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第9始 脅し

――――――幸せになりたいと思う者だけが幸せになれる。



「よし、持ってきたぞ。」

俺が氷の入った袋を受け取り、殴られた箇所に当てた。もしかしたら骨折なのかもしれないが、これが最善の選択と言えるだろう。もともと、人間はいつも最善の選択を出来る人間ではないから最善かなんてわかったもんじゃないが。

「とりあえず、部屋に寝かすぞ。」

安静に、とりあえずではあるが、部屋に連れていった。戻っていった。

「お、戻ってきたか……って、やべえんじゃねーの?そいつ。」

左目を隠した折刀が俺の方を見て、次に聖格ちゃんの方を見て、指差す。まあどうみてもヤバいというのは分かるが、安静にしておけば大丈夫だろう。

「とりあえず寝かせる。」

と、言い、俺が押し入れから布団を取るよりも先に、黄豆がそれを行った。俺としてはそちらの方がありがたい。で、寝かせ、毛布をかける。怪我というより、病気のような看護の仕方だが、正しい……よな?多分、他の奴らも何も言わないから大丈夫、という事だろう。

「うわっ……危ねぇッ……!!」

折刀が一歩、後ろに下がる。

「どうした!?」

そうか、思い出した。行美の『模声』で倉庫に穴を開けたんだった。というか、その瞬間を見ていないから少し語弊があるが。

「奴に見つかりそうになった…!!机の陰に隠れたから大丈夫だったが。」

つまり、地下への侵入は成功したという事だ。そして、既に奴の姿を見た、見ているという事だ。

「他の奴らは無事か?」

「んー、見ただけじゃわかんねーけど、縄で縛られてるだけだからまあ大丈夫なんじゃねーの?それにしても全員を運んで全員を縛る事なんて、こんな短時間で出来るはずが無い。つまりは奴、もしくは奴以外の奴の異能力ってわけだろ。」

そうか、確かにそうする時間なんてなかった。異能力だ。大人数でない限り(この場合、生徒+先生でだいたい100人くらいだから、少なくとも50人程度は必要だと思われる)、異能力で確定だろう。

異能力。この場合、どんな能力なのだろうか。ジャック犯は、多分スピーカーをジャックする能力だとかそんな感じだろう。もしかしたら、何か特殊な機械を使っているという可能性も捨てきれないが。

で、生徒達を運び、縛った異能力。例えば、瞬間移動の能力。例えば、物を自由に動かす能力。色々と考えられるが、異能力という説が崩れるという事はないだろう。後は、宿主(?)と、バットを持った男の正体が気になる。奴の仲間か?こいつらが運び、縛ったのだろうか。いや、待てよ。その場合、何で俺達がこの旅館に来るという事を知っている?そもそも、こいつらは同じ事件の犯人なのか?もしかして、違うのではないか?宿主から奴に情報が伝わったという説があるので、可能性の話ではあるが。

「あいつ、電話をかけたぞ。」

「じゃあ、内容を教えてくれ。」

「ああ。」

薩摩が、ポケットに入っていたメモ帳とペンを取り出し、すぐに書けるように構えた。

「生徒達を全員捕えました。」

「後、10人が旅館の中に入っていったので、今、出てくるのを待っています。」

と、内容をちゃんと、敬語までしっかりと伝え、それを反射とも思える速度で書いていく。

「今日中に捕らえます。それでは。」

と、終わった。メモもほぼ同時に終わった。

「つまり、宿主とバット持ちの男は無関係って事?」

風見が言う。確かに、言い方を考えると、そういうとらえ方が出来る。多分、確定だろう。

「ちょっと待て、宿主と…バット持ちの男?どういうことだ?」

ああ、そういえば、知らない者もいたんだった。簡単に説明し、理解してもらう。無関係という説は既に考えていたものの、二つの事件に巻き込まれるのは本当によしてほしい。いや、一つでも同じだが。というか、宿主とバット持ちの男の事件はもう終わったと言ってもいいだろう。目的が不明なのが気になるが、多分後で誰かが尋問してくれるだろう。行美とか、薩摩辺りが。それに、今日中、か。という事は、3日後というのは完全にフェイクという事だ。こちらが聞いているとは思っていないだろうから、今日中が正しいだろう。

「っ……、おい、あいつ今、『電話に出ないな。もしかしてこっちに向かっているのか?』って、言ったぞ。ってことは、やっぱりあいつらもグルだ!!」

「じゃあ、受付の電話が鳴ってるってことだ!!行ってくる!!」

走って受付に行ったのは、行美だった。

くそっ、推理が外れた。まあ、分かったのだから良いのだが。

「やばい、ばれた!!」

折刀が叫ぶ。つまり、見つかったのだ。だが、まだ唯の蜂としてやりすごせるのでは?いやしかし、部屋に蜂が出現したとなると、対処しないはずがないか。そりゃそうか。

「解除はするな。元来た穴を戻れ!!」

「いや、そうしたら穴があけられた事がばれる可能性が高い!!」

じゃあ、どうする?多分、奴の部屋以外の部屋がないか、それとも扉が閉じられているか、という事を考えると、戻る事も出来ない上、隠れるとしても、探される。唯ひたすらに逃げるしかない。

