Forbidden Record
ようこそお越しくださいました。
ご興味を持っていただき、大変嬉しく思います。
ずっと書いてみたかった百合吸血鬼のお話。
ハロウィーンに読むのにぴったりなダークテイストでお届けできればと。
妖しく美しく、強く美しく、清く美しく、そんな少女達が奏でる物語にしていきます。
コゼットという10歳の少女の話から始まります。
お楽しみいただければ幸いでございますm(_ _)m
小さな小さな蝋燭に、大きな灯りをともしましょう。
真っ暗闇の中に恐ろしいものが隠れてる。
小さな小さな蝋燭に、大きな灯りをともしましょう。
眠れなくても目を閉じて。家の中に入ったものを見てはいけないよ。
小さな小さな蝋燭に、大きな灯りをともしましょう。
光りは嫌なのにやってくる。森の奥からやってくる。
小さな小さな蝋燭に、大きな灯りをともしましょう。
夜の鳥と狼が見ている。ほらもう家の中に。
小さな小さな蝋燭に、大きな灯りをともしましょう。
~オーゼル街に伝わる民謡~
オーゼルと呼ばれる巨大都市があります。
そこは皆様が都市と聞いて想像されるとおりのものがございます。
数え切れないほどの大きな建物が立ち並び、その下では多くの人々が速足で歩いております。道が石畳で舗装されていますのは、日に何台もの馬車が行き交うためです。側道には最先端の照明と呼ばれるガス灯が設置されており、夜になれば満月のように夜道を照らしました。
これより記すのはこの巨大都市オーゼルで起きた、不可思議な事件譚でございます。
事件、などと申しますと、皆様の中には「物騒な話を持ち出すな」と不快に思われる方もいらっしゃることでしょう。
ですが申しあげておきます。何よりも先にご理解いただきたいのが、これはある少女と少女の恋の物語だということです。
どうか恐れずにお読みください。
少女達の邂逅。全ての始まりはそこからでございます。
コゼット・バルヒェットという少女がおりました。
彼女の家――バルヒェット家といえば、言わずと知れた大富豪でございます。バルヒェットエンタープライズの売上高は年間で兆を超えるとか。バルヒェットの総資産だけでも首都オーゼルを買い取ることは可能でしょう。それほどの富豪なのです。
当主であるバルヒェット様は北側の国の出身ですが、奥様は西側の出身でございます。ですから、娘にはコゼットという西側の国の名がつけられました。
バルヒェット邸は町外れの丘にある古城です。門を出ればなだらかな平原が続き、その先には巨大な森と湖があります。都市の喧騒が届かない明媚でのどかな場所ですが、それと同時にどこか寂しく、ある種の儚さのようなものが漂う所です。コゼットはそこで暮らしておりました。
バルヒェット家の子女として恥じぬよう、身に纏うのは全て一級品。濃緑色のロングドレス、飾りのついた純白の襟、皮製のブーツなどは一目見て洗練されたものであるとわかります。
しかし、これらを纏うコゼットは淑女らしからぬ様相でした。オーゼルに住まう貴族の淑女といえば、長く伸ばした金の髪に青い瞳といういで立ちが広く認識されておりますが、コゼットはそれらを持ち合わせておりません。
くせのある黒髪を肩に触れない程度にバッサリと切り落とし、瞳の色は他を威嚇するようなチェリーレッドでした。血筋の異なる両親に産み堕とされた混血の証が、ありありと浮かんでいたのです。加えて気の強さと隙のない性格は、どこか安閑としている他の貴族とは程遠いものでした。
コゼット・バルヒェットは、オーゼルで起きた不可思議な事件に深く関わっております。
彼女の話をいたしましょう。
・・・・・・・・・・
皇歴 1798年 首都オーゼルより3マイル離れた古城にて
コゼット・バルヒェット
私の髪を優しい手つきで撫でてくれるのは誰。胸の奥を木苺のような甘酸っぱさで満たすあなたは誰。
