第8始 二人
―――――十手前後を見渡せ。
二人?二人も?
「じゃあ二人の能力を教えてくれ。」
まず、折刀が口を開く。
「『光蜂』、光る蜂を操る能力。」
と、それだけ、かなり簡潔に説明し終え、黄色い髪をいじる。確かにそこまで説明するまでもないような、単純な能力だった。『地獄耳』も、その部類には入るが。
「俺の能力は『模声』、好きな声を出すことが出来る。コピーでも、オリジナルでも、自由に、ね。」
『光蜂』よりも使い勝手のよさそうな能力だ。と、まあ、少しこの集団の戦力が上がってきた事に少し安心したのだが、やはり、孤立した10人の中に3人も異能力者がいるという、異常な事態が起こっているのに、平静を保つのは少し困難だ。
「オーケー、じゃあ折刀。お前の能力で奴の所に行き、姿を見る事は出来るか?」
「出来る出来る。蜂の視点を左目で見れるし、距離に制限はないし、蜂が入れるだけの隙間があればいけるかもしれないし。」
さっき、単純だとか言ったが、よくよく聞くとそうでもないらしい。
「やって見せてくれ。」
「オッケー。『光蜂』」
左目に手を当て、隠した後、目の前に蜂が出現する。しかし、光っていない。
「あれ?光ってないぞ。」
「光らせる光らせないは私の自由、だから信号を出す事も出来なくはないし。」
蜂が窓から外に出て行く。
「えーと。ああ、あれか。」
少し悩んで、蜂が一直線に飛んでいく。多分、少し悩んだのは色のせいだろう。前に聞いたことがある。蜂の、というより昆虫には紫外線のレンズを通しているような、そういう色に見えるらしい。うろ覚えなので、紫外線のレンズだったか忘れたが、とにかくそういうことだ。色の見え方が違うらしい。
「よし着いた。」
と、言ってから蜂が発光し、数回点滅する。そして、倉庫の周りをまわる。つまり、入り口か隙間の有無の確認というわけだ。最初にそう言っていたが。
「……倉庫扉しかない。というより、地下に入る階段か何かが多分倉庫の中に行かないとない可能性が高い。」
「倉庫の中にあるよ、そこから通じて音を拾った。」
「じゃあ私が行った意味がねーじゃねーか。」
自身の能力が行った事を自分という事に少しばかり驚いたが、まあ関係ない。
「意味はあるよ。私の能力だと視る事は出来ないし、中へ入るための隙間の大きさが多分、蜂よりも小さな穴だったんだと思うけど。」
「そうか。なら、しょうがないっちゃしょうがないか。」
「風見、能力は解除するな。念のため、奴の動きを待っていてくれ。」
「うん。分かった。」
実際、異能力を使い続けるというのは体に負担がかかったりだとかしないのだろうか。例えば、能力によってはそういった負荷があったりがあるのだろうか。まあ、風見の反応からすると、多分大丈夫なのだろう。
「というか、まだ警察はこないのか?」
鉢節が言う。確かに、あまり経ったようには感じないがよく考えたら20分経っている。もう警察へ連絡してくれているだろうし、さすがに遅すぎるんじゃないか?本当に機能しているのか?いや、していない。確認しに行かなければならないだろう。
「俺、宿主に聞いてくる。」
といって、俺は扉を開く。
「あ、私も行くよ。」
聖格ちゃんが一緒に行くと言い出してくれた。何となく、幾つか恨みの視線が来たような気がするが気にせず向かう。
「聖格ちゃん、どう思う?」
「どうって、何が?」
「警察が全然来ないって事に。」
「ああ、うん。確かに来ないっちゃ来ないけど、でも私、一回も警察呼んだことないし、どのくらいの速さで普通は来るのか分からないんだけど、どの位で来るの?」
そりゃそうか。という俺は一回だけ呼んだことがある。その時は大体5分で来た。だから、遅いと思うのは必然的だ。
