私はハードモードな人生を求めるのに過保護な王子様が逃がしてくれません。
私の名はキュラソー・シリンダ。
シリンダ伯爵第四娘。
才色兼備な優等生。
……というのは建前で実際は、普通の親のとこに生まれたただの一般人。宮本香織。
そんな私が何故、いまこうしてこんなおかしな名前と肩書きを手に入れてしまったかというと理由はひとつ。
うん。最近話題の異世界転生ってやつをしちゃったから。
最初の方は確かに辛かった。
目覚めたら、いきなり赤ちゃんの身体になっていて。
身動きが取れないのだから。
でもね、ある程度大きくなって自由に動き回れるようになると、この世界は……
私が前世でやってた乙女ゲームに似てね? って気づいちゃったわけよ。
そこからはもう人生イージーモード。
誰が裏切るか、とか誰が仲間になるかなんての情報は全部、私の手の中だし。
それに前世の知識が役に立った。
足し算。引き算。掛け算。割り算。
これが出来るだけで高学歴の仲間入り。
いやマジ人生なめすぎ。
もちろんそれ以上できる私にとってはこの世界では知識の最先端を切り開くキーパーソンにもなっちゃったりした。
でもね……
こうも人生が楽すぎると飽きちゃうの。
美味しい高級料理が毎日毎日。
掃除もしない。洗濯もしない。
なんか……ね?
嫌になっちゃったわけ。
それに……
いま、私が転生している子のゲーム内でのエンドは王子様エンドのみ。
確かに前世のときだったら王子様エンドは嬉しいんだけど……
私ってMなのかもしれない。
人生ハードモードを好みます。
王子様エンドなんて暇すぎてやってらんねぇよって話。
だから、もっと山あり谷ありの人生を送りたいんだけど、私のことを王子様は逃がしてくれません。
そ、溺愛されちゃったの。
来る日も来る日も私を口説くのに一日を費やす王子様。
結構忙しいと思うんだけど大丈夫かなぁ?
公務。面会。会食。
暇じゃないはずなんだけど。
ほら、今もこうして王子は私に愛の言葉を囁く。
「姫様。私と結婚してください」
ははは。直球すぎ。
最初の方はこんなんじゃなかったんだけどね。
昔はもっと回りくどい方法で私に告白を試みようとしてたのだけれど……
もう流石に数十回目となると何も思いつかなくなるらしい。
こんな感じのド直球告白になってしまった。
「だからフェリックス王子。
その件は以前にも申したとおりお断りということで……」
「ダメだ! 僕には君しか考えられない」
王子はそう言い切った。
うーん、なんだろう。
別に悪いヤツなんじゃないんだけどなぁ。
ほら。目も子供のようにキラキラしてるし。
でもね。
王子様と結婚したらますます私の人生は楽になっちゃうでしょ?
それは避けたい。
うん。絶対避ける
避けてみせる。
だってさ。
やっぱ人生って難しいから楽しいものじゃん?
王子様と結婚なんかしたらさ絶対……
過保護状態になっちゃって……
好きなときにショッピングだったりデザート食べたり出来なくなっちゃう。
それだけはいや。
「王子様? そろそろ諦めてもらえませんか?王子の行為をストーカーとして騎士団に訴えてみたかったりしてみなかったり……」
「いや、僕は君を純粋に愛している。そこに邪な気持ちは何もない!」
ダメだこりゃ。
王子を訴えてみようかなーっていう匂わせ発言してみたけど効果が全くない。
流石王子。
こんな脅しじゃ動かないと。
じゃ、こんなのはどうかな?
「王子。そろそろ告白を遠慮してもらわないと王子様が82回連続で告白を失敗したことを皆に言いふらしますよ?」
「構わない! むしろそれで他に君のことを狙う男がいなくなるなら万々歳だ」
わおぅ。
こりゃ凄いですね王子。
世間の目というやつが全く怖くないのですかぁ。
しゅごーい。
でも、これで……
私の打つ手はなくなった。
だってさ?
もう、無理よ無理。
前世の世界にあったなんかの歌で9999回はダメでも10000回目でなにか変わるかも? みたいなやつあったけど、ごめん私限界。
100回もいかないうちに降参です。
「仕方ないですね、王子。
それでは一度、お付き合いをしてみましょうか」
「ほ、ホントか!?」
「本当も嘘も貴方の熱量に負けただけですよ」
「ありがとう」
そういって王子は私を抱きしめた。
ふむ。
どうやら王子様の腕の中は暖かいらしい。
まあ、こんな人生もあってもいいか。
王子と付き合ったからには、いろいろと私の邪魔をするものが現れるだろう。
嫉妬。嫉妬。嫉妬。
女の醜い部分が顕になる。
でもね。
いいよ、やってやんよ。
私がそいつら全員やっつけて王子様と結婚してみせんよ。
だってね。
私は人生ハードモードを好むから。
それくらいの壁なんか簡単に乗り越えてみせるから。
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