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1 未来都市まで来てしまったようだ


 見渡す限りの悲しさを、誰がわかることでありましょうか。


 時の流れは止め処なし、心はじっと浮いたまま。


 小さな光もあるはずだ。長い命と特別に―


 ―――――――――――――――――


「変わったんだな、ここも」



 彼は咄嗟に書いた詩をカバンの中へ入れると、みしみしと壊れかけた木の柵に腕を置く。その手はかじかんでいる、手袋なんてものはなくただ赤い。そして壊れかけた時計は寂しそうに21:00をさして、街灯の横で立ったまま……。



 高台から前をじっと見始めた。



 夜の大都会。



 そこは未来らしい姿になっていた。ドローンという新たな配達手段が誕生して、せかせかと動いていたり。そしてそのドローンに目を追っていくと、なんとも巨大建築物の数々が目を覆う。曲線が綺麗に描かれて、全面ガラス張りで、らせん状で……ここは多種多様な建造物が共存している。手が届きそうだ。それほど大きく、どっしりと構えられていた。



 白色、黄色、赤色。ビルの照明が目に映った。エレベーターには白色のラインライトアップで上下に動く、窓にはまだ明日を迎えられない人々が。遠くから見るといたるところにぽつぽつ、ぽつぽつ、そしてそこから光が出ている。


「……大変そうだな」


 そっと顔を上へあげる。


 まず目に入ってくるのは赤色の輝き。高層ビルの補助灯だ。


 ゆっくりとしたスピードで、ついては消えついては消え同じパターンを繰り返す。このライトがより一層、建物を格式ばったものに仕立て上げてどっしりと重みを保っている。




 ≪グゴゴゴゴゴゴゴゴグルルルルルルルル……≫



「おっと」



 耳をすませば着陸間際の飛行機の音。ガラスドームによって音が反響している。このガラスドームには上空に大きな出入口があって、そこで飛行機が街に入ったり旅立ったりする。

そして、その飛行機の背景は巨大な月だった。唯一昔から変わらないものではないのか。

 

 平安時代のかぐや姫だってこれと同じものを見たんだ。今宵と同じ満月の夜に。


 先ほどガラスドームと言ったが、この街は昔と変わり果てたところがある。


 汚れひとつない透明なガラスのドームによってこの都市全体がすっぽり覆われているということ。これはこの街の政府によって建設が決められたことだ。有害な紫外線を守るなどと言った様々な用途に使われる。約1km上空にあるそのガラスを見ていると次第に、この世界がどれほど小さいかを知らせてくれる。悲しさだってある。檻の中へ入れられたようなそんな心境にもなる。



 ボーっとしていると、目覚めさせるように冷たい風が黒色コートをひらりとなびかせた。


「寒いなっ……あっ後ろに確か」


 そうして振り返るとまた、街並みが無限に広がり続ける。輝きは闇の美を失い、星もうばった。もうどこをみても華やかである。


「海があるはず」


 そう声を零しまた、周りを見渡す。


 ずっとその方角に目をやり探していると、見えた。いくつものビルの隙間から海が見える。船は……なかった。見えなかったのかはよくわからない。

 遠くへ行くほどぼやけて見える。だから向こうの街の光も霞んでいる。海の向こうにも大きな街はあるのか?どうだろうか。



 昔とは随分変わり果てたこの世界の姿に失望して、目を強く瞑った。



「……」



 少しの苛立ちと寂しさをこめて足を泥に踏みつけた。


 また目を瞑る彼に嫌味たらしく光る灯は、この街と調和してより一層強いものとなった。


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