「五分位かな。例えば、殺人鬼に追われて、隠れているときに、警察を呼んで20分も待たされるのを考えてみてよ。」
「……なるほど、ね。」
そして、受付の所まで来たので、宿主に訪ねる。
「すいません、警察がまだ全然来ないようなんですけど、本当に呼びましたか?」
ちょっと嫌味な感じで言ってしまったかと、一瞬口を押さえそうになったが、呼んでいない可能性もある為、一旦こらえた。
「はい……呼びましたが。」
「そうですか。」
といって、しょうがなく戻ろうとした、したのだが、口を押さえられ、後ろへ引き込まれた。
「ん~!!ん~!!」
「とっくん!?」
必死になって声を出すと、聖格ちゃんが気付き(引き込まれた時点で気付いていたのかもしれないが)、そして手を引っ張り、俺を助けに入ってくれた。
「っ!!」
ドゴッッ!!と、鈍い音がし、そのまま聖格ちゃんが俺の上に倒れ込んだ。その後ろには、バットを持った男が立っていて、こちらをじっと、睨みつけていた。そのまま、後ろに連れていかれる。何故か力が入らない。
「や……めろ………」
声がちゃんと響いたのか分からない。
「うぐっ!!」
次の瞬間、後ろの宿主の腕が解かれ、俺と聖格ちゃん共々床に倒れ落ちる。
「『地獄耳』、なめないでね。」
風見だ。風見が、血がついた刀を構えている。そうか、『地獄耳』か。そして風見の後ろには藁谷と、鉢節と、行美が立っていた。
「くっ、おいお前、逃げるぞ!!」
「ああ…」
宿主がさっきと明らかに違う口調で、バット持ちの男と共に旅館を出て行く。
「大丈夫。まだ捕えてる。」
「オーケー。じゃあ、次は俺が。」
そう言って、行美は外に出て、奴ら二人の方を向き、口を開く。
「ヒュッゥッッ!!」
それは、あまり大きくもない小さめの声、というより、吐息ともいえる声だった。だが、その先、視線の方向、つまりあの二人の方だ。二人が倒れている。突然に、だ。そうだ、行美がさっき言っていた能力だ。声を操ると言っていたが、この能力はどういう事なのだろうか。確か名は―――
「『模声』、声を一直線に飛ばして、あいつらにだけ大音量で聞こえるように仕向けた。」
「よくやった!はやくあいつらを拘束するぞ。」
そして、受付口に縄で拘束しておく。
「危ないな。二人とも、大丈夫だったか?」
「いや、聖格ちゃんが……!!」
聖格ちゃんは俺と違って(俺も何か嗅がされたのかもしれないが)頭をバットで殴られた。それも、多分大分本気で殴られていたように見えた。
「鉢節君!!どこかに冷凍庫があると思うから、そこから氷を袋に入れて持ってきて!!」
風見が受付口奥にある厨房を指差し、鉢節が走って厨房に入る。
俺はその時に、ただ聖格ちゃんの手を握っているだけだった。
ただ、奴らは本当に何だ?ジャック犯の仲間か?流石に二重で事件が起きるのだけは勘弁してくれ。
「そうだ、行美。お前の能力で奴を攻撃する事は出来ないのか?」
「どうだろうな、多分無理だろう。声質やらなんやらは結構細かく変えられるが、声の方向は大雑把にしか変えられない。だから、今あいつを攻撃するのに、俺の能力は約に立たないだろう。」
「なら、倉庫に声を当てて、壊すとかはできないのか?」
「破壊、か。声を破壊に使った事なんてないし、使う気もなかったし、使いたくなかったけど、しょうがない。非常時だ。やってみよう。成功するかは分からんが」
すぐさま行美だけが部屋に戻っていく。今部屋にいるのは黄豆と薩摩と角振と折刀だ。まあ多分大丈夫だろう。何かあっても多分。こちらには俺と聖格ちゃんと鉢節と風見と藁谷。そして間に行美。つまりは一時的に半分に分断されることになる。