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第六話 destiny sisters

結論から言えば、赤城の言う通りだった。


「お前、どっち派なんだ?」


「ぶっ殺すぞテメェら。」


「おい、向こうでも喧嘩だってよ。」


件の二人の争いは街中を喧騒と暴動で埋め尽くした。

18時以降、街を一人で歩く学生はいない。

道行く者は皆急ぎ足で去っていき、その後で道を舐めるように

パトカーが巡回していく。

その様を見ながら、京はただひたすら二人の強大差を感じていた。

たかだか同い年の高校生二人が、街をこんな風にしているのだ。

その事実に驚き、慄き、そして意識が遠のく。不安、不安、不安。

こんな状況を変えられる人間を京は一人しか知らなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ーーバカ京。」


「うぉッ!?」


唐突に首筋を襲った冷たい感触に、京は思わずたじろいだ。

真後ろからひっそりと忍び寄った茜の手に握られていたのは

アルミ缶のポカリ。まだ残暑の残る9月には丁度いい飲み物だ。

京は鈍く睨みつけながら、差し出されたそれのプルタブを引く。


「ってか集合場所が街中って、ほんとにバカキョーだわ。

 アタシが襲われたらどう責任取るわけ?」


沈みかける夕日と同じ角度で、ビルの壁に茜は凭れかかった。

不満げな声色に対し、京もまた呆れながら口を開く。


「茜ならその辺りの不良ぐらい一瞬でぶっ飛ばすだろ?」


「まぁ否定はしないわ。

 少なくとも自分がか弱い女の子ってカテゴリーに属してない自覚はあるから。」


その発言に一切の謙遜や忖度がないことは京がよく知っていた。

粛清委員長。学園の秩序を守る学園警察のような組織で、

教師の小回りの効かない部分で学園の平穏を保っている。

時には武力的行使も厭わない委員会のため、その組織の委員長は

行き過ぎた正義を制御出来る人間にしか務まらない。

茜は粛清委員長として、委員会と学園の2つに目を光らせている。

つまり茜は学園の力ある正義そのものと言っていいだろう。


「最近忙しい?」


「まぁ普通科にスポーツ選抜がね。妙にギラついてる生徒が街の雰囲気に当てられて

 粛清に喧嘩を売ったり、街で喧嘩したり。学園の中にも確実に影響出てるわね。」


「まるで戦争ってのはウィルスみたいだな。」


「そんな話をするために、アタシを読んだわけじゃないでしょ?」


早く本題に入りなさい。とばかりに冷たい視線をぶつけられたので、

京は肩を竦めて口を開いた。


「嵐の居場所、茜は知ってる?」


「勿論。」


「やっぱ流石だな。」


愚問。とばかりに茜のため息が漏れた。


「あれを捕まえられるのはアタシだけなの。

 だから嵐の首は常に掴んでいるつもりよ。

 でもそれは向こうも同じ。アタシを止められるのも嵐だけよ。」


「仲悪いのに、認めてんだな。」


「認めてるから喧嘩出来るってものよ。」


それで、という言葉を言うと、茜は黙った。

京は上を見上げた。未だに空は夕焼け。まるで燃えるように赤い。


「俺は嵐が負けるなんて微塵も思ってない。

 それが普通の相手ならな。

 赤城 焔ってのはただのチンピラじゃない。だから俺は不安なんだ。」


ゴジラと人間が戦えばゴジラが勝つに決まってる。

しかしゴジラとキングギドラならどうだろう。

怪物対怪物。未曾有の対決は結末を予想することなど出来ない。


「俺はこんなアホみたいな争い、とっとと終わりにしたい。

 だから茜、嵐の居場所を教えてくれないか?」


「バカ京。アンタに何が出来るのよ?」


「少なくとも、俺は二人と顔見知りってもんよ。

 仲がよいかは別としてな。

 理想とか理屈とかそんなもん分からん。

 でも俺は止める。意地でもこんな下らないもの終わらせる。」


意思は鋼のように固く、視線は茜から離さなかった。

茜は暫く京を見つめて、考えが変わらないことを察すると

思わず笑みがこぼれた。


「昔っから変わらないね、京は。

 無茶ばっかするんだから。

 風邪引いたアタシのためにプリンを買いに大雨の中走ってくし、

 捕れそうにないファールを全力で喰らいついてキャッチするし、

 名前も知らない女の子のために他校の生徒と喧嘩して野球部クビになるし。

 ま、そんなバカな所がちょっとだけカッコいいんだけど。」


「ん、なんて?」


「繁華街を抜けた先、大きなゲームセンターの向かいの廃ビル。」


「……ありごとう。」


ただ一言を言うと、京は繁華街の方へ足を向ける。

去りゆくその背中に、茜は声をかけた。


「バカ京。これ、貸しだからね!」


あいよ。男は返事をすることなく、

ただ無言で拳を天に突き立てた。



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