Breaking Dawn
なんとかハロウィーンに間に合いました(大嘘)
誤字を指摘してくださった親切な方。ありがとうございます<(_ _)>
気を付けます。
バルヒェット家の中で、父も母もコゼットのことを大切にしてくれなかった。
親からなぜこんなにも毛嫌いされるのか、当時のコゼットにはわからなかった。
家族そろって社交の場へ赴く際は、父とは母は寄り添ってくれ、頭を撫でてくれた。だが、城へ戻った途端、鬱陶しそうな目をして遠ざけようとする。そうした両親の目に、コゼットは敏感だった。嫌われたくない一心で、甘えたい衝動を押し殺した。
父と母はよく喧嘩をした。
旅先で怪我をした父を献身的な看護で支えたのが母。貴族の青年と、新米ナースの娘は出会った瞬間に恋に落ちた。父は母を口説き落とし、自国へ連れ帰って結婚した。異を唱える周囲の声を無視した、衝動的な結婚であった。
それだけに熱が冷めてみれば、二人の関係はすぐに悪化。
怒鳴り合う声が城に響き、それは自室にいるコゼットの耳にも届いていた。二人が不仲であることに、身のすくむ思いだった。当時はまだ父と母を愛していた。二人が離れてしまうなんてことになったらどうしよう。不安で眠れない夜をいくつ超えたかわからない。
そしてある晩のことだった。
「失敗だったのよこの結婚は。あの子を産んだから、余計に私はここから出ていけないのよ!」
その夜は父と母の声があまりにも大きく、ついにコゼットは自室を飛び出していた。
もうやめて、そう伝えるために父と母の部屋へ向かった時、母のヒステリックな声が届いた。
直後に頬を打つ音。
「二度とそんなことは口にするな」
重い父の声だった。
父が母の頬を張ったのは、たぶんそれが最初で最後であった。母のすすり泣く声が聞こえた。
物陰に潜んでいたコゼットは慌てて踵を返し、ベッドへもぐりこんだ。今のは悪い夢であることにしようと、無理矢理に瞳を閉じて眠りを待った。
父はとても強く叩いたらしい。母の頬の赤みは消えず、しばらくは包帯で顔を覆わなければならないようだった。母の表情と声が消えてしまった。
母の顔から痕が消えたのは、ひと月も先のこと。
秋から入学するアカデミーの見学を終え、城に戻った時のことだった。馬車から降りようとした時に足を滑らせた。慌てて掴んだ車輪は荒く欠けていて、掌が深々と切れてしまった。
痛みに顔を歪ませたコゼットを母は一瞥し、さっさと城へと入ってしまう。感情のこもらない冷めた目つきが恐ろしかった。突き放された気がして、慌てて後を追った時――
「いらなかった」
背を向けたままの母が言った。
「お前なんて、いらなかった」
背中を向けたまま、落ち着き払った声で母は言った。
衝動にまかせて出た言葉ではない。心の底からそう願うような、冷たい言葉であった。戦慄したコゼットはその場から動けなくなってしまった。
幼いコゼットにとって両親は世界そのものだった。二人に否定されるのは、世界に否定されることと同義であった。
自分は誰に必要とされているのかわからなくなった。
執事もアカデミーの友達も優しくしてくれる。だがそれは、あくまで表面的なものだ。皆はバルヒェットの娘という存在を大切にし、コゼットを想ってくれているわけではない。
エドワードは優しいが、あくまで師弟の関係。親子でもなければ友とも違う。信頼はあれど、愛が生まれることはない。
心を許せる人なんていない。それがコゼットの出した答えだった。
だがノエルがいた。彼女は茨で覆ったコゼットの胸に、するりと入って来た。
そして、彼女は死んだ。
その彼女が託してくれたもの。それは夢の中で自分を慰めてくれた女性――
「コゼットさん」
その声で目が覚めた。
目を開けると、安堵のあまり涙目になっているリズがいた。
「あぁ、よかった」
私の手を強く握った反動であるのか、項垂れてへなへなと床に尻もちをついてしまっている。窓から差し込んだ朝日が、艶やかな黒髪に白い線を走らせていた。
「・・・・・・」
私はリズを見て、すぐに昨晩のことを思い出した。鍵をかけていたのに部屋に侵入し、血を吸われた。いや、今も鍵はかけていたはずだが?
リズの背後にはエドワードが立っていた。私が目を細めると、エドワードは合鍵をちらつかせている。
リズに頼まれて部屋の鍵を開けたのだろう。寝顔というのはあまり他人に見られたくないのだが。というか、勝手に開けないでもらいたい。
エドワード! 彼は私がそう叫ぶ前に、踵を返して部屋を出ていった。
「すみません、コゼットさん」
起き上がろうとした時、リズがそう言った。
恥じ入るように俯いたままである。
「昨日の夜のこと?」
「はい。昨晩は取り乱し、自分でもどうしようもなく・・・・・・わたしはあなたを傷つけて――」
そこまで言って、感情に詰まった。
「痛かったわ」
床板に膝をついているリズを見下ろし、首筋に触れてみる。噛み痕は、はっきりと残っていることが分かった。
「聞きたいことが増えちゃったじゃない。まず確認だけど、あんたはつまりその――あれでいいの?」
「はい」
何事か察したリズは顔を上げる。愁いを帯びた青い瞳が朝日に輝いている。
「私はこう呼ばれていました・・・・・・ヴァンパイア、と」
「・・・・・・そう」
「・・・・・・驚か、れないのですか?」
驚いている。驚きすぎて言葉が出てこないだけだ。
私は怪物を城に招き入れてしまったわけだ。
「ああ」
合点がいった。
それで石棺にいたのか。
リズは上目遣いで首を傾げている。
「ちょっと、いったん落ち着きたいわ。誰かいる?」
ベルを鳴らすとすぐにメイドがやってきたので、二人分の熱いお茶を頼んだ。




