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第二話 就職促進科 Z組と 真っ赤な悪魔

二週間後と言いながら遅れてしまってスイマセンでした。

Z組。正式には就職促進科と呼ばれるクラスらしい。

但しその実態は全く別のものだと、あの日案内した峰実は語った。


案内された場所は、校内の最も外れ。森の奥に位置し、旧校舎と呼ばれる建物だった。


「要は街中の中学で問題児だった連中をターゲットにした教育ビジネスさ。

 どこにも行き場のない彼らをかき集めれば、いい金稼ぎになると考えた

 春々学園の運営連中が作ったらしい。

 つまり学園で最も問題のあるクラスというわけだ。」


ーーその時の峰実の言葉を、京は転入初日に再び思い出していた。


「んだ、アイツ?」


「本校からの転入者だってよ。」


「一体何をしたらこんなとこに飛ばされるんだよ。」


教壇の前に達、Z組のクラスを一望する。

異聞者の京を見る連中の風貌は、モヒカンにアフロに、スキンヘッド。

髪色は金銀茶色に始まり、水色赤青、極めつけは孔雀もびっくりの虹色。

皆好き勝手な格好をしており、中にはトゲ付きショルダーパッド単機という輩までいる。

個性の超新星爆発。坊主で長身というだけの京がむしろ浮いている始末だ。

居た堪れない気持ちで突っ立っていると、隣に立つ老人の男が声を出した。

どうやらこの男が担任の教師らしい。


「今日からウチのクラスに転入の、百々川 くんです。

 みんな仲良くするんじゃよ。」


まるでロボット。老人は定型文を棒読みで読み上げた。

何の感情も抱かない作り物の教師なのだろうか。

目の前の老人に調子を狂わされたが、京は咳払いをして閑話休題。

老いた教師とこれからクラスメイトになるアウトロー達が

京の方へ疑惑や期待に対する答えを促すよう視線を送るので

息を大きく吸い込んで、自己紹介を高威力で吐き出した。


「チワ!!!!!!! 百々川 京です!!

