夜の
三題噺もどき―にひゃくにじゅうろく。
冷え込む日々がいまだに続く。
少し前は温かくなりつつあったらしいが、あまり実感はない。
―何せ、寒いのが、冷えているのが当たり前の。夜にしか行動しないもので。昼間の温かさとは、全くの無縁なのだ。
「……ふぁ…」
しかし、近年は寒さに拍車がかかっている気がしてならない。
ずいぶんと長い間、生きて、死んで来たが。ここ何年かの寒さは異常だ。
人ではない身とはいえ、寒いものは寒い。いくら体温が低かろうと。夜の住民で、夜の寒さとは人より長く付き合い、慣れて居ようとも、だ。
―というか、この「夜の住民」という言い方、カッコつけが過ぎないか?少し前に仲間内に教えてもらったのだが……そんないいものでもないぞ?
「……んん……」
室内にいるとはいえ、冷えるなぁ。
寒さには、耐性がなくもないはずなんだが。実際そうでもないということに、最近になってき気づかされた。寒いの嫌い。
「……さて、」
さて。
さてさて。
腹が減ったな……。
「……」
時間は零時零分。
我ながら、正確な腹時計で尊敬する。さすが。
どうやらこの時間帯に食事をすることに、罪悪感を覚える人も居るようだが。
これが朝食と同義なので、よくわからないな。
あれだろうか。寝る前に食べるおやつとかそんな感じか?
まぁ、食べることに罪悪感を覚えたことがないので、どうやっても理解はできないが。
「……さて、」
さて。
さてさて。
何を食べようか。
「……ん~…」
寒いからなぁ、温かいものが食べたいが。
少し前に教えてもらった鍋とかは、部屋も温まっていいのだが、何せ材料……。最悪ポトフとかでもいいのだが。
「……おぁ…」
冷蔵庫を開けるが、ほとんど空同然だった。最低限の飲み物と、あれが食べるようの果物と……あ、チルドに牛肉は入っている。
「……やさい…」
手を下のひっかけに伸ばし、野菜室を開く。
……おっと。
こっちも何も入っていないな。白菜でもあれば鍋にしたのだが。もやしすらないのだが。
お、人参はある。やはりポトフでも作るか。
「……ぁ…」
そういえば。
と、冷蔵庫横に置いてあるキャスター付きの棚を探る。
「…ぁった…」
ジャガイモ発見。
なら、ポトフで決定かな…しかし正直それならウィンナーが欲しいところだが。
あと、たしか、コンソメないぞ……。
「……吸血鬼が食糧難になっている……」
「―――何かいったか?」
ジャガイモを手に持ったまま、声のした方へと振り向く。
そこには、1つのゲージが置かれている。
「……いいえなにも?おはようご主人」
「あぁ、おはよう。今開けてやる」
先程の言葉は聞かなかったことにしてやろう。
鳥籠のような形をしているゲージの扉を開き、目を覚ましたコイツを外に出す。
「……それで?何をお困りなんです」
「いやー腹は減ったが、何を食べるかなぁと」
「あぁ、買い物してませんからね」
「うん。その辺はお前に任せきりにしていたからな?」
「……」
黒の羽を気まずそうにたたみながら肩に乗り、気まずい沈黙を返す。
―小さな蝙蝠の形をしたこれは、いわゆる従者みたいなもので。そこまで頼りにはしていない。性格が悪いのだ。個人的には、従者というより、意地の悪い兄弟という感覚に近いのだが。当の本人は、そうは思っていないみたいだが。
「……あ、アレならありますよ。カレー」
「あぁ、それいいな」
温まることもできるし。
何よりこの少ない材料でできなくもない。
人参とジャガイモと、牛肉と、ルーと。
あと米…は確か保存用のやつがあったはずだ。それでいいだろう。
「決まりだな。お前も手伝え」
「…ぁーぃ…」
間の抜けた返事と共に、隣に立つ。少々身長が高めの少年。
少年―という程若くもないのだが、年齢的には。だがまぁ、見目は若人のそれだ。
「これ切ればいいんです?」
「あぁ、さっさと作って食べて買い物に行くとしよう」
―食糧難になってしまう。
「……はいはい、すみませんねご主人」
「そうすねるな」
2人、狭いキッチンで食材を切り、カレーライスを作り上げる。
なんだか久しぶりに食べた気がした。
お題:吸血鬼・カレーライス・ゲージ