つまり、つまりは今、すぐにでも行くしかない。

「お前ら、戦える奴だけでも、奴の所に行くぞ!!」

と、薩摩が言う。そして、それに乗ったのは、俺と、折刀と、鉢節と、風見だ。つまり、残るのは黄豆と、藁谷と、角振と、聖格ちゃん。行美だけはまだ分からない。

「くっ、もう電話を切られた!!」

と、丁度戻ってきた行美が言う。だがしかし、今は蜂を探しているだろう。だろうから、切れたのだろう。多分、ばれたわけじゃない。

「今すぐに奴の所に行く、お前も来るか?」

「ああ。」

と、一言。

残る者達が少し心もとないとも思えるが、いざとなったら藁谷がなんとかしてくれる事を願おう。

「よし、行くぞ。」

走って、旅館を出る。少し遠くなので、行くのが大変そうだが、俺よりも、大変そうなのは折刀だろう。なにしろ走りながら蜂を操り、そして、右目で自身の視点を、左目で蜂の視点を見ているのだから、それらを同時にするのは大分、至難の業というやつだ。どのくらい大変なのかは正直分からないが、大変な事は分かる。

「もういい。蜂を解除しろ!!」

「いや、大丈夫だ。あいつ、私を見失った。暫くは隠れていられる。」

状況が分からないのが、どうにかして助かったというべきか。だが、探されているだろう。

「何か、もっと早くいけないのか?声を後ろに飛ばして加速させるとか。」

鉢節は提案したが、行美は、

「いや、駄目だ。かなり危険だ。そんなに精密な事、俺には出来ない。」

「そうかい。」


聖格ちゃんを殴った罪は重い。俺の彼女を殴った罪は重い。

――――彼女?付き合った、という事実があるが、何であんなにあっさりと?こんな時に思うのもなんだが、何故だ?そうだ。そもそも何で俺を好きになった。特に良い所なんてあるか?それなら鉢節だとか、薩摩といったいわゆるいい男がいるはずなのだが。そもそも何で彼女を好きになった?確かに、クラスでも随一と言われるほどかわいいが、何で俺は好きになった?


そして、ついた。奴のいる所、倉庫へ。ついに。先ほど行美が開けた穴がちゃんと当然あって、そこからは階段が続いていた。多分、というより、確実に、そこに奴はいる。だから、俺は覚悟を決める。

「じゃあ、俺から行くから、続いてお前らが来てくれ。」

行美が先導し、扉を開ける。よく見ると扉の下に隙間があったのでそこから蜂を入れたのだろう。扉の先は、30m四方くらいの、大分大きい部屋で、その隅、扉に近い位置に奴はいた。扉は他になく、つまり、この部屋しかここにはないということだ。

「お、お前ら、何故ここが?」

と、倉庫が割られた事にも、こちらに視界の情報が伝わる蜂が入ってきたことも、来ている事にも、気付かなかった男が、聞く。

「てめぇ、よくも修学旅行を台無しにしてくれたな!!とりあえず、1億回ほどぶっ殺す!!」

急に、血相を変えた行美が大分物騒な事を言う。今までは押さえていたのだろうが、今、それが爆発したという事だろう。まあ、それは俺も同じと言えば同じだが。

「チッ。しょうがねえ。ぶっ殺す!!」

ポケットから、ナイフを取り出し、まず戦闘の行美に向け、突く。が、そのナイフは、行美が奴の腕を掴んだことで止まった

「ぐっ…」

ナイフを器用にひっくり返し、逆持ちにした状態で行美の腕に刺す。

「ぐあっ……!!」

痛みに、一旦退くという事はせず、逆に奴を押し、倒れさせた。そこを、風見の暗器の刀で首すれすれ、少しだけかすっている状態で、床に刺す。先を少しだけだが。首からは僅かに血が垂れる。

「お前が主犯か?NOならば、誰が主犯で、どこにいるか。+情報を教えろ。」

風見が、口調を変え、奴を睨む。

「い……いわねぇ、よ………」

と、意地を張って見せてきた。

「OK」

と、言ってから、刀の角度を狭めていく。つまり、0度になれば、いや、それ以前になるが、奴の首が切断されるということだ。

「痛っっ…!!!」

首からはさらに血が流れる。これでも言わないか。

「言うか、言わないか。これが、ラストチャンス。」

それはもう、どう見ても、本気にしか見えない。冗談と、微塵も感じない程に、殺気立っていた。

「わ、分かった!!い、言うから、刀を……!!」

「いや、刀はどかさない。言えば、どかす。」

「わ、分かったから……主……主犯は、小榑煉香(おぐれれんか)……今は……どこにいるか……分からない……」

と、嘘か真か、確定は出来ないが、風見はどう判断する?

「……………、OK、もういい。殺す。」

「エエッ!!!お、おい………助けてくれるって……」

容赦なく、刀を首に突き立てる。

「や、やめ!!!」

「嘘だよ。嘘嘘。そんな訳ないじゃん。私は実に一般的に生きて、実に一般的な恋愛をする、実に一般的な女の子だよ。」

急にキャラが変わったような気がしたが、とにかく、その変わりように、その異様な演技に、全員が静まり変える。てか、異能力持ってんだから一般的ではないだろうに。

「ハア…ハア……ハア……ハア………」

よほど息がつまっていたのか、息切れが激しい。

「とりあえず、今の所はその小榑って奴の居場所も全く分からねーんだろ。流石に拷問ってのも気分が良いもんじゃねーし、とりあえず警察を呼ぶか。」

鉢節が珍しくちゃんとしたことを言った。確かに、そうだ。拷問はいけない。尋問ならまだしも、痛めつけ、吐かせるなど、最悪だ。



――――その後、警察を呼び、すぐに駆け付けた。後の事は警察に任せ、俺らの修学旅行は中止になった。奴の証言から、まだ狙われる可能性が高いと見ての事らしい。


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