第1話:ダサくないもん!
初投稿です。
楽しんでいただけると嬉しいです。
木々に囲まれた木造の小屋に扉が開いたことを知らせる鈴の音が響く。
「いらっしゃいませ、魔法の雑貨屋へようこそ」
驚いた様子で入り口に立つ人間を確認すると、私はお決まりのセリフで出迎える。何が起きたのかまるで分かっていない男性の顔はこの店では見慣れた光景なので、私は気にせずに笑みを深めて続けた。
「さあさあ中に入って、扉を閉めてくださいな。私とお話ししましょう?」
決して怪しい者ではありませんよ、という気持ちを込めて両手を振りながらそう促すと彼は躊躇いながら足を踏み入れた。
どうか安心してねお客さま、取って食べたりしないわ。あなたの人生にほんの少し不思議と幸運をあげるだけだから。私はありったけの笑顔を彼に向けた。
「あなたのお悩み聞かせてください」
***
私の名前はグレース・ハルフレット、18歳。メイソニア王国に仕えるハルフレット公爵家の長女だ。
王国筆頭大臣を務める父と優しくおっとりした母、6歳年下で天使のように愛らしい弟に囲まれた、幸せを絵に描いたような家族だとよく言われる。
国王からの信頼も厚く領民からも慕われている我が家ではあるが、実は誰にも言えない秘密の裏稼業が存在した。それが“魔法の雑貨屋”だ。
始まりは400年以上も昔、メイソニア王国にいた一人の魔女だと言われている。
「予言の魔女」と呼ばれた彼女は、強大な魔力と正確無比な先読みの力を持つ大陸最強の魔法使いだった。
その人間離れした力は畏怖され、親しい友人を作ることもできずに森の奥深くにたった一人で生きることを余儀なくされていた。他の魔女達からも避けられ魔力を持たない人間からは恐れられていた彼女は、日々刺激を求めて森羅万象あらゆることに手を出した。
要はめちゃくちゃ暇だったらしい……。私の持論だけど暇がありすぎると人間はろくなことを考えないのよね。
魔女は思いついてしまった。自身の魔力と予言の力を最大限に生かした傍迷惑で超高次元な暇つぶしを。
簡単に言ってしまえば、選ばれたら最後、解決するまで帰れない強制お悩み相談室を開いたのだ。
彼女の作ったルールはこうだ。
ひとつ。
悩みを持つ人間が一人きりでいるとき“悩みを解決したい”と強く願いながら扉を開けること。
開けた瞬間扉と魔女の自宅(現 雑貨屋)が繋がり、メイソニア王国内であればどこからでも強制的にお悩み相談者を拉……招待することができる。ちなみにこのシステム、広範囲探索魔法と高次元空間転移魔法を掛け合わせた超ド級の魔法が施されている。
ふたつ。
魔女は訪れた人間に予言の力で悩みを解決に導く物をひとつ授けて解決させること。
授けるものは国宝級のお宝もあればゴミと見間違えるような物まで千差万別だが、予言の力で見えた物を必ず渡すことがルールだ。例え自身がとても大切にしている物でも、予言の力は偉大で絶対。その力に従わなければならない。
みっつ。
解決の対価として相談者の魔力を3分の2いただくこと。
凝った仕様にし過ぎたためか、一人の力でこのシステムを回すには魔力使用量が多すぎて疲れたらしい。勝手に呼び出して対価がいるのかよ! と突っ込まれそうだが、魔力は2〜3日もすれば回復するし、もらった力は店の運営に回すので大目に見てほしい。
その他にも細々としたルールはあるが主なところはこの3つだ。どこもかしこも超高次元魔法をこれでもかと使って運営している、曰く付きの店であることは間違いない。
詳細な記録は残されていないけど、どうやら予言の魔女の弟子とハルフレット公爵が夫婦になったことで代々我が家がお悩み相談室を引き受けることになったそうだ。
そして私は400年前から脈々と受け継がれてきた、予言の魔女の13代目を務めてるってわけ。
こんな怪しげなことをやってはいるがこれでも公爵令嬢なので社交にマナー、一般教養とやることが目白押しでとても忙しい。ほんっとに忙しい。
魔女の力を引き継いだ10歳から週3日は公爵令嬢をお休みして予言の魔女、というか雑貨屋店主のお役目を務めてきた。
公爵令嬢4日、店主3日……あれ365日フル稼働? と疑問に思わないこともないが、店主をやっている間は社交も勉強も免除なので私にとって雑貨屋は憩いの場ともいえる。
ちなみに“魔法の雑貨屋”とは私が店主を任された時に勝手に名付けたのだけれど、とても分かりやすくて気に入っているわ。
両親からは「ダサい」「もう少し別のお名前の方がいいんじゃない?」とお小言をもらったけれど、一度決めたことを貫くのはとても素敵なことじゃないかしら?
…………ダサくはないわよわね?
読んでいただきありがとうございます。