そよ風に葉がこすれる音がした。その音に導かれるようにして、うっすらと目を開ける。意識を取り戻したばかりの視界はおぼつかない。曇りガラスを通して世界を見るようにぼやけている。
前後不覚気味で、自分がどこにいるのか、どういった状態であるのか、すぐには判断できない。
再び風が吹いた。枝葉が風で揺れる度、間を縫って降り注ぐ陽光が、瞼の上を行き来している。大自然の作り出す点滅に目が痛い。
どうやら私は大樹の下でうたた寝をしていたらしい。枝葉が創り出す光と影のマダラ模様は、大自然の絨毯たるバミューダグラスに降り注いでいる。風の中に含まれる緑の香りが心地よい。
突然、ぼやけていた視界にぬっと手が現れた。その手は湖畔の水面を掬うようにして、ゆっくりと私の髪を撫でていった。そこではたと気づいた。あろうことか私は誰かのスカートの上に頬を預けて横になっていたらしい。
手の甲で瞳を擦って開けてみると、いくらか視界がまともになった。
そして女の人と目が合った。私を見てにっこりと微笑んでくれる。
私は微笑みを返しながら悟る。あぁまたこの夢か、と。
あなたは誰なの?
この夢は何度目だろう。
決まって私はこの人の膝の上で目を覚ます。膝の上で寝入ってしまったのであろう私を咎めず、微笑みながら髪を撫でてくれる。しなやかな指が柔らかく動き、私の頬を撫でる。胸まである美しい黒髪はお日様の光を受けてきらきらと輝き、その下にある紺碧の双眸は胸に切ない疼きが走るほどの慈愛が込められている。こんなに美しい人を、見たことがない。
どうしていつも、私の夢に現れるの?
聞きたくても声が出ない。
女の人は私をそっと抱き寄せると、額にキスをしてくれた。その瞬間、体中に安堵の熱が行き渡り、私の体は指先まで力を失う。聞きたいことがあるのに、その全てが忘却の彼方へと押し流される。何よりも穏やかな感情で満たされ、いつしか寝入ってしまう。
次に気が付くとそこは暗闇の中だ。白い羽毛布団も、飴色に磨かれた床も、今は沼の底のように黒々と見える。何のことはない、ここは真夜中に沈んだ自室であった。
女の人に話しかけようとするとキスをされ、いつもそこで目が覚める。夢の中でまた眠り、起きれば現実というのも奇妙だった。額には未だ唇の感触が残っている。
ベッドから体を起こす。古城の南東。その四階が私の部屋だ。十歳の私が一人で使うには広すぎる。
蝋燭の火は消え、カーテンを閉めた窓からは月明りも入らない。古い様式で造られた美しい机や棚も、目が慣れるまでは視界に入らない。
瞳から涙が零れ落ちた。
暗闇の恐怖からではない。あの女の人と離れてしまったことがたまらなく寂しい。このがらんとした部屋で、心が宙ぶらりんになっている気がした。溢れる感情は悲しみなのか悔しさなのか、それすらわからない。この感情のやり場を、誰からも学んでいない。このままベッドにいることができなかった。
めそめそしながら廊下に出ると、私に当てがわれている執事と出くわした。普段は涙など見せない私が泣いているので、執事は少し狼狽えているようだった。そこへ母が通りかかった。
「夜中になにをしているの、部屋へ戻りなさい」
小虫を踏み潰すかのような表情で、冷たく言い放った。
「その目はなに? 言いたいことでもあるの? 聞こえたのなら早く行って」
母を睨むでもなく、張り合うでもなく、そのまま大人しく部屋へ戻った。
女の人と別れてしまった寂しさはすっかりなりを潜め、代わりに冷たい感情が生まれた。それは静かに灯る、怒りの焔だった。ベッドの中で丸くなっていると、次第に眠くなってきた。そうして、また女の人のことを思った。そうすると、今度は温かい気持ちになった。母は私の髪をあんなふうに優しく撫でてはくれない。
・・・・・・・・・・
