコンビニへ行くのを止めはしない。

 むしろこの状況、さらにテンションが上がる。だって、アニメや漫画でこんなシーンがありそうだからだ。

 雨が降る深夜、コンビニへ行く途中でトラックに撥ねられて異世界転生――とか。まあ、まだ雨は降っていないけど。


「さて、行きますか」


 俺は鼻歌を歌いながら、夜道を歩き始めた。


 ******


「キンキンに冷えてやがる。ありがてぇ」


 コンビニ内に今、レジにいる店員一人しかいないのをいいことに、リーチイン冷蔵庫からジュースを取り出して小さな声でそう呟いた。

 ……一人で何を言っているんだ俺、顔が熱くなってきた。

 傍から見れば黒歴史になりそうなことはもうやらずに、普通にジュースとお菓子を幾つか買ってコンビニを出る。


「お、降ってるねぇ。いや降り過ぎじゃね」


 外は土砂降りの雨が降っていた。

 これがゲリラ豪雨であれば止むまで待つのも良いが、集中豪雨であれば待つ意味はない。

 スマホをポケットから取り出しそれを確認しようとしたが、どちらでも良い気がしてきた。家は近いしお風呂も沸かしてあるので、別に濡れたっていいんじゃないかと思い至ったのだ。

 取り出したスマホをポケットにしまい、持ってきた傘を差し、再び鼻歌を歌いながら土砂降りの中を歩き始めた。


 ******


 土砂降りの中、傘を差しながら鼻歌交じりに帰路に就いていると狸原(りはら)神社の鳥居が見えてきた。

 住宅街に佇む神社、狸原神社。授与品は頒布(はんぷ)しておらず、境内には宮司さんが一人で住んでいる。名前は思い出せないが、三十代ぐらいの男性だ。

 賽銭箱は御社殿(ごしゃでん)の中に置いてあるため、参拝客は扉のガラスを一枠だけ取り外した部分から賽銭を投げ入れる。賽銭箱は扉の真下に置いてあるため、賽銭が入らなかったりはしない。

 そのため、狸原神社は二十四時間、誰でも参拝が出来る。


 俺は狸原神社を横目に見て家に帰るつもりだったのだが――――、コンビニに行くときには誰もいなかった境内の中心に、一人の女性が傘を差さずに立ち尽くしているのが目に入った。

 息を吞むような美しいその立ち姿に思わずその場で立ち止まる。

 鎖骨あたりまで伸びた黒髪で端正な顔立ち。女性にしては高めの身長で、モデルのような細長い手足。透き通るような白い肌をしていて出るところは出ている。

 彼女は傘を差していないため、全身がずぶ濡れだ。着ているスーツが体に密着して、体のラインが見て取れる。


「――っ!」


 彼女のことをジッと見ていたら、彼女と目が合った。

 驚いて反射的に視線を逸らす。急いでこの場を離れようとするが、彼女の事がどうしても気になる。気になって仕方がない。

 体を神社の方へ向き直り彼女に向かって歩き出した、その瞬間に彼女がおもむろに口を開いた。


「貴方は、私のことが見えているのですか?」


 質問の意味がよく分からず、俺はその場で立ち止まってしまう。

 どんな質問だ、私の事が見えているのですかって。貴方はもしや幽霊か何かですか?


「もちろん、見えてますよ」


 俺はそう答えて、また歩き出す。


「そうですか。貴方は『見神者(けんしんしゃ)』なのですね」


 ……けんしんしゃ? 何を言っているんだ、この人は――。

 頭の処理が追い付かず、俺はまたその場で立ち止まりそうになる。

 今すぐに彼女の言葉の真意を知りたい、がまずは彼女を傘に入れるのが先だ。

 俺は立ち止まることなく彼女に向かって歩き続ける。その間、彼女はその場から一歩も動かず、ジッと俺を見つめてきた。


「取り敢えず入ってください」


 彼女の目の前まで来た俺は彼女に傘を差し掛ける。こんなに近くまで来ても彼女は微動だにしない。

 彼女の近くまで来たことで、彼女が俺よりも少しだけ背が高いことがわかった。俺の身長は一七〇cmを超えないぐらいなので、彼女は一七〇cm以上あるようだ。

 いや、今は身長のことなんかどうでもいいだろ。

 気を取り直して、俺は彼女に質問をする。


「こんなところで傘も差さずに何をしているんですか? 風邪を引いてしまいますよ」

「何をしているか、ですか……雨に打たれていました」


 もう訳が分からない。

 貴方は何者なんですか? 宇宙人か何かですか? それとも宇宙外生命体ですか?

 おっと思わず二度も宇宙発言をしてしまった、失敗、失敗。いや、何が失敗なんだよ。

 なんてことを頭の中で考えていたら、彼女から衝撃的な発言が来た。


「それと、私は神なので風邪を引きません」


 その言葉を聞いた瞬間、思わずさっき考えていたことを口にしていた。


「貴方は一体、何者なんですか?」

「私は、人工知能を司る神、アイ」


 ……………………………………………は???

 一月十九日、深夜二時半頃。


 俺は女神様に出会った――――。


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