 今日から世話になるからよろしくな!!!」


ハイパーボイス。中学生の時、校歌の声が小さいという理由で、運動部は

やり玉にあげられ、全力で歌わされることを強要させられた。

あの経験が今遺憾なく発揮されたのだ。

その言語の弾丸で近くの木から鳥が飛び出し、目の前の不良達は呆気に取られ、

隣の老いた教師は思わず入れ歯を落として気絶をした。


「で、俺の席は……と。」


「いや、待て、待て、待て、待てぇい!!」


空いている席を探すために教室を歩き出した京に対し、1テンポ遅れて

厳つい風貌の男たちが詰め寄った。

周囲四方を乱交モノのAVのように囲まれるこのモテモテな状況に、

京は酷くうんざりした顔をする。


「なんだよ、サインならやらねぇぞ。」


「スク○レックスのサインなら欲しいが、貴様のサインなぞ要らん。」


「サインの話なんざどうでもいい!」


「お前はこのクラス舐めてんのかおい!」


「この人間音爆弾がよぉ!」


男たちは各々が手にした得物を京へ向けると、

教室の壁際に追いやった。

手荒い歓迎ムード。街のワルガキの間ではこんなことが流行っているのか。

全く共感出来ないノリに辟易していると、その中の一人が金属バッドを

手に携えていることに気がついた。


「お前、良いバット使ってんな。

 甲子園常連高御用達の代物じゃねーか。」


「詳しいなお前。」


「まぁそりゃ……。」


そこまで口にしながら、京は野球をしていたことを言わなかった。

気がついてしまったのだ。その事実が過去形であることに。

口ごもった京を尻目に、男が軽口を叩いた。


「いかちぃ野球選手が、高校生の時にコイツを使ってたらしくてな。

 好きな選手だったから即買いよ。

 コイツでブン殴られれば、意識諸共柵越えホームランよ。」


「柵越えだ?」


「おうよ、いい音なるぜ。」


京の中で何かが弾けた音が鳴る。

別段野球が死ぬほど好きだったかと問われれば、そこまでのモノだった。

されど、才能や努力をすれば報われるものだったため、

およそ生きてきた時間の殆どを野球に費やしてきた。

野球以外、自分には何があるのだろうか。

京はそんなことなど、今の今まで考えたこともなかった。


漠然とした恐ろしい事実と疑問を抱き苛立つ京。

そんな時目の前で軽々しくホームランを口にする無知な不良が

名門野球部で使われるブランド物のバットを、他人を傷つける

道具として使っている。

それは、苛立つ心を燃え上がらせるのに、十分なガソリンだった。


「お前にスラッガーなんざ無理だぜ。」


「あ?」


左のストレート。直球ではない。拳の方である。

ベンチプレス130㎏の筋力は伊達ではない。

京の拳をまともに喰らった男の身体は簡単に宙を舞い、

周囲のオンボロの机を巻き込みながらぶっ飛んだ。

暫く起き上がることはないだろう。


「て、テメェ!!」


「野球を舐めんじゃねぇよ。」


この言葉を皮切りに乱闘が始まった。

皮肉なことに、この台詞が最も刺さったのは京自身である。

水の入ったコップが割れれば、後は液体が流れ出るだけだ。

漏れ出した感情を全て吐き出すまで、京は止まらないだろう。


「ーーうっさいなぁ。」


この騒乱の中である男が口を開いた瞬間、Z組の教室が静まり返った。

京も頭に血は昇っていたが、やがて状況を理解すると、

静けさの元凶へ視線を向けた。


男は肩甲骨まで届く長髪を、燃え上がる炎の如く紅蓮に染めており、

三白眼の鋭い視線を丸メガネを越してこちらに向けている。

肌は女のように白く透き通っており、野球で紫外線を浴びすぎた京とは

完全に対局的な容姿をしている。

妖艶。相手が男であることは重々理解しているが、妙な美しささえ感じた。


「お前も俺とやる気か?」


まだまだ暴れたり無い。目と目があったら喧嘩で勝負と視線を投げかけた。

しかし京が口を開いた瞬間、周囲の男たちが袖をひっぱり止めに入る。


「お、おい。止めろ! 赤城あかぎさんを怒らすな。」


「教室に血の雨が降るぞ。」


「赤城ってのか、あの男は。」


名前を聞いて赤城の方を振り向くと、本人は顔を赤らめていた。


「やる気だなんて破廉恥な。」


「そういう意味じゃねぇよ!!」


ケタケタ。乾いた笑いをすると、赤城は京の目の前にやって来た。


「じゃあ僕が喧嘩をするかどうかって聞いてるの?」


「俺の機嫌を損ねると喧嘩になんぞって言ってんの。

 現に今乱闘の真っ最中だし。」


「ふーん。なるほどね。」


赤城は不意に床に転がる金属バットを拾い上げた。

京の額にシワが自然と寄り、拳に力が入る。

金属バッドを眺めるフリをしながら、赤城はその様子を確かに観察した。


「お、あんな所に茂○ 吾郎のサインが!!」


「おお!! って、○野は漫画の……。」


思わず視線をそらしたその瞬間を、赤城は見逃さなかった。

上着の下から飛び出したのは、テレビのリモコンのような黒い物体。

それが京の首筋に密着した瞬間、火花が飛び散った。


「ーーーーっっ!!??」


「スー・タン・ガン♪」


静電気の数倍大きく鋭い音が数秒の後、京は力なく倒れた。

失禁こそしていなかったが、口からはカニの如く泡を吹いており、

その威力を物語っている。


「皆もはしゃぎ過ぎないでねぇー。僕は野球ボーイよりも気分屋だよ。」


先生、後よろしくね。

どこ吹く風で、真っ赤な悪魔は教室を去っていった。




先週は仕事が忙しかったため、PCを立ち上げることなく寝る日々が続きました。

今週は少し落ち着いたので、ぼちぼち更新出来るかなぁと思っています。

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