コゼットは母親を好きではありませんでした。母親が自分を疎ましく思っていることは知っていましたので、家の中ではなるべく近寄らないように心がけています。そんなふうだから、コゼットは女の人から愛情を注がれるという経験に乏しいのです。だからこそ、夢の中に現れる女の人に縋っていたのかもしれません。
寂しさを埋めるように、勉学にも励みました。
コゼットが通うアカデミーは、由緒ある宮廷でございました。そこでは男女の区別なく、様々な教育を受けることができました。と申しましても、たいていの場合は各々の家名に相応しい武芸や文筆、役所のしきたりなどを学んでおりました。
アカデミーでのコゼットは自ら孤独になるよう努めておりましたが、その姿がかえって目を引きました。
感情を表に出さず無言を貫くその姿は、もとより良い顔立ちのせいもあってか美しい銅版画のようでした。学友達は子供ながらにしっとりと美しいコゼットへ敬愛と憧憬を寄せておりました。もちろん話しかけてくれる子もおりました。しかし、その度に冷たい表情と、鷹のように鋭い目をもって睨むので皆逃げてしまうのです。
また、コゼットは自らの強さも誇示しました。負けず嫌いな性格故、勉強も宮廷作法も誰よりもそつなくこなし、喧嘩になれば例え相手が男の子であろうと向かっていきます。このような有様ですから、周囲の子供たちからは一線を引くべき存在であると思われてしまうのです。
コゼットが友人を作ろうとしないのには理由がございました。バルヒェットの周囲には常にその恩恵にあずかろうとする者達が蠢いております。バルヒェット家の資産が目当ての彼らは優雅で落ち着きがあり、親切にしてくれますが、一皮むけば嘘だらけなのです。娘や息子をコゼットに近寄らせ、取り入ろうとする者達までおりました。友人と思っていた者達が偽りを持って接していたと気づいてしまった時、コゼットは大いに傷つき、そして心を閉ざしてしまったのです。そんなある日のこと――
・・・・・・・・・・
「ノエル・ライプニッツです、よろしく」
アカデミーに転入生がやって来た。ノエルと名乗った少女は朗らかな口調で挨拶し、その声を聞いた私の胸に不思議な風が吹いた。青柳の木に瑞々しい生命をもたらす、春風のように心地よい声だった。
腰まで伸びる赤毛が艶やかに揺れている。癖のある黒髪を短く切り揃えている私とは違った。名家の女児は体のラインにぴったりと合わせたロングドレスの着用が一般的。私も例に漏れないが、ノエルのドレス姿の方が可愛く思えた。葡萄色のロングドレスから垣間見える首筋や手は白くて印象的だ。
初めて見る相手の特徴を即座に頭に入れて記憶しておく。そう訓練されてきた私は自然とノエルを注視していた。相手の特徴を捉えるのは、自分と何が違うのかを意識して見ればさほど困難ではない。
それにしても、綺麗な女の子だ。容姿から立ち振る舞いまで、私とはまるで正反対。そこまで考えて奇妙な違和感が脳裏をかすめた。どこかであの子を見たことがあると思うのだ。思い出そうと記憶の糸を手繰り寄せてみるも、肝心なところで霧がかかるようにぼやけてしまう。直に合って話をしたのなら絶対に覚えている。そうでないということは、どこか遠くからあの子を見ていたということになるのだが――
先生が何やら呟いて私の方を指さす。それにつられてノエルが視線を移す。私はハッとして意識を取り戻した。隣の席が空いているので、ここに座るよう先生から指示があったのだろう。
ノエルと目が合った。
彼女は微笑んで手を振ってきたが、私はツンとそっぽを向いた。ノエルがこちらへ近づいてくる。それに合わせて教室内の視線も動く。転入生とは好奇の的であり、それが可愛らしい女の子であれば注目もされるだろう。だが、教室にいる人たちの興味はもう一つある。
ノエル本人は周囲を見回しながら首を傾げている。なぜこうまで注目を浴びてしまうのか解しかねている様子だ。
コゼットの隣しか席空いてないのか
うわぁ、可愛そう
ねえ、コゼットが何分であの子を泣かせるか賭けをしない?
