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終 天国岩の風に吹かれて

 箱を開けると、まだまだ衰えを知らないピンクトルマリンの宝石が入っていた。ネックレスになったその宝石はとても美しくて、二人はそれをじっと吸い込まれるように眺めていた。


「すごいわね……。その頃からずっと持ち続けているんだ」


「はい。それを見ていると過去のことを今でも思い出すんです。逆に言うと考えすぎてしまうのかもしれません」


 彼は今思っていることを正直に話した。女性と目を合わせることはなく、ただ前の景色を見つめて。


 彼女は彼が悩んでいるのを知ると、勧めるように


「そこまで気になってしまうなら、少し手放しておくのもありだと思わない?過去ばかりを気にしていると、今なにをしたいのかも分からなくなるでしょ?その彼女を思い出すのは、なにか自分が助けを求めているとき。決心しなきゃいけないんじゃない?」


 少し考えると、彼は口を開く。


「……。確かにその通りかもしれません。この原因不明の病もその時期から気が付いたし。この宝石は、神様がなにかを教えてくれているのかもしれません」



 びゅるる。びゅるる。風が黒いコートをなびかせた。



 決心がついたよう。彼はその女性の目を見て真剣に伝える。


「どうぞ。この宝石をあなたに渡そうと思います。僕もこれ以上固執しているとなにも始まりません。あなたが教えてくれました。お互いに酷な環境の中ですが、そのなかに咲いている美しい花に出会えると信じて」


 そっと彼の手から、彼女の手に宝石が入った箱を渡す。


 どこか前までいた彼女と謎の女性は似たようなところがあったんだろう。そして彼はより強くなった。


「……。分かった。もし私が昔に戻ってその彼女を見つけたら、そっとカバンに入れといてあげる。見つからなかったら、その時はもしかして……」



 彼は立ち上がった。時計は23:00をさしていた。この町もそろそろ静かになる。飛行機の音もすっかり聞こえなくなった。



「……また、会えるといいですね」



 彼は振り返りそう言うとお辞儀をした。緑の錆びた階段へ向かう途中で空を見上げた。



 少しするとまた歩き始めて、スピードを徐々に上げて行った。




 形ではないなにかがあるはず。それを探すための人生ならば、いくらでも生きてやろう。







 足が軽くなった気がした。







《終》

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