周囲からの下卑た囁き声はしっかりと耳に届く。可愛い転入生が、私に何をされてしまうのか注目しているというわけだ。ノエルが誰であるかという興は削がれ、彼女について考えるのはやめることにした。思い出せないのなら、その程度の子であったということだろう。
「ノエルだよ。今日からよろしくね」
手をひらひらと振りながら挨拶をするノエル。私は名乗らず、会釈をして、差し出された小さく柔らかい手を握った。
先生がいなくなると、すぐにノエルの周りには人だかりができた。休憩時間は読書をする私にとって、話し声は煩わしい。一瞥すると、学友たちはノエルを連れ、そそくさと教室の隅へ移動した。
変わり映えのない日々に降ってわいた転校生。皆の興味の対象になれば質問攻めになるのは当然だった。彼女はその全てに屈託のない澄んだ声で答えていた。活字に集中できないのは、耳に心地よい声がきちんと届くから。うん、ノエルの声は好きな部類に入る。これも記憶しておく。
「あのね、ノエル。コゼットのことは気にしないでいいよ」
学友の誰かが囁いた。その不快な声もまた耳に届いてしまう。
「コゼット? 何のこと?」
「ほら、さっき挨拶したけど無視されてたでしょ。あの子はそういう子なの。気にしたら駄目だからね」
「無視されてないよ。握手してくれた」
「お高くとまって挨拶もしなかったでしょ? バルヒェットの家の子だからって調子に乗ってるの。相手にしない方がいいわ」
「ふぅん」
どんな小声でも悪口は大きく聞こえるものだ。まあ、こうなるのは私が望んだこと。私には私の、子羊には子羊の考え方があるものだ。
ふっ、と本のページが翳った。顔を上げるとノエルが立っていた。いつの間にここへ来たのだろう。見れば先刻までノエルを取り囲んでいた学友たちは、私の方へ歩み寄ったノエルを見てポカンとしている。普通、あの話の流れでこちらへは来ないと思うのだが。
「ねえコゼット」
「なに?」
首を傾げていると、ノエルは言った。
「今日一緒に帰ろう?」
ざわっ、と辺りがどよめき、その後の教室に妙な沈黙が舞い降りた。
この子は学友たちの話を聞いていたのだろうか。
「いいでしょ? 一緒に帰――」
「いや」
私は鋭く言い放った。
アカデミーからの帰り道、石畳の上を一人で歩くのはいつも通り。私に話しかける人を遠ざけたのもいつも通り。だが、どこか釈然としない、湿っぽい気持ちに蝕まれている。
私の目を見て無警戒の笑顔を向ける度胸の持ち主。その笑顔が、断った途端に悲しみへと変わってしまった。どうしてかあの表情が消えない。心を爪で引っかかれた気分だ。
路地裏から聞こえた声に反応したのは、神経が過敏になっていたためだろうか。
そっと覗き込むと、アカデミーで同じクラスの子たちが複数に取り囲まれていた。背丈からして囲んでいるのは私たちと同年代の子供だろうが、その出で立ちと饐えた臭いでストリートチルドレンであることが伺える。路地裏は彼らの縄張りだ。ゴミ捨てや路地裏の清掃といった汚れ仕事で端金を得、レストランで廃棄された食料を物色し、迷い込んだ人から金品を奪う。そうした世界で生きる者達に世の道理や法律は通用しない。
ストリートチルドレンは五人の男の子。裸足ではなく靴を履いていて、纏うコートには穴が空いていない。追剥が当たり前の世界で身なりが良いのは、路上生活者の中でも上位に位置する証だ。それなりの修羅場をくぐった実力者達だろう。うち武器を持っているのは三人。鉄パイプと、硝子瓶。
「ほらあげるから」
「いくらでも持って行って、酷いことしないで」
囲まれているのは二人の少女。すっかり委縮して、所持金や装飾品を放っている。オーゼル街の路地裏はこの巨大都市の影。如何なる理由があろうと、容易に踏み込めばこうなることは予想できただろうに。
男の子たちの笑い声に感情がささくれ立つ。私は鞄を石畳の上に置き、感情の赴くままに声のする方へと歩いていく。
一人の少年がそれに気づき、隣にいる仲間の肩を叩く。その仲間もまた肩を叩き、私が近寄っていることを連鎖的に皆が知ることになる。「やばいコゼットだ」「どうする?」その囁きの中から、ボス各の少年が、ずいっと前に出てきた。
「なんだぁ、お前は」
相手を脅す類の低い声だった。ボスだけに度胸がある。他の男の子たちは私を見て顔を青くしているのに。
「そんなことする必要ないわよ」
「は?」
「いまお父さんがこの町に孤児院を作っているの。少なくとも五か所にね。あんた達もすぐそこに入れる、自分より弱い女の子相手によってたかって詰め寄る必要ない」
「俺たちが弱いものにしか仕掛けないと思ってるのか? これまで仲間は何回かお前にのされたらしいが、俺は違うぞ」
「今行ってくれれば何もしないわよ? 私けっこう強いけどいいの?」
「てめえっ!」
射程に入って来たのを見定め、容赦のない飛び蹴りを顔面に見舞ってやった。「ぎゃっ」という悲鳴と共に倒れ、そのまま伸びてしまった。一番大柄なボスがやられたことで、少年たちから諦めの声が上がる。「あぁ、やっぱり」「行こうぜ、コゼットに関わるとろくなことねえよ」「バルヒェットのじゃじゃ馬、死ね!」口々に喚きつつ、少年たちは倒れたボスの体を支えて去っていった。
スカートの裾を手でひと撫でし、そのまま路地裏を後にした。後ろから女の子が「ありがとう」と言ってきたが、お門違いだ。私は胸に溜まったもやもやを発散させただけ。
そうして路地に出て鞄を拾い上げたところで、
「こわーい、コゼットってばいおれんすだね」
その声にドキッとして顔を上げる。
「や」
ノエルが小首を傾げて微笑んでいた。路地に吹く黄昏時の風がノエルの髪をすり抜ける。陰気な路地裏とは異なる、少女の柔らかい香りがした。
「アカデミーで恐がられてる理由がわかったよ。それじゃ誰も寄り付かないね」
私はすぐに平常を取り戻し、無視して歩き出す。
「うわっ、ねえちょっと待ってよ」
「・・・・・・」
「ノエルね、コゼットがどうして他の人無視するのかなんとなくわかるんだけどな~」
「・・・・・・」
「有名な家の子だからでしょ? ノエルと一緒」
私が歩みを止めると、後からついてきたノエルも止まった。
「聞いたことない? ライプニッツって名前」
ライプニッツ。聞いたことはある。この世界で大多数の人が信仰する巨大宗教。その法王庁の一角として有名なのがライプニッツ枢機卿であるが。
「ノエルのパパとママ、けっこう偉い宗教の人なんだけどな。知らない?」
私が驚きの表情で振り返ると、ノエルは目を細めた。
「だからノエルにもわかる。取り入ろうと迫ってくる、心の汚い人たちのこと。コゼットも似たような経験したんじゃないかなって思って。だから他の子たちを遠ざけるんでしょ?」
彼女の声を聞くと同時に記憶が蘇った。半年前、家族で出かけた慈善パーティーでライプニッツ卿を見かけた時、その傍らに立っていたのがノエルだ。
多くの貴族が通うアカデミーでも、バルヒェット家に匹敵する家柄であると